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145 悪役令嬢は叱られる。

「パトリシア、あ(・)の(・)日(・)ぶりだね。」

 約束をしていたわけではないのに、機嫌の良さそうなカイルが家にやって来た。


あの日というのは、お願いを聞いた日のことだろう。

「カイル様、本日はどういったご要件で?」

セシルが私とカイルの間に割って入ってきた。

「パトリシアとダンスの練習をするために来たんだけど…」

「そうなの?姉さん。」

セシルが振り返って私の顔を見る。

確かにダンスの練習に付き合ってくれるとは言っていたけど、突然来るとは思わなかった。

私が首をひねると、セシルはカイルの方へ向き直った。

「約束していたわけではなさそうですけど?」

「…パトリシア」

困ったような表情をしたカイルがこちらを見ている。

そんな顔をされても、私も困る。

「僕、久しぶりにカイル様と剣の稽古がしたいと思っていたんですよ」

そういえば、前まで二人で訓練場に行っていたな。

「カイル様、お願いできますか?」

「はぁ…何となく、そう言われる気がしていたよ。今回だけだからね」

「じゃあ行きましょうか」

そう言って、二人は訓練場へ行った。


二人と別れた私はというと、温室で薬草に水やりをしている。


水やりも終わり、一息ついていると扉を叩かれた。

カイルかセシルだろうか?


「トリシャちゃん、久しぶり。」

扉を開けるとそこにはミシェルがいた。

「これ、お土産のチョコレート」

「わぁ、ありが―」

箱を受け取ろうとした瞬間、ミシェルは箱を上にあげた。

あれ?くれるんじゃなかったの?


「トリシャちゃん、僕に何か言わなきゃいけない事ないかな?」

言わなきゃいけないこと?

お礼は言おうとしていたけど…そういうことではなさそうだし。

何だろう……あれ?ミシェルの目線が少し高いような……

「えっと…身長伸びた?」

「……分かる?そうだよね、やっぱり伸びてるよね」

良かった、正解っぽい。

「エリオットもカイル様も口を揃えて「変わらない」って言うんだよ、酷いよね。」

二人は背が高いからな…っというか、三人で会ってたんだ。

まあ、別に良いけど…

「って、違うよ。僕の身長の話じゃなくて!!」

違うの?何だろう……最後にあったのはセシルを尾行したときだから…女装させたことを怒ってとか?

でも、ミシェル…結構乗り気だったよね。


「危ないことしてない?」

危ないことって、どれのことだろう。

私が考えてこんでいると、ミシェルが私の頬を片手で掴んできた。

「あの毒草、何に使うの?」

ミシェルに頬を掴まれたまま、作業台の方へ顔を向かせられた。

……しまった、片付け忘れていた。

「何に使おうとしていたの?」

ミシェルはムッとした顔で、私の頬をふにふにとしている。全然痛くはないから良いけど。


あんな事があったわけだから、自衛のために毒薬を作っているのだけれど、誰かに使うわけではなく自分で耐性をつけるためにだ。


私はミシェルから目を逸らすと、ミシェルの手は離れた。

「顔色は…まあ大丈夫だね。脈は…」

ミシェルは私の手首に触れた。

「トリシャちゃん、少し寝不足でしょ?そういうときに、毒をならそうなんて危ないから駄目だよ。」

うっ、バレてる。

「…はい」

「やっぱり、そんなことしていたんだ。」

カマをかけたんだ。

「ごめんなさい。」

私は頭を下げる。すると、ミシェルは私の頭をそっと撫でた。

「別に怒ってないよ、トリシャちゃん。心配しているんだよ。皆に知られたくないのは分かるけど、一人では危険すぎるからね。」

ミシェル、本当にごめんなさい。

もうすでに何度か一人で作って、一人で服毒しているんだ。

「だから、今度からは僕が見ているところでして。量も種類も僕が選ぶから。」

「え?」

「どうしたの?」

「てっきり、やめさせられるのかと」

医者の子供だし、そういうことはあまり良しと思わないのかと思っていたから、正直驚いた。


「僕はトリシャちゃんのためなら何でもするよ。だから、ちゃんと頼ってほしいな。」

「ありがとう、ミシェル。」

「うん、じゃあこれはトリシャちゃんにあげる。」

ミシェルがチョコレートの入った箱を私にくれた。


「一緒に食べましょう」

私とミシェルはベンチに座った。


箱を開けると、宝石のように輝くチョコレートが入っていた。

「僕も前に食べたことがあるんだけど、これ美味しかったよ」

ミシェルはそう言って、チョコレートを一粒取った。

「トリシャちゃん、あ~ん。」

ミシェルはニコニコと笑いながら、私が口を開けるのを待っている。

私が口を開けると、ミシェルは私の口にチョコレートを入れた。

「美味しい〜」

アーモンドチョコレートだ。香ばしいアーモンドにコクのあるチョコレートがよく合っている。

「こっちも美味しいよ。」

ミシェルは次から次へと、私にチョコレートを食べさせてくれている。

カイルと違って、食べさせるタイミングを理解している。


「そういえば、何で私が毒草を育てていたことを知っていたの?」

ミシェルとは久しぶりに会っただけでなく、温室に入るのも久しぶりのはずだ。

「エリオットに言われたんだよ。危ないから見てあげてって」

……エリオットに気づかれていたのか。


まあ、二人にバレる分には問題はないし良いか。


とにかく、私はまず睡眠不足を解消しないと。





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