セシルの甘い誘惑
遅かった…アリシアがいるからと油断していたのもあるが、あのとき、すぐにカイル様の後を追っていれば……
僕が来て、少ししたらアリシアが起きて、カイル様も帰っていった。頭に花冠を乗せたまま。
カイル様は眠るパトリシアの指輪のサイズを測っていた。公の場でプロポーズなんてしたものなら、断ることなんてできるはずがない。
いや、カイル様は公の場でなく二人きりになった時に…という可能性もある。
どちらにしても、指輪を作ろうとしていることには変わりない。
一体どうしたら……
「姉さん、いる?」
ここ最近、セシルは毎日の私の部屋にやって来る。
「お茶とケーキを用意したから、部屋に入ってもいい?」
ケーキや焼菓子を持って……
「ありがとう。でも、毎日持ってこなくても良いのよ。」
「ううん、僕が好きでやってることだから気にしないで」
セシルは楽しそうに、お茶の用意を始めた。
「はい、パトリシアの好きそうなケーキだよ。全部一人で食べて良いよ。」
私の前には、三つのケーキと焼菓子が並べられた。
数日前はケーキが一つと、焼菓子少しだったのに日に日に量が増えている。
それに…
『このクッション、ふかふかで生地も良いものを使っているんだって、良かったら使って』
『パトリシアが、好きそうな本を持ってきたんだ』
とお菓子だけではない。
動いてない時間のほうが多い。
「セシル、流石にこの量は…」
絶対に太る…いや、もうすでに太り始めている気がする。
「姉さん、最近疲れているでしょ?疲れたときには甘いものが一番だから。」
何故、ここで『姉さん』と呼ぶんだろう。そんな風に言われたら、断れない。
「でも、最近太ってきたような気がして……半分こにしない?」
「太った?本当に?」
セシルは私に近づいて、頬をつまんできた。しかも、何故か嬉しそうに…
いつもは、用意をしたらすぐに部屋を出ていっていたのに。
「…あまり変わらない気がするけど、パトリシアは太っても可愛いから大丈夫。ほら、食べて。」
……まさか、セシルは私を太らせようとしている?
でも、どうして?
告白の返事を保留にしているから?はたまた、心理学の本をまだ読み終えていないから?
それは私が悪いけど……
それか、ふくよかな体型の子が好みとか?
どちらにしても、太りたくはない。
「セシルと一緒に食べたかったな…」
チラリとセシルを見る。
「…分かった。でも、フォークは一本しか用意していなんだよね。」
「大丈夫。私が食べさせてあげるから」
フォークの主導権は私が握らないと。
「駄目だよ。フォークは僕が使うから。」
「そうしたら、セシルはあまり食べないつもりでしょ。」
私はフォークに伸ばしたセシルの手を掴んだ。
その隙に、フォークを取ることができた。
「何から食べる?」
チョコレートケーキとブルーベリーのタルト、ロールケーキ…どれも美味しそう。
半分こにしても、一個半…一緒に太れば怖くない。
「……」
あれ?反応がない。もしかして、怒っちゃった?
「…セシル?」
恐る恐る、声をかけると掴んだままだった、セシルの右手の指が、私の左手の指に絡めてきた。
「食べさせてくれるんでしょ?ロールケーキが良いな。」
手は握ったままなの?
「セシル、手を離してくれないと」
「どうして?フォークは右手で持てるでしょ?」
それはそうだけど、こぼしてしまいそうだし…
「ほら、早く。」
セシルは、悪戯っぽい笑みを浮かべている。
仕方ない……
私は、ケーキをフォークで小さくカットしてセシルの口へと運ぶ。
「うん、美味しい。今度は僕が食べさせてあげる。」
「え?あっ」
あっさりとフォークを取られてしまった。
「ほら、口開けて」
「私は…セシル、ちょっと……」
「あーあ、パトリシアが動くから」
ケーキは口に入ったものの、口の端にクリームがついてしまった。
「じっとしてて」
セシルは私の顎を掴むと、顔を近づけてきた。
「セ、セシル!?ちょっと、まっ……」
「ふっ、キスされると思った?」
セシルは余裕そうな笑みを浮かべ、親指で拭ったクリームをペロッと舐めた。
「最近、あまりにも僕に対する態度が普通過ぎて、僕が告白したこと忘れちゃったのかと思って、少し意地悪しちゃった。」
「なっ…」
忘れていたわけではない、むしろセシルの方が普通過ぎたから…
「…だって、セシルが…」
「僕がどうしたの?」
「…やっぱり、何でもない。」
「そう?フォークもう一本もらってくるから、先に食べてて良いよ。」
そう言って、セシルは部屋を出ていっていた。
結局、セシルがどうして私を太らせようとしていたのかは聞けないまま、二人でケーキを食べて終わった。
「明日も、楽しみにしてて」
とセシルはニコッと笑っていた。
ダイエットをしないとな……




