花冠と婚約者
今日は暖かく過ごしやすく天気も良い。散歩をするにはぴったりの日だ。
それなのに……
「カイル様、もう一本お願いします。」
私は可愛い婚約者に会いに来ているはずなのに、何故彼女の義弟と訓練場で剣の稽古をしなくてはいけないのだろうか。
「もう十分だと思うよ。私はそこまで暇ではないから、今日はここまでにしよう。」
私はセシルにそう告げて、足早に訓練場を後にした。
汗を拭き、着替えを済ませてから、アンナにパトリシアの居場所を尋ねた。
アリシアも一緒だと言っていたが、この際だから仕方ない。
庭に向かうと、大木の下に人がいるのが分かった。
「パトリシア」
「カイル…様。」
アリシアがいるから仕方がないけど、敬称がつくだけで少し距離を感じる。
「何をしているの?」
「花冠を作っていたんです。」
パトリシアは頭に乗っている花冠にそっと触れながら、柔らかく笑った。
最後に見たのは驚いた顔や、赤くなった顔だったから、笑っている所を見るのは久しぶりだ。
私はパトリシアの隣に腰を下ろす。
「アリシアは寝ているの?」
「はい、ダンスの練習で疲れたみたいで…」
パトリシアは愛おしそうに、花冠を乗せたアリシアの頭を撫でた。
「パトリシアも疲れているように見えるけど、大丈夫?」
話しかけたときから、少しぼんやりとしていた様子だった。ダンスの練習に付き合っているパトリシアも疲れているはずだ。
「疲れてはないのですが、少し眠たくて…」
パトリシアは籠から花を取りながら、そう言った。
「もう一つ作るの?」
「はい、何かしていないと寝ちゃいそうで…」
パトリシアは眉を下げて笑った。何度かあくびを噛み殺したのだろう、瞳は少し潤んでいる。
「寝てもいいんだよ、私の肩を貸してあげるから。」
話す時間は減っても、少しでも隣にいられるならそれで良い。
「…大丈夫です。でも私が寝ないように沢山話してください。」
可愛い…パトリシアがそんな事を言ってくれるなんて……
「良いよ、パトリシアと話をしたかったから。」
あの日の件で、避けられてしまうのではと考えていたから良かった。
日数が経って忘れている可能性もあるけど……
「これ、カイル様にあげます。」
パトリシアが私の頭に花冠を乗せてくれた。
「ありがとう、大切にするね。」
きっと、戴冠式で王冠を授かる時よりも思い出になるだろう。
「ふふっ、いがいとにあいますね。」
眠気が覚めていないようで、ふにゃふにゃとした声色をしている。
「パトリシアにはいつか、本物のティアラをプレゼントするからね。」
頬を撫でて、顔を近づける。
「……」
パトリシアの額に口づけをしようとしたが、どこからか視線を感じる。
気づかれていないとでも思っているのか、パトリシア付の侍女が柱の陰からこちらを見ている。確か、マリーだったかな。
「……すー…」
寝ている…これからという時に、可愛いから良いけど。
私は木にもたれ、パトリシアの頭を肩に寄せた。
先程からチヤチラと様子を伺っているマリーを手招きした。
「はわわぁ、なな、何か御用でしょうか?」
マリーは二人が眠っているからか、小声でそう言った。
「いや、何か用事があったのは君の方では?」
「け、けけ決してお邪魔をするつもりはなかったんです!!お茶のご用意が必要か尋ねに伺っただけで…ですが、良いものを見せていただいて…ありがとうございます。」
彼女はフローレス家の人間で、私とパトリシアの仲を応援してくれている。
「お茶は大丈夫。とりあえず、セシルにはここにいることを秘密にしておいてもらえるかな?」
「はい。……あの、ところで画家でもお呼びしましょうか」
「いや、大丈夫。」
パトリシアと一緒に描いてもらうのは嬉しいけど、パトリシアの寝顔を見せたくはない。
「かしこまりました。では、失礼いたします。」
マリーは礼をして去っていった。
静かになって、改めてこの状況を意識させられる。自分で肩に寄せたのに、パトリシアの体温と香りで鼓動が速くなる。
結婚したら、この距離が普通になる。パトリシアには格好悪い所を、これ以上見せるわけにいかない。
でも、パトリシアはたまに不意打ちで…いや、パトリシア自身は無意識で、可愛いことをしてくる。これで照れるなと言われる方が難しい。
少しは意識してくれているのか……良い所で眠ってしまうんだ…意識はされてないだろう。
ふと、視線を下ろすとパトリシアの手が目に入った。
白くて細い指…飾りはどんな宝石が良いだろうか。やはり、アメジストか…
籠から花を一輪取って、パトリシアの左手の薬指に巻く。
「カイル様!!まだ、いらっしゃったんですか!?」
マリーにしか口止めしていなかったからか、セシルが凄い形相でやってきた。
私はパトリシアの指に合わせて作った、花の指輪をすぐさまポケットに移した。
「今、何を隠したんですか?」
流石に気づいたか……
「何でもないよ。そんな事より、二人が起きてしまうから静かにね。」
私がそう言うと、セシルは不満気な顔したが口をつぐんだ。
サイズが分かっただけで、出来るのには時間がかかる。指輪が出来るまでに、パトリシアには私のことを意識してもらわないとね。




