偽りのない想い
俺は今、フローレス邸にいる。
というのも…
「もう限界!!ダンスもマナーのお勉強ももう沢山!!アリシアに会いに行ってくる」
エリーゼのストレスが限界を超えて、暴れる寸前になったからである。
突然伺うのは失礼なため、先触れをしてからとエリーゼを諭した。
俺はあくまで、エリーゼの保護者として伺う事になっていたため、パトリシアがいるかは分からなかったが、パトリシア付きの侍女が俺を見るなり
「お嬢様なら温室にいますよ」
と教えてくれた。
エリーゼはアリシアの部屋に案内されていた。
俺がアリシアの部屋に行くわけにもいかないから……
というのは建前で、本音を言えばパトリシアに会いたくて、ついてきた。
当然、向かうのは温室だ。
温室に着くと、「う〜」とか「あ〜」という唸り声が聞こえてきた。
温室の扉を開けると、パトリシアはうずくまっていた。
「パトリシア!?何があったの?」
「……エリオットぉ」
俺を見上げるパトリシアの表情は、頬が紅潮していて、瞳が潤んでいる。
どこか、艶っぽいその表情に思わず、目を逸らした。
「スカート汚れるから…」
パトリシアの肩を掴んで、立ち上がらせるも、パトリシアは少しふらついている。
「で、何があったの?」
「私…どうしたら良いか分からなくて……」
元々潤んでいた瞳から、涙が浮かんでいる。
カイルから聞いてはいた。パトリシアの命が狙われていたことを…
それが、パトリシア夢の話と関係があるのかは分からないが、こんな動揺しているパトリシアを見るのは、いつぶりだろうか。
「とりあえず、一回落ち着いて」
パトリシアを座らせて、背中を撫でる。
「ありがとう、エリオット。少し落ち着いたわ」
「無理に話さなくてもいいから」
本当は気になるけど……
「ううん、エリオットだから話せるんだけど……」
俺だから話せる…やっぱり、夢の話だろうか。
「その、あのね…」
パトリシアはモジモジと恥ずかしそうにしている。
「……カイルとセシルが、その…私のことを…すす、好きみたいで…」
……え?
「自意識過剰かもとか、揶揄われているだけかもと考えてもみたんだけど……」
パトリシアはあわあわしながら、真っ赤になった顔を手であおいでいる。
可愛い……じゃなくて
今更、気づいたのか…鈍いとは思っていたけど、セシルはともかく、あんなに好意も独占欲がダダ漏れのカイルの思いにも気づいていなかったのか…
でも、パトリシアはこの話を、何故俺だから話せると言ったんだろう。
……なんて、分かりきった事だろう。
俺もパトリシアにとっては、ただの友人に過ぎないのだから。
「あのね。前に話したと思うんだけど、私はカイルとアリシアが結ばれるものだと思っていたから……」
そういえば、そんな事を聞いたな。
「それに、この話は初めてするんだけどね。セシルとエレノアも結ばれるはずだったの」
「だから、私はてっきり…」
なるほど、確かにこの話は俺にしかできない。
カイルとアリシアはともかく、セシルとエレノアは普通に仲が良いから、そう思われてもおかしくはない。
二人が出かけるときに、尾行しようとしたのも二人の恋路が気になっていたんだろう。
「……それで、パトリシアはどうするの?」
「私は……」
答えなんて、聞きたくない。
自分で聞いておいて、俺は馬鹿だな…
「私は…まだ答えは出せない…まだ、やらなきゃいけないことがあるから……最低だよね」
パトリシアは苦しそうな顔をして笑った。
「良いんじゃない?あの二人はそんな事を気にしないと思うよ」
「そうかな?それにしても、私のどこが良いんだろう…」
パトリシアは少し俯いて、袖をいじっている。
「好きになる理由なら、充分あると思うけど」
「…薬草を育てたり、薬を作っているのに?それに、剣を握っているから、他の女の子の手よりも少し硬いし…」
ああ、分かった。
パトリシアは鈍いんじゃなくて、自分に自信がないのか……
それはパトリシアが、自分の身を守るために努力して得た知識と力だ。
当然、セシルもカイルもパトリシアの努力を知っているだろう。
だから、やめさせようともしないし、薬草作りに関してはむしろ協力的なぐらいだ。
「他の女の子の手なんて知らないけど、パトリシアの手は柔らかくて温かい綺麗な手だよ」
俺はパトリシアの手を握った。これぐらいは許してくれるだろう。
俺も伝えられるなら、この想いを伝えたい。
でも、パトリシアはその事で悩んでいる、今は、伝えるべきではない。
「ありがとう、エリオットはいつも、私の欲しい言葉をくれるのね」
さっきの苦しそうな笑顔とは違い、弾けるような笑顔を向けてくれた。
俺はこの笑顔が好きだ。
欲しい言葉をもらっているのは俺の方だ…
俺はパトリシアには、ずっと笑っていてほしい。
その隣が俺でなくても、この気持ちに偽りはない。
なんて、格好つけられれば良いのに……情けないな俺。




