139 悪役令嬢と王太子の作戦。
私は馬車である場所へ向かっている。
カイルが立ててくれた作戦を実行するために。
「……本当に現れるのかな?」
馬車は貴族街へ向かい走っている。
私達が貴族街へ向かっていることは、犯人の耳にも入っている。
ただ、前回の件があるため、現れるかは分からない。
「カイル王子の作戦とはいえ、危険を感じたらすぐに逃げてくださいね。不審な人物を見かけたら俺に言ってください」
「自分の身を護るために行動してください。私達はお嬢様をお守りするために、ついてきているのですから」
馬車には私とダリル、レーネが乗っている。
ダリルだけの予定だったが、私を心配したレーネもついてくることになった。
アンナとマリーもついて行こうとしていたみたいだけど、レーネが止めたようだ。
私としては、アンナ達はもちろんレーネもついてきてほしくはなかったんだけど……
まあ、念のため私とレーネも、騎士達が着る防護服のような物を服の下に着ている。
「着きましたよ。くれぐれもお気をつけて」
作戦は御者のジョンさんも知っている。
馬車を降りると、不安そうな顔して私達を見送ってくれた。
数回訪れた街だけど、この中に犯人が潜んでいると思うと少しゾッとする。
でも、そんな事も言っていられない。
「パトリシア様、今日は何を買いに来られたのですか?」
「今日は刺繍糸を買いに」
本当は買う予定はないけど……店前でする自然な会話をして、私達は手芸店に入った。
「今のところ怪しい人物は見当たりませんでした」
「一人になったときを狙うはずでしょうね」
普通に買い物へ来たていだから、他のお店にもはいるつもりだけど、時間を潰すためだけだとお店に失礼だし、刺繍糸は買っていこう。
手芸店を出てからは、雑貨屋やお菓子屋に入った。
「少し休憩しましょうか」
「俺は荷物を屋敷に送ってもらうように、頼んできますね」
「では、私は何かお飲み物を買ってまいります」
「ええ、お願い」
私は二人と分かれて、ベンチに腰を下ろした。
風が気持ちよくて、かぶっていた帽子を取ると、良い風が吹いた。
手に持っていた帽子が、ふわりと飛んでいった。
私は立ち上がり、帽子を追いかけようとした。
路地の前に差し掛かった所で、突然、腕をグイッ引かれて路地裏に引きずり込まれた。
……ローブの男だ。
「貴方は誰?」
腕を掴まれてはいるが、強く掴まれてはいない。
男は、目深にかぶったフードのせいで顔は見えない。
「大丈夫です。僕は貴方の、パトリシア様の味方ですから」
聞いたことのないテノールの声……穏やかで優しい声色。
穏やかな声色なのが、余計に恐ろしさを感じる。
「私の味方?」
まさか、ダリルが見たローブの男とは別人なのか?
「はい。僕は、ハンス=ブロン。パトリシア様をお救いするためにここに来ました」
ハンス=ブロン?どういうこと……名乗ったったことは、犯人じゃない?
そんなはずはない。ダリルが先日見たローブの男がここにいたと言っていた。
だから、ダリルとレーネに合図をして、わざと一人になったのに……
「大丈夫ですよ。僕は、ずっと貴方のことを見ていた。僕が必ず貴方を幸せにしますので、安心してください」
掴まれていた腕が離れたかと思ったら、抱きしめられた。
ずっと?……私を幸せに?
私は彼のことを知らないけど、彼はずっと前から、私のことを知っているの?
いや、そんな事より犯人は?本物のローブの男を捕まえるために来たのに……
「すぐ近くに、僕の馬車が停まっています。奴等が現れる前に行きましょう」
彼は私から離れて、手を掴んできた。
手を引かれて、走り出した瞬間――
「奴等というのは、もしかして私のことかな?」
路地裏を抜けた先からカイルが現れた。
「なっ…」
「それとも、パトリシアの護衛騎士かな?」
「パトリシア様!!こちらへ」
私の後ろにはダリルとレーネが来ていた。
二人は、私が路地裏に引きずり込まれたときから近くにいた。
「何故……カイル殿下が……」
ハンスはあきらかに動揺している。
「何故だと思う?」
ハンスの反応……それに、カイルが来たということは、彼が私を殺そうとした犯人……




