フルミエレの毒
僕は今日、フローレス邸の温室に来ている。そして、僕は好きな子の飲み物に薬を盛った。
「トリシャちゃん?」
規則的な呼吸音が聞こえてきて、彼女を見るとすやすやと愛らしい表情で眠っていた。
座ったままだと、首を痛めるだろう。
トリシャちゃんの頭と体を支えて、ゆっくりと横にさせる。
ベンチは硬いから、体を痛めるかもしれない。
僕はトリシャちゃんにかけるために、上着を脱いだ。
枕として使ってもらった方が…でも、体にかけてあげないと……
シャツを脱いで、それをかけてあげよう。
「ミシェル?何してるんだ!!」
温室に入ってきたエリオットが、慌てた様子で僕の腕を掴んできた。
「エリオット、トリシャちゃんは寝ているから静かに。」
「ああ、ごめん。じゃなくて、何でシャツを脱いで…」
「トリシャちゃんにかけてあげようと思って、上着は枕にしたから。」
「はぁ…何だ、そういう事か。俺の上着をかけるから、シャツは脱がなくていいよ。」
エリオットは上着を脱いで、トリシャちゃんにかけてあげた。
「よく寝ているね。」
「少量しか入れてないんだけど、トリシャちゃん寝不足だったみたいだからね」
トリシャちゃんを騙すかたちになったのは、申し訳ないけど、これ以上トリシャちゃんが、危ないことをしないようにするには仕方ない。
トリシャちゃんは、僕を信用してくれている。
でも、好きな女の子からのお願いだとしても、流石に毒を飲ませるなんてことはしたくない。
できることなら、毒なんて扱ってほしくない。
だから、睡眠薬を混ぜて眠ってもらっている間に、トリシャちゃんが育てた植物から毒のあるものを回収することにした。
「じゃあ、探していこうか」
「よく来ていたのに、こんなにあったとは…」
エリオットは頭を抱えて、ため息ついた。
まさか、毒のある植物だけでなく、毒薬まで作っていたとは。
製造日の書いてあるタグと、効果が出るまでの時間を書いたメモ。
トリシャちゃんは、すでに自分で試していたんだ。考えてみると、自白剤のときも自分で飲んでいた。
「これ、どうする?」
「僕が持っていくよ。」
このまま、ここに置いておくわけにはいかないから。
「何ともないから良かったけど、お説教が必要だね。」
トリシャちゃんが毒の耐性をつける必要なんてないのに、トリシャちゃんに害を与える者は、僕が殺してあげるのに。
カイル様の婚約者じゃなくなれば、狙われることもなくなるんだろうな。
「俺、木箱を借りてくるから」
エリオットはそう言って、温室を出ていった。
僕は、トリシャちゃんが横になっているベンチに軽く座った。眠っているトリシャちゃんの頬を撫でると、トリシャちゃんは僕の手に顔を擦り寄せた。
……可愛い。エリオットはまだ戻ってこないよね?
僕は親指で、トリシャちゃんの唇に触れる。
柔らかくて、温かい…何度か指でなぞっていると、少し開いた唇に指を食まれてしまった。
「……か、可愛い。」
思わず、声に出してしまった。
寝顔を見られただけでも幸せだったけど、こんなに可愛らしいことを……
「……ん」
僕は慌てて、手をどかした。
まだ起きたわけではなかったけど、触れるのはやめておこう。
トリシャちゃんが起きてから、しっかりお説教した。
トリシャちゃんは少し落ち込んでしまったけど、毒の危険性をしっかり伝えたから、もう大丈夫だろう。それに、持っていた毒薬を見た限り、不妊になる恐れはない。
トリシャちゃんが不妊になってしまえば、王妃になれなくなり、カイル様との婚約は解消される。
そうなれば、僕はトリシャちゃんと結婚できる。後継者なら三人の姉の誰かを迎えれば良いし、養子を迎えるという選択もあるし。
なんて、少しだけ思ったことがあるけど……
でも、トリシャちゃんが幸せでないと意味がない。
――他の誰でもなく僕が幸せにしたい。
一緒にいると、甘くて幸せな気持ちになるのに…苦しくて辛くもなる。
まるで、フルミエレの毒のようだ。




