147 悪役令嬢と花冠
今日は久しぶりに、アリシアとダンスの練習をしている。カイルが来ているらしいけど、セシルの剣の稽古に付き合っているようだ。
「今日はこのへんで終わりにしましょうか。」
伸びをしていると、アリシアが服の裾をくいっと掴んだきた。
「お姉様。お着替えが終わったら、一緒にお庭に行きたいです。」
「ええ、良いわね。」
一度、自室に戻って着替えを済ませると、アリシアが迎えに来てくれた。
「籠を持ってきたので、お花を摘みましょう。」
アリシアはスキップ交じりに歩き出した。
「アリシアの好きな花は?」
「わたくしは、ピンクのガーベラが好きです。」
アリシアの髪色と同じ、可憐な花。
「可愛いアリシアにぴったりね。」
「お姉様がわたくしにくださった、ハンカチの刺繍がピンクのガーベラだったのであの日から大好きなんです。」
そんな前から…嬉しいな。
「ピンクのガーベラはね。『感謝』や『思いやり』という意味があるのよ。」
刺繍したときは特に考えてはいなかったけど、変な花言葉ではなくて良かった。
「お花にそのような意味があるんですね。」
アリシアはそっと、バラの花に触れている。
「この赤いバラにはどのような意味があるんですか?」
「赤いバラは『愛情』や『情熱』ね。プロポーズのときに贈る定番の花よね。」
まあ、プロポーズなんてされたことはないけど。
「プロポーズ……お姉様、まさか誰かにプロポーズをされたんですか!?」
「…さ、されてないわ。プロポーズは…」
「プロポーズは?」
「何でもないわ」
動揺のあまり、余計な事を言ってしまった。
「本当ですか?」
アリシアは訝しげに、私を見ている。
「…本当よ」
「分かりました。ですが、何かありましたら、一番にわたくしに教えくださいね。」
ぷくっと頬を膨らませて、アリシアはそう言った。
「ええ、一番にアリシアに伝えるわ。でも、アリシアも何かあったら私に教えてね。」
社交界デビューしたら、アリシアにも好きな人ができるかもしれないからね。
「お姉様、お姉様のお好きなお花は何ですか?」
「私はルピナスかしら…」
「わたくしとお姉様が初めてお会いしたときの……」
「そうね。ルピナスはお母様が好きだった花なの。」
私自身が育てたわけではないのに、育てるときの苦労を覚えている。
「お姉様のお母様が…」
…アリシアの前で話すようなことではなかったな。
「アリシア…」
話題を変えようと思い、口を開く。
「前に肖像画を見たことがあります。お姉様にそっくりでとても綺麗な方でした。」
アリシアはニコニコと嬉しそうに笑っている。
お父様に似ていると言われることが多いけど、お母様にも似ているのか嬉しいな。
籠いっぱいに花を摘んで、私達は大木にもたれるように座った。
「お姉様、お花の冠を作りました。お姉様にプレゼントです。」
「嬉しい、ありがとう。」
アリシアの作ってくれた花冠は、ピンクのガーベラが使われていた。
「お礼に、私もアリシアに作ってあげる。」
「本当ですか?楽しみです。」
アリシアは私に抱きついた。
「アリシア?」
さっきまで、はしゃいでいたのにいつの間にか静かになっているアリシアを見る。
ダンスの練習で疲れたのか、こくりこくりと船を漕いでいる。
私が膝を叩くと、アリシアはもぞもぞと動いて私の膝で眠った。
膝を抱えるように丸くなって、眠る様子が可愛らしい。
完全した花冠をアリシアの頭に乗せると、眠っているのに少し微笑んでいるように見えた。
私も眠たくなってきた…早く寝るようにしているのに、スッキリ起きられないし、お昼になると眠気が来る。
ミシェルに睡眠薬を貰おうとも思ったけど、悪用すると思われるのも嫌だし……逆にお昼寝しているのが良くないのかな?
でも、アリシアと一緒に寝たときはスッキリ起きられたんだよね。
アリシアの体温が心地良いというのもあるけど……誰かと一緒じゃないとぐっすり眠れないなんてことは……まずい、このままだと本当に寝ちゃいそう…
「パトリシア」
「カイル…様。」
危なかった。寝ているとはいえ、人前で呼び捨てにするところだった。
セシルと剣の稽古をしていたはずなのに…セシルはどうしたんだろう。




