53 悪役令嬢と侍女
誕生日会が終わり一週間、私はお父様に呼ばれ書斎にいる。
「お父様、お話って何ですか?」
「パトリシアに新しく侍女をつけようと思ってね」
侍女?アンナがいるし、他にも侍女は何人かいるけど。それに、アリシアとセシルもお付の侍女は一人なのに
「でもどうして急に?」
「パトリシアはそのままでも充分可愛いんだけど、これから社交界デビューをしたらおめかしすることが増えるだろうし、お付の侍女は多いに越したことはないと思ってね」
なるほど、アンナの負担を考えたら多いほうが良いな。
「実は僕の方で決めてはいるんだけど…呼んでも良いかな?」
つけようと思ってるって言ってたけど、すでには雇ってたんだ。
私が頷くとお父様が扉の方に
「入っておいで」
と言った。
扉が開き、五人の侍女達が入ってきた。
「彼女達には、今日から交代で君のお世話をしてもらう。そして二週間後、二人だけ選んでもらうよ」
五人のうち二人か、自分で選ぶのはちょっと…選ばれなかった子の事を考えると…
「君が選ばなかった三人もここで働くことには変わりないから、深く考えなくても大丈夫だよ」
考えていることを言い当てられてびっくりしていると、お父様に頭を撫でられた。
「ゆっくり決めなさい」
それから、侍女達が私のお世話をしに来た。侍女とはいえ、みんな私と対して年の変わらない子達だった。本来なら侍女として経験がある人をつけるものじゃないのかな?と思いつつ、ダリルの件もあるので何も言えない。
「パトリシア様のお付になりたかったのに残念です」
「公爵様がお決めになった事だから仕方ないわよ」
侍女達が話しているのが聞こえる。今の私には陰口を言う侍女はいないのだと安心する。小説だとアンナ以外の侍女はパトリシアを厄介者扱いしていたからね。
「パトリシア様、御髪を梳かしますね」
この子はマリー。暗めの茶髪に青い瞳の小柄な子。彼女はフローレス領にある孤児院でお父様に恩を受け、侍女になったそうだ。孤児院で生活していたからか、水仕事には慣れているし小さな子供達の面倒を見ていたようで、髪を梳かすのも上手だ。年齢は私より3つ上の17歳。
「ええ、お願い」
「パトリシア様の髪はお綺麗ですね」
マリーはゆっくりとブラシを通していく。
「アンナの手入れが上手なのよ」
私は梳かすだけでも良いと思っているが、アンナはオイルをつけてくれ入念に手入れをしてくれる。
「アンナさんに負けないぐらい私も頑張りますね」
一人目はマリーに決めた。
「お嬢様、花瓶の水を替えておきました」
この子はレーネ。オリーブグリーンの髪に茶色い瞳の、女性にしてはやや背の高い子。彼女は私より2つ年上だが、侍女の経験があるようで私が何も言う前にテキパキと身の回りのことをこなしてくれる。
「ありがとう。今日はもう大丈夫よ」
私がそう言っても、扉の前で立っている。
真面目な性格なんだろうな。仕方ない
「じゃあ、お茶を淹れてもらおうかしら」
「かしこまりました」
二人目はレーネに決めた。
他の三人も頑張ってはくれているから少し心苦しいけど、お父様に伝えに行った。
「マリー、レーネ改めてよろしくね」
「パトリシア様の侍女になれて嬉しいです」
マリーはニコニコと嬉しそうにしている。
「選んでいただき光栄です」
レーネは表情は変わらず、淡々と話す。
「二人にもこれを渡しておくわね」
私はアンナはもちろん、他の侍女達にも渡している。手荒れに効く自作した塗り薬を渡した。
「パトリシア様、こちらは?」
「他の侍女達にも渡しているんだけど、手荒れに効く薬よ。二人とも手が荒れているみたいだから」
「ありがとうございます」
「なくなったらいつでも言って、すぐに作るから」
「お嬢様が作っていらしゃるんですか!?」
表情の変わりないレーネが驚いている。
「簡単なものしか作れないんだけどね。あ、効果はちゃんと試してから渡してるから大丈夫よ」
レシピ通り作ってはいるけど、念のため自分で試してる。
「いえ、そういうことではなくて…何故お嬢様が薬を」
確かに、普通そこが気になるよね。なんて説明しようかな
「薬学に興味があって、勉強しているうちに作ってみたくなったの」
「そう…ですか」
レーネは腑に落ちないのか、不思議そうな顔をしている。そりゃあ、貴族の令嬢が薬を作ってるなんて変な話だよね。
「パトリシア様は本当に多才な方なんですね」
マリーは特に不思議に思ってないようで、ニコニコとしている。
二人とも私の侍女になったのだから、私が平民になったときに二人が困らないように色々準備をしておかないと。




