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スタートライン

カイル様が帰ってから、姉さんの様子がおかしい。

応接室を出て来たのを見て駆け寄ると、突然僕に抱きついてきた。

突然のことで、驚いたけど嬉しかった。

でも、僕から離れてすぐに、ティーセットを片付けに来たアンナにも抱きついていた。

その後も、マリーにレーネ、アリシアにも同じように……

ダリルやリックにはしていないみたいだったけど……

つまり、姉さんは僕を弟としか見ていないから、僕に抱きついてきたのだろう。

少し前までは、役得だなんて思っていたけど、もうそんなことは言っていられない。


姉さんは僕に抱きついてきたとき、疲れていると言っていた。

でも、カイル様が応接室から出てきたところを目撃したとき、カイル様は機嫌が良さそうだった。

カイル様が喜ぶようなことがあって、姉さんは疲れていた。

応接室で一体何が……

姉さんは疲れているから、明日話を聞いてみよう。


翌日になり、僕は姉さんの部屋に向かった。

「姉さん、いる?」

扉を叩くと、半分だけ開いた扉から姉さんが顔を見せた。

「セシル?どうしたの?」

「少し聞きたいことがあって」

「私に聞きたいこと?私の部屋で良ければ入って」

姉さんは一瞬、キョトンとした顔したがすぐに笑顔になって、僕を迎え入れてくれた。

「お茶を用意してもらうから、少し待ってて」

姉さんはベルを鳴らそうとした。

「すぐに終わるから、お茶は大丈夫」

「そう?」

姉さんはベルを置いて、ソファに座った。


「セシル、聞きたいことって?」

姉さんは、僕が何を聞こうとしているかも知らずに、ニコニコと笑っている。

「昨日、カイル様と何かあった?」

「へ!?何かって?」

姉さんは声を上ずらせて、顔が赤くなった。

やっぱり、何かあったんだ。

「姉さんが疲れていたのに、カイル様の機嫌が良かったから、何かあったのかなって……」

「大丈夫よ、心配してくれてありがとう。それに、セシルのおかげで癒されたから」

……僕のおかげ?よく分からないけど、何があったかは話してくれないか。

「僕は姉さんが心配で、どうしても話せないの?」

「……うぅ」

姉さんは僕の顔見ると、小さくうめき声をあげた。



「はぁ、何でそんなことを……」

結局、姉さんは話してくれた。

それにしても、何でもお願いを聞くなんて…一番言ってはいけない相手だろうに。

まだ、ハグだけで済んで良かったけど……いや、あの王子がそれだけで終わるようにも思えない。

「他には何もされてない?例えば…その、キスとか」

事故とはいえ、以前姉さんはカイル様に唇を奪われている。

「……それは…大丈夫」

少し間が空いた後、姉さんはそう言って目を逸らした。

「本当に?」

僕が訝しんでいると、姉さんはこくこくと頷いた。

「そう。分かった、信じるよ」

僕がそう言うと、姉さんはホッとしたような表情をした。


「もう一つ聞きたいことがあるんだけど」

「何?」

「昨日、僕やアンナ達に抱きついていたけど、あれはどうして?」

「……ハグってストレス軽減の効果があるみたいで、それで……いきなり抱きついてごめんなさい。やっぱり、嫌だったわよね」

姉さんは申し訳なさそうに頭を下げた。

ハグってそんな効果があるんだ。

確かに、姉さんが甘えてくれたみたいで、可愛くて癒されたけど…心境とは裏腹に心臓の音がうるさかった。

「別に嫌だったわけじゃないけど……」

嫌だったのは抱きつかれたことではない。

「姉さんはダリルとリックにはしていなかったみたいだけど、僕にしてきたのは弟だから?」

「……」

姉さんは困ったような、驚いたような顔をしている。

姉さんを困らせたいわけではない。

ただ、このまま弟として見られたままでいるのも耐えられない。

「……パトリシア」

言ってしまったら、元には戻れない。

「セシル?」

それでも、思いを伝えられないまま、誰かの者になる様子を見ているだけなんて……

「僕はパトリシアの事が好きだよ」

「え!?」

姉さんは目を見開いて、口をはくはくとさせている。

「家族として、姉としてじゃない。一人の女性として、パトリシアの事を愛しているんだ」

「でも…そんな、何で?」

姉さんは、赤くした顔をクッションで隠しながらモゴモゴと言った。

僕は立ち上がり、姉さんの隣に座った。

「ねぇ、顔を見せて」

クッションを掴むも、姉さんは首を横に振っている。

姉さんもそれなりの力で掴んでいるため中々取れない。

「きゃっ…」

攻防が続いたが、姉さんは体勢を崩して倒れ込んだ。

僕は姉さんを押し倒すような体勢になってしまった。

「ごめん、大丈夫?」

「ええ、大じょ…」

姉さんが腕を緩めた隙に、クッションを掴んでどかした。

顔だけでなく、耳まで真っ赤だ。それに、瞳が潤んでまつ毛も濡れている。

ドクドクと鼓動が早くなる。

「…だ、大丈夫じゃないから、クッション返して」

「…ねぇ、パトリシアは僕のこと嫌い?」

今まで弟だと思って接していたんだ、気持ち悪いって…嫌われてもおかしくない。

「……セシル、泣かないで」

姉さんの手が僕の頬に触れた。

僕は今、泣いているようだ。

……急に不安になってしまった。思いを伝えた事で、嫌われることが。

「セシルのこと大好きよ。でもね、セシルのいう好きは、私にはまだ分からなくて……」

分からないか……

「それなら、分かってもらえるように頑張るから、よろしくね。パトリシア」

姉さんの髪先に口づけをした。



ようやく、スタート地点に立てたような気がする。




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