56 悪役令嬢と不思議なお茶会
ダンスにマナーと忙しくなってきたが、薬学の勉強会は今までと変わらずに行われている。私はともかく、カイル達も忙しいはずなのに
「パトリシアは誰にエスコートをしてもらうのかな?」
「お父様にお願いしました」
カイルに聞かれて、普通に答えてしまったが何でそんな事を聞いてきたんだろう。
「そう良かった」
もしかしたら、エスコートしてくれる人がいないかもと心配してくれたのかな?
「同い年の女の子友達が欲しいな」
もちろん、エレノアやエリーゼと話すのは楽しいが社交界デビューに向けて相談できる人が欲しい。
「社交界デビューのときに作れば良いよ」
エリオットは薬草に水をやりながら言った。それでは遅いけど、まあ仕方ない。
「でも、突然どうしたの」
「だって、社交界の場では気軽にエリオット達とお話できないでしょ」
私は絶対に孤立する、絶対と言えるほどの自信がある。
「同い年の女の子が周りにいないから上手く話せるか不安…」
私が呟いた言葉を拾ってくれたのか、カイルは
「それならいい考えがあるよ」
と言って立ち上がり、エリオットを連れて何処かへ行ってしまった。
「か…可愛い、エリオット可愛いわ」
エリオットは何故か女装をしてる。ウェーブがかったロングヘアのウィッグをつけ、ラベンダーカラーのドレスを着ている。美人な女性が男顔の人が多いのがなんとなく分かった気がする。美形な男性は女装しても似合う。
「嬉しくない」
エリオットはドレスを掴み、プルプルと震えている。
「これで、女の子と話す練習ができるね」
カイルは満面の笑みだ。
私達は近くのガーデンテーブルに移り、練習を始めた。
「そういえば、この前話してた薬草なんだけど育ちが悪いのがあって」
栄養が行き届いていないのか、肥料を足してみたりもしたけど育ちが悪い。
「そういうのは間引きはした方が良いよ」
「なるほどありがとう、流石エリオット」
って、これじゃあいつもの会話と変わらない。
「ご令嬢同士の会話ではなくて、いつものエリオットとの会話だね」
「俺が言うのもなんだけど、他の貴族の前でそういう話はしない方が良いよ」
二人に苦笑されてしまった。
「普段エレノア達とはどんな話をしているの?」
基本的にエレノア達が話を振ってくれるから困らないんだよね。それで今困ってるけど…
「うーん、そうですね。好きな異性のタイプとか?あとは流行りのスイーツの話とか」
「へぇ、じゃあ好きな異性のタイプの話をしようよ」
アリシアがいないのにそんな事を聞いてどうするんだろう。なぜかカイルも椅子に座ってニコニコしている。
「カイル様は男性だからダメでしょ」
エリオットは先程まで恥ずかしがっていたのに、数分で慣れたのかスンっとしている。
「仕方ないね。少し待っていて」
そう言ってカイルは何処かへ行ってしまった。
「お待たせ」
カイルまで女装をして来た。ストレートのロングヘアのウィッグにブルーのドレスを着ている。
「…綺麗」
絵画のような美しさ、まあ女装してなくても綺麗な顔だけど
「ありがとう。でもパトリシアには負けるよ」
カイルが私の髪を触る。悔しいけどドキッとしてしまった。
「パトリシアの好きな異性のタイプ聞きたいな。ね、エリー」
「誰がエリーだよ」
タイプって言っても…まあ、あくまで練習だものね適当に答えればいいか
「…年上とか?」
「へぇ、それってもしかして護衛騎士様のこと?」
深堀りしてくるの?何も考えてなかった。
「ちょっと待ってください。それっぽい受け答えを考えるので」
「それっぽい受け答えって?」
「女の子が盛り上がりそうな受け答え…」
「じゃあ、年上がタイプって言うのも嘘?」
「…はい」
「パトリシアは仲良くなりたい子にそんな適当なこと言うの?」
何故か私はカイルに叱られている。女装しているからか、いつにも増してに圧がすごい。
「エリーがお手本を見せてくれるって。ほら、やりなよ」
何で俺がという顔をしていたが、私の期待の眼差しに応えてくれた。
「……気が会う?というか一緒にいて楽しい子」
エリオットは顔を真っ赤にしている。なるほど、私には恥じらいが足りないのか。
「私は、優しくて一生懸命で、思いやりのある子かな」
カイルもすごいな恋する乙女って感じがする。相手はアリシアの事だろうけど
「はい、パトリシアも」
「……私だけを一途に思ってくれる人」
自分言って恥ずかしくなってきた。
「そっか、一途な人が好きなんだ」
カイルは上機嫌のようで頬杖をつきながらニコニコとしている。あ、でも今すごく恋バナしてる感じ。
「トリシャちゃん遅くなってごめ…え?何してるの」
遅れてくる予定だった、ミシェルが到着したようだ。
「これには理由が」
エリオットがオロオロとしていると、カイルがツカツカとミシェルに近づき、そのままミシェルを連れて行った。
戻って来たミシェルはふわふわとしたミディアムヘアのウィッグにグレーのドレスを着てる。
私より少し小さかった背は伸びたものの、顔付きはまだ幼いため大変可愛らしい。
「ミシェルすごく可愛いわよ」
「トリシャちゃん恥ずかしいよ」
ミシェルが私に駆け寄り、抱きついてきた。来て早々に女装させられたのは可哀想だな。ミシェルの背中を撫でる。
「近すぎるよ」
カイルがミシェルを引き剥がす。
「女の子同士だから良いんだもん」
ミシェルは頬を膨らまして、私の腕に掴まる。あざとい、下手をしたらその辺の女の子よりも可愛い。私も思わず顔が緩んでしまい、ミシェルの頭を撫でる。
「パトリシアは、私のこと綺麗って言ってくれたよね」
カイルはまた私の髪を触る。
「トリシャちゃん、僕のほうが可愛いよね」
ミシェルが私の腕を引く。
エリオットに目線で助けを求めると、ため息をつきつつも来てくれた。
「わっ…」
エリオットはドレスの裾を踏み転びそうになっている。
「大丈夫?」
「うん、でもエスコートが必要な理由が分かった気がする」
「そろそろ着替えたほうが良いわね。私がエスコートしてあげる」
エリオットは特にエリーゼに見られたらまずいだろうし早く着替えさせてあげないと。私はエリオットに手を差し出す。
「エリオットは私がエスコートするから大丈夫だよ」
「うん、トリシャちゃんは気にしなくていいよ」
カイルとミシェルがエリオットの腕を掴み、着替えに行ってしまった。
何も学びを得れなかったような気がする。こんなんで無事に社交界デビューできるのかな?




