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140 悪役令嬢とローブの男。

「で、パトリシアを何処へ連れて行くつもりだったんだい?」


カイルがハンスにゆっくりと近づいてる。

抱きしめられたときに、帯剣をしてないことは分かったけど、安易に近づかないほうが……

「……」

「ふーん。だんまりか、パトリシアを殺してどうするつもりだったの?」

「……がう」

ハンスが何か呟いた。

「違う…違う、僕はパトリシア様を殺そうとなんてしていない」

どういうこと?……私を殺そうとしていない?

「この期に及んで何を言っているの?」

「……僕は、確かにあの男達を雇いました。でも、パトリシア様を保護した上で、事故に見せかけて馬車を崖から落とすように依頼をしただけで……」

ハンスは声を震わせてそう言った。

馬車ごとを襲わなかったのは、そういうことだったのか……いや、男達は依頼主に頼まれて私を殺すと言っていた。


「男達は私を殺すように依頼されたと言っていたわ」

「っ……信じてもらえないかもしれませんが、本当にそんな事は依頼していません」

私はダリルとレーネの背に隠されているが、隙間から見えたハンスは、すがるような表情でこちらを私を見ていた。

「では、その男達を殺したのは……」

私は恐る恐る聞いてみた。

「男達は…パトリシア様に危害を加えようとしたので僕が殺しました。ですが、決して口封じのためではありません」

悪漢達は殺したのか……本当に私のことを殺そうとはしていなかったの?


「本当かどうかは置いておいて、パトリシアの護衛騎士が、借馬車に乗った誰かと君が話している所を目撃したようだけど」

「……借馬車に乗っていたのは、男達を貸してくれた人間です。相手も顔を隠していたため素性は分かりません」

そんな怪しい人間に頼ってまで……

「はぁ……取り締まる立場の君が、それを利用してどうするの」

「パトリシア様を……カイル殿下の婚約者から解放するためです」

……そういえば、私を保護して馬車は事故に見せかけると言っていたな。

「私を何処に連れて行こうとしたの?」

「王都の外れに、小さな屋敷を購入したのでそこで身を隠していただこうと……」

屋敷まで用意して……

「その屋敷でパトリシアを……私の婚約者から解放する!?何が言いたいのかな?」

カイルが珍しく怒っている。

いや、不機嫌な顔や目が笑っていなかったりはあったけど……

「パトリシア様には、事故で死んだことにして、貴族のしがらみや王太子の婚約者というものから解放して、幸せになって欲しかったのです」

ハンスとは初対面のはずなのに、どうしてここまで?

「美しいパトリシア様が、妬みや嫉妬に塗れた汚い人間ばかりの貴族社会にいてはいけない……僕は、パトリシア様が何度も傷付けられているお姿を見てきました。それなら、貴族として死んだ後僕のもとで心安らかに過ごして欲しかった…」


少し前の私なら、嬉しい申し出だと感じただろう。

でも、今の私はカイルの事を信じている。

それに、幸せにしてもらうより、私は皆の幸せを見ていたい。


王国騎士団だから、王宮で開かれる夜会にいてもおかしくないし、私が色々巻き込まれてきたというか、首を突っ込んだから見られていてもおかしくない。


「危険からお守りするためにした行動が、却ってパトリシア様を危険な目に合わせてしまうことになってしまい申し訳ありませんでした」


ハンスは唇を噛み締めて、頭を下げた。

私には、ハンスが嘘をついているようには見えない。

彼は純粋に、私のことを思って行動してくれたのだろう。

実際、婚約解消とか平民になったらとか考えていたわけだし。


それに、抱きしめられたときも、壊れ物に触れるように優しかった。

私を殺そうとしている人間が、そんなことはしないだろう。


「私は平気だから、顔を上げて」

私はダリルとレーネの間を抜けて、ハンスに近づいた。

「もちろん、貴方のしたことは良いことではないけど、私の事を心配してくれていたのは素直に嬉しかったわ。ありがとう」

「パトリシア、まさか許すの?」

「うーん、私は生きているし、元はといえば私がもう少し社交性を身に着けていれば良かったわけだから……」

悪漢達を殺したのは良くないが、彼は今まで上手いことやって来ただけで、遅かれ早かれ捕まっていただろうし、犯罪歴によっては処刑だってされていただろう。


「パトリシア、お人好しが過ぎるよ。今回の件で、君に落ち度は何もないんだから……」

「ですが……」

私はお人好しではない。

悪漢達が私を殺そうとした依頼主が分からない以上、ハンスの存在が必要不可欠だ。

私だけなら構わないけど、フローレス家を狙っているなら許せない。


私の幸せを望む彼なら、協力してくれるかもと思ったからだ。


「……分かった。一度、ハンスを連れて話し合いをするから」

「ありがとうございます。カイル様」



後は、彼の処遇が決まるのを待つだけだ。



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