143 悪役令嬢とうたた寝。
今日はエリーゼが遊びに来ると聞いていたが、付き添いでエリオットも来ていたようだ。
エリオットは私の話を聞いてくれていたけど、エリーゼの付き添いで来ていたのに、私の所に案内されたんだろうな。
私は少し心が軽くなったから、ありがたいけど申し訳ないな。
「エリオット、応接室にお茶を用意してもらいましょうか」
「パトリシアは温室で何かしていたんじゃないの?」
エリオットは作業台と薬草にチラリと目をやっている。
作業するためではなく、薬草の香りでも嗅いで落ち着こうと思って入っただけだ。
結局リラックスするどころか、一人になったことで色々思い出して頭がぐるぐるしていた。
「特に作業する予定はないから大丈夫よ」
「そう、俺はどちらでも良いけど……あれ?髪、少し短くなった?」
皆、気を使ってか髪の長さに触れてこなかったから忘れていた。
そっか、エリオットは知らないのか、私が狙われていたことを…
「…少しね」
今日は三つ編みハーフアップだったから、長さが変わっているのも分かりやすい。
「応接室に行く前に、髪型整えた方がいいよ」
整える?
エリオットが来る前頭を抱えて、いたせいで髪型が崩れてしまったのか。
「パトリシアさえ良ければ、俺が直しても良い?」
「できるの?」
「俺のこれも、自分でやってるから」
エリオットは、自分の髪の三つ編みしてある部分を掴んでそう言った。
「そっか、それならお願い」
私はエリオットに背を向けた。
エリオットは髪を結んでいるリボンを解くと、髪を優しく手で梳かしていく。
やっぱり、誰かに髪を梳かしてもらうのは気持ちいいな。
「パトリシア、眠そうだけど大丈夫?」
エリオットの声でハッとしたが、うつらうつらしかけていた。
ここのところ、寝不足だったからだけど…
「眠たいなら、応接室に行かずにここで少し休んだら」
エリオットの手が止まった。
確かに、この眠気を逃すと夜に眠気が来るとは限らない。
「でも……」
私はエリオットの方に身体を戻す。
「俺のことは気にしなくても良いよ。肩でも膝でも使ってくれて構わないから」
エリオットは優しいな。
でも、肩や膝を貸してもらうわけには……
「ううん、大丈夫」
「いいから、ほら」
エリオットは私の頭を肩に寄せた。
「私の…方が、お姉さんなのに……」
「ふっ、何言ってるの?」
エリオットが何か言ってる、眠すぎて聞き取れなかった。
……誰だろう、私の髪を撫でているのは。
あれ?私、何してたんだっけ?
エリオットが来てくれて、髪を梳かしてもらっていて、それで眠たくなって……私、本当に寝ちゃったんだ。
私は目を開くと、床に置いていたプランターが目に入った。
私は慌てて身体を起こした。
「おはよう。まだ寝ていても大丈夫だけど、もう良いの?」
私はエリオットの膝枕で寝ていたのか……
あれ?確か、エリオットの肩を借りていたような?
「肩から落ちそうになっていたから…」
私が何を言おうとしていたのか察したのか、エリオットが答えてくれた。
「そうだったの?ありがとう」
肩を貸してくれていただけでもありがたいのに、申し訳ないな。
「良いよ、俺の方が数ヶ月お兄さんだからね」
エリオットはフッと笑ってそう言った。
…どういうこと?
エリオットは六月生まれで、私は九月だから確かに数ヶ月お兄さんだけど…
「パトリシアが言ったんだよ。「私の方がお姉さんなのに」って」
「え!?いつ?」
私、そんなこと言ったっけ?
「眠りにつく寸前に、言っていたよ。どういう意味か分からなかったけど……どういう意味?」
「……えっと、私って…その、皆のお姉さん的なポジションだと思っていたから」
エリオットには色々と話してきたけど、流石に転生したからとは言えない。
「パトリシアがお姉さんか…ふふっ」
わ…笑われた、エリオットに……
「アリシア達の前ではそうかもしれないけど、俺達の前だとお姉さんというより、少し手のかかる妹って感じかな」
妹……しかも手のかかる。
「…どこらへんが?」
「触るなって言ったのに薬草に触ろうとしたり、危ないことをしようとするところ……妹ってよりも赤ちゃんかも…」
「赤ちゃん!?」
妹どころか、赤ちゃん!?
「ふふっ、冗談だよ」
エリオットは笑っているけど、絶対冗談じゃなさそうだ。
「髪、治すから後ろ向いて」
エリオットは私の髪を耳にかけた。
髪をもう一度梳かして、髪を編み始めた。
本当に慣れているんだな。
それにしても……
「エリオットといると落ち着くわね」
エリオットの隣は居心地が良い。
ついつい、前世のことまで話してしまいそうになるぐらい。
「……そう、それは良かった」
いつか、ちゃんと話すことができるかな。




