141 悪役令嬢とカイルのお願い。
街での一件から、三日経った。
報告したいことがあるからと、カイルがやって来た。
「ハンスだけど、調査を進めるため一時的にだけど、私の近衛にすることにしたよ」
応接室に入って、早々にカイルが口を開いた。
ハンスは収容されてないのか……少しホッとした。
調査って、私の事を殺そうとしている、真の黒幕をだよね。
ハンスが依頼した内容を知っていた上で、ハンスが支払う金額よりも多く払って、私を殺すように依頼したのかな?
「片がつきそうと言ったのに、こんなことになってしまってごめんね」
カイルが申し訳なさそうに言った。
「カイルが悪いわけじゃないのだから、謝らないで」
ハンスが男達に頼った要因は、カイルと私の関係に思うところがあったからだろうけど、カイルが私のために色々と動いてくれていたのを私は知っている。
「私の婚約者は本当に優しいね」
そう言ったカイルは、立ち上がり向かいに座っていた私の隣に座ってきた。
「ところで、覚えているよね?何でもお願いを聞いてくれるって言っていたの」
そういえば、そんな約束をしていたな。
「ええ、私にできることなら」
男装をすることになるのかな?
アンナ達に用意してもらわないと。
「それなら……抱きしめてもいいかな?」
抱きしめ……ん?そんなことでいいの?
今更、お願いしてまですることなのかとも思うけど。
そっか、ハグはストレスを軽減させるって言うし、カイルも疲れているのか。
「……どうぞ」
私はそう言って、抱きしめられるのを待っているのに、中々来ない。
「うーん。それも良いけど、パトリシアから来てほしいな」
私からって……いつも抱きしめられる側だから、私からと言われても。
いや、アリシアが普段やっているんだ、私にもできるはず。
それに、約束したわけだから仕方ない。
「…こ、これで良い?」
私は羞恥心に耐えながら、カイルに抱きついた。
思っていたよりも、ずっと恥ずかしい。
「……」
カイルの反応がない。もしかして、違った?
「カイル?」
恐る恐るカイルの顔を見上げると、カイルの顔は真っ赤に染まっていた。
自分からお願いしたのに、まさか照れてるの?
いや、普段恥ずかしげもなく、歯の浮くようなセリフを言うカイルが、こんな事で照れるわけがない。
となると……発熱?
ここ何日か忙しくしていたみたいだし、疲れが取れてないのかも。
「パトリシア!?」
私はカイルから少し離れて、頬に触れた。
やっぱり、頬が少し熱い。
「その…嬉しいけど、私は……」
「あれ?でも、熱はないのね」
カイルのおでこと自分のおでこを合わせるも、頬に比べたらそこまで熱くなかった。
「……パトリシア」
カイルに肩を掴まれて、座らさせられた。
「どうしたの?具合悪い?」
「具合?ああ、そういうことね」
そういうこととは?
「パトリシアは全然分かってないね。こんなに可愛い婚約者に抱きつかれて、平静でいられるわけがないでしょ」
ということは……
「本当に照れていたの?」
「……はっきり言うね。そうだよ、まったく人の気も知らないで」
カイルが私の肩に頭を乗せた。
「ふふっ、カイルも照れたりするのね。なんか可愛いわね」
セシルもいつの間にか、手を繋いだりお昼寝するのを恥ずかしがるようになったな。
少し寂しさもあるけど、これが思春期ってやつかな?
「……」
私の肩からカイルの頭が離れると、カイルの手が私の口を覆った。
「ふぁいふ(カイル)?」
カイルの顔が近づいてきて、私は思わず目を閉じる。
顔にカイルの髪がかかり、少しくすぐったくて私は薄目を開けた。
カイルは、私の口を覆った自分の手にキスをした。
「あまり煽ると、次は本当に唇にするよ」
「なっ……」
「ふふ、パトリシア。顔が赤いけど、どうしたの?」
分かってて、言っているな。
「す、少し暑いみたい。外の空気を吸ってく――」
「じっとして、熱を測ってあげる」
立ち上がろうとした私はまたも、肩を掴まれて、座らさせられた。
「熱はないみたいだけど…あれ?さっきよりも顔が赤いね」
カイルは私がしたように、おでこを合わせてきた。
まさか、仕返しのつもり?
さっきは私が抱きついただけで、顔を真っ赤にさせていたのに……
「パトリシアは本当に可愛いね」
そう言って、満面の笑みを浮かべたカイルは上機嫌で帰っていった。
「姉さん、カイル様は帰ったの?」
「セシル……」
私は見送りはせずに、応接室にいたが部屋を出るとセシルがいた。
「わっ、ちょっ姉さん!?」
「少し疲れてしまって……」
セシルに抱きついた、カイルのせいで疲れてしまった。
「……姉さん」
私の背中に、セシルの手が回ってきた。
「ありがとう、セシルおかげで少し落ち着いたわ」
ハグに本当にストレス軽減の効果があるとは。




