54 悪役令嬢と騎士ダリル
私に新たに二人の侍女ができて、数日経った。天真爛漫なマリーと無表情なレーネ。タイプの違う二人だが、きっと優秀な侍女になるだろう。
そんなことを考えながら、自室で本を読んでいると、レーネが花瓶の水を替えて戻ってきた。
テーブルに置こうとしたが、手を滑らせたのかガシャンと音を立てて割れてしまった。
「申し訳ありません」
レーネが慌てて頭を下げる。私は少し水がかかっただけで済んだが、レーネの足元には割れた花瓶の破片が散らばっている。
「大丈夫よ、それより怪我はない」
「…はい、大丈夫です」
レーネは素手で破片を片付けようとした。
「だめよ、レーネはそこでじっとしていて」
私は部屋から出ると丁度アンナがこちらへ向かってくるのを見つけた。
「アンナ、ごめんなさい。ほうきとちりとりを持ってきてもらえる?」
私がそういうと、アンナに事情を聞かれた。
「花瓶を割ってしまって」
それだけ伝えるとアンナはすぐに掃除用具を取りに行った。
「ありがとうアンナ」
アンナはテキパキと破片を片付け、床を拭いてくれた。
「レーネ、念のため怪我がないか診ましょうか」
「いえ、大丈夫です。それよりお召し物が」
レーネは私のスカートに目をやる。
「これぐらいなら今日は天気が良いから外に出ればすぐに乾くわ」
私が笑って見せる。普段は淡々と仕事をこなすレーネが失敗をしただけでシュンとしている。
「私は少し散歩に行くから」
私は部屋を後にする。落ち込んでいるときに私がいると気が休まらないだろうから
私は一人で庭を散歩している。本当に気持ちが良いぐらいの快晴だ。見慣れた庭だが、一人で来ることはあまりない。
「静かだなぁ」
なんて呟いたのも束の間、走るとは違う、急いでいるような足音が聞こえてきた。
「パトリシア様」
足音の正体はダリルだった。いつもの訓練着と違い、騎士団の制服を身に纏っていた。
「どうかしたの?そんなに急いで」
顔に汗が垂れていたので、私はハンカチを取り出し拭いてあげた。
「な、ハンカチが汚れてしまいますよ」
ダリルが背中を仰け反る。
「ふふ、一生懸命頑張った人の汗を汚いだなんて思わないわよ」
それにしても、騎士団の制服ってカッコいいな。白を基調とした上着とスラックス。銀色の装飾に、フローレス家の紋章がついている。おまけにマントまで
「制服を貰ったのね。良く似合っているわ、すごくカッコいい」
ダリルはカッコいいと言う言葉に照れているのか顔を隠している。
「でも、どうしてここに?」
「パトリシア様に伝えたい事がありまして」
顔を隠していた手をバッと外し、真剣な顔している。
「無事にランドルフ隊長、そして騎士団長からも認めていただき、パトリシア様をお護りするよう命じられました」
入団して一年も経ってないのに…それだけ実力が備わっていたんだ。
「ありがとう、本当に良かった」
私はダリルの手を握る。この手が悪意ある人間よって血で染められることはないんだ。
「これで名実ともに貴方の騎士です」
ダリルは私に手を握られたまま跪いた。
「一つお願いがあるんです」
じっと見つめられる。
「ええ、私にできることなら」
私がそういうと、ダリルの手は離れ、腰に下げていた剣を取り私に差し出してきた。
「叙任式をして頂きたくて」
叙任式って見たことないんだけど…あ、アリシアと読んでいた『お姫様と騎士』みたいな話でそういうシーンがあったとような。
確か…
「ダリル=ヨルク、貴方は今この時私の騎士となり、私を護る剣となりなさい」
ダリルから受け取った剣で、ダリル肩をポンポンと叩く。
「パトリシア様、おれ…じゃなかった、私は貴方の剣となり、この身に代えても貴方をお護りすることを誓います」
「ふふ、なんか恥ずかしいわね」
私は気恥ずかしくなり、笑うしかなかった。
「俺の言葉に嘘偽りはありませんよ」
ダリルは照れたように頭を搔く。
「本当はパトリシア様の誕生日までになれたら良かったんですけど」
「どうして?」
誕生日プレゼントみたいな意味なのかな?でも、騎士団のみんなから花束は貰ってるし
「パトリシア様の誕生日に護衛騎士になれたら、パトリシア様も俺が騎士になった日を覚えていてくれるかなって」
記念日とか気にするタイプなんだ、ちょっと可愛いかも
「ふふ、忘れないわよ」
でも、小説のように私のために死なれたくはないな。
小説のダリルは、パトリシアの依頼でアリシアを殺そうとしたことを言わなかった。どんな拷問を受けても…
だから、護衛騎士になってもらって悪いけど、そう簡単に守られるわけにはいかない。私は守ってもらうだけじゃダメだ。




