57 悪役令嬢のドレス
社交界デビューまで数ヶ月、準備は滞りなく進んでいる。それでも忙しいものは忙しい。
「みんなは忙しくないの?」
エリオット達は頻度は少なくなったものの、二週間に一、ニ回は来ている。
「まあ、パトリシアやカイルほどは忙しくないよ」
そっか、社交界デビューと言っても主役は女性みたいだしね。エリオットとミシェルはとっくに社交界に参加できるのに、私がデビューするのを待ってくれてるし…
あれ?今エリオットがカイルって言った?
「いつの間にカイル様を呼び捨てに?」
「私と親しいと分かれば、周りの貴族達の目も変わるからね」
そっか、エリオットは子供のとき、お茶会とかで酷い目に遭っていたって話していたものね。なんだかんだカイルはエリオットにも優しいんだな。
「ちなみに僕は、親しいと思われたくないから、カイル様呼びのままだよ」
ミシェルは無邪気に笑っているが、その後ろでカイルは怖い顔をしている。
そういえば、私はカイルと婚約していることは公言してないから親しそうにしているとまずいよね。
「…王太子殿下」
「ん?パトリシア今何って言ったの?」
「私は社交界ではカイル様をそうお呼びした方が良いのかなと…」
他に良い呼び方があるのかな?第一王子のほうが良かったのか?
「ダメだよ、そんな他人みたいな呼び方は」
カイルはまた怖い顔をしている。
「カイル第一王子の方が良いですか?」
「そういうことではなくて、私とパトリシアは婚約しているんだよ。後々お披露目パーティーとかもあるから、少しぐらい匂わせてても良いと思うんだけど…」
カイルは怖い顔から少しずつ拗ねた子供のような顔をしている。匂わせるってどういう意味なんだろう。
「俺もパトリシアのことは、フローレス公女様とかパトリシア嬢って呼んだほうが良いのかな」
仲の良い友達に、エリオットに急に他人みたいに呼ばれるのか…
「それは…寂しいからやだ」
私がそう言うと、エリオットは目を細めて、「確かに」と笑った。
「僕はトリシャちゃんのこと、そんなふうに呼ばないから大丈夫だよ」
ミシェルが私の手を握る。嬉しいけど、それはそれで大丈夫なのかな?
「婚約者の私より親しそうなのは感心しないかな」
カイルがミシェルの肩に手を置いたが、ミシェルは払い除けた。一応相手は一国の王子なのに、肝が据わっているな。
「そんなことより、トリシャちゃんドレス決まった?」
「お父様達が張り切って選んでくれたのだけど、まだどんな仕上がりになるかは分からなくて…」
採寸で呼ばれることはあれど、他の打ち合わせは私以外で盛り上がっていて蚊帳の外状態だ。
「なるべく地味なデザインが良いんだけど…」
「地味なドレスでもパトリシアは目立つと思うよ」
そっか、公爵令嬢が地味なドレスを着ていたら悪目立ちするのか
「そうだね、素材が良いからね」
なるほど、地味なドレスでも良い生地を使っていたら目立つのか…
「トリシャちゃんのドレス姿楽しみだなぁ」
「ドレスに着られないように頑張るわね」
「ところで、アクセサリーとかは決まった?私からプレゼントさせてほしいな」
アクセサリーもお父様達が準備を進めていたような…
「ドレスに合わせて準備を進めているみたいなので、大丈夫ですよ」
「そっか…」
もしかして、カイルの機嫌を損ねさせてしまったかな。でも誕生日プレゼントで貰ったイヤリングもあるし、これ以上貰うわけにはいかないから
「カイル様から戴いたイヤリング気に入っているんですよ」
ダイヤモンドは魔除けやお守りになると、エレノアから教えてもらってから常に着けるようにしている
「本当?嬉しいよ」
「でも、当日はドレスに合わせたアクセサリーを着けるんでしょ」
機嫌が戻りつつあったカイルがミシェルの言葉でまた不機嫌になってしまった。どうにか話題を変えないと…
「ドレスの色とかもまだ分からないの?」
「「深い青だよ」」
エリオットの質問に何故か、カイルとミシェルが答える。あれ、そもそも何で二人が知っているんだ?
「いや、何で二人が知っているの」
私と同じことを思ったのかエリオットが不思議そうにしている。
「この前ドレスを借りたとき見なかったの?」
「トリシャちゃんにぴったりな素敵な色だったよ」
ドレスを借りたとき?あのときのあれって私のドレスを仕立てている人から借りてたんだ。ってか、よく貸してくれたな。
「そんな当然のように言われても…」
「トリシャちゃんはやっぱり青が似合うよね」
言われてみれば、青いドレスを着ることが多いな。私の好みというわけではないけど、誰かに似合うって言ってもらえるのは純粋に嬉しいな。
「ありがとう、生地はアリシアが選んでくれたのよ」
アリシアは真剣に生地を選んでくれていた、どんな仕上がりになるかは分からないけど、楽しみだ。




