59 悪役令嬢と貴族交流
会場に入ってからは、お父様と一緒に国王陛下とカイルに挨拶に行った。
「国王陛下、第一王子殿下、お目にかかれて光栄です」
カイルには結構な頻度で合っているけど、私がカーテシーをすると
「久しく見ないうちに立派な淑女になって。フレッドが心配する気持ちもよく分かる」
お父様よりも年上に見えるホワイトブロンドにアメジストの瞳の男性が私とお父様を見て笑っている。彼こそが、イリース王国国王。マクシミリアン=エヴァン=アルフォード国王陛下だ。
髪と瞳の色で血縁と分かるが、端正な顔立ちのカイルと違い、強面というか渋い感じの顔立ちだ。
「カイルも頑張らないとな」
国王陛下がカイルの背中を叩く。カイルは困ったように笑っている。
挨拶を済ませると、いよいよファーストダンスの時間だ。ダンスも当然ながらお父様と踊った。お父様とは練習をしていなかったが、お父様のフォローもあって完璧とまではいかないがそれなりに上手に踊れたはずだ。
「お父様はダンスがお上手なんですね」
社交界には顔を出してはいても、母上が参加しない限りは踊ることはないだろうし…
「練習したんだよ。可愛いパトリシアに恥をかかせるわけにはいかないからね」
練習…ただでさえ宰相に領主に忙しいお父様が、私のために…
「…お父様」
「どうしたの?」
伝えたいことは伝えられるときに伝えておかないと後悔することになる。
「お父様ありがとう。お父様の娘になれて本当に幸せです」
お父様は一瞬目を見開くも、穏やかな笑みを浮かべ私を抱きしめてくれた。
「僕の娘はこんなに立派に育って…」
お父様はズビズビと鼻を啜り、目には涙を浮かべている。
「…お父様」
私はハンカチを渡そうとしたが、お父様は私の肩を軽く叩き
「僕は顔を洗ってくるから、楽しんでおいで」
と言って去っていった。
どうしよう、一人になってしまった。とりあえず仲良くなれそうな女の子を見つけないと。
「あの、パトリシア様…」
突然声をかけられ条件反射で「はい」と返事をする。そこには私と同い年ぐらいの令息がいた。毎度のことながら、公爵家と繋がりを持ちたいだけの人か…面倒だなと考えていると
「トリシャちゃん、チョコレートを貰ってきたから一緒に食べよ」
ミシェルがチョコレートを乗せたお皿を持ってやって来た。
「ミシェル、ごめんなさ…」
私はミシェルが来てくれたことにホッとして、声をかけてきた令息に謝罪を入れようとしたが、振り返ると誰もいなかった。
「トリシャちゃんどうしたの?」
ミシェルが不思議そうな顔で私を見る。気の所為だったのかな?
「ううん、なんでもないわ」
「トリシャちゃん、その扇使ってくれてるんだね」
ミシェルから貰った扇はデザインもドレスに合っているから持ってきていた。ミシェルは嬉しそうにニコニコと笑っている。自分で選んでプレゼントしたものを使ってもらえるのは嬉しいよね。
「そうだ、チョコレート。トリシャちゃんどうぞ」
お皿を私に差し出してくれたから、一粒貰って口に入れる。すごく美味しい…前にカイルから貰ったものには負けるけど、一粒数百円以上しそうな美味しさだ。気づくと、一粒…もう一粒と手を伸ばしてしまう。
「ふふ、トリシャちゃん可愛いね。もう少し貰ってくる?」
しまった、食い意地を張りすぎたかな。しかも一緒に食べようと持ってきてくれたのに私が沢山食べてしまった。
「ごめんなさい、美味しくてつい。ミシェルも食べて」
私は持っていた一粒をミシェルの口に運ぶ。
「本当だとても美味しいね」
ミシェルもチョコレートの美味しさで上機嫌だ。
「僕、お皿返してくるね」
ミシェルを見送ると、私はまた一人になってしまった。一緒にお皿を返しにいけばよかったと後悔する。
「パトリシア様、よろしければ…」
私は先程とは違う令息に声をかけらるも、
「パトリシア嬢、フローレス公爵様が呼んでいましたよ」
エリオットが来てくれたおかげで、令息も何処かへ行ってしまった。
「パトリシア嬢は相変わらず人気者ですね」
エリオットが冗談っぽく言った。エリオットは気づいてないようだが、今のエリオットは何人かの令嬢に熱い視線を向けられている。
「あら、そういうエリオット令息もご令嬢の注目の的ですよ」
私も冗談っぽく言うと、エリオットは目を細めて笑った。
「やっぱり、いつも通りがいいね…パトリシア」
「そうね、エリオット」
「そういえば、令嬢と友達になるって言ってたけどできた?」
完全に忘れてた。ミシェルとエリオットに会えて安心して、後は帰るだけだと思ってた。
「忘れてたんだ」
「…違うわ、エリオットとミシェルに会えて満足してしまってただけで…」
私が誤魔化すも、エリオットは呆れたようにため息をつく
「はいはい、ほらあそこに令嬢が集まってるよ。行っておいで」
私はエリオットに背中を押され、令嬢達が集まっているところへ向かった。




