138 悪役令嬢とダンス練習
今日はカイルとダンスの練習をする日。
まさか、アリシアとの練習を再開するよりも先に、カイルと練習することになるとは。
ドレスを着て踊るのは久しぶりだな。
女性パートも……足を踏んでしまわないように気をつけないと。
「麗しい姫君。よろしければ、私と踊ってくれませんか」
「え?」
間違えた……アリシアと練習するとき用のセリフを言ってしまった。
「違うの、これはアリシア用で」
アリシアは喜んでくれるけど、結構恥ずかしいんだよね。
「……パトリシアは、アリシアと練習するときはいつもそんな事を言っているの?」
「ええ、アリシアが喜ぶから。でも、恥ずかしいから忘れて」
「ふふ、パトリシアの男装姿が見てみたくなったよ。きっと、可愛いんだろうね」
アリシアやマリー達は格好良いと褒めてくれたけど、男装しているわけだし可愛いはないだろう。
「そんな事より、練習しましょう」
「そうだね。ところでパトリシア」
「何?」
「君の手の位置は、そこであっているのかな?」
ん?……手の位置?
私の右手はカイルの背中に、左手はカイルの手を握っている。
何が間違っているんだろう。
「君が私をリードしてくれるなら、女性パートも頑張ってみようかな」
そっか、うぅ……また間違えた。
「ごめんなさい。間違えちゃっただけで、カイルは男性パートを踊って。その…私をリードしてください」
「……」
カイルは、私から離れると頭を抱えて後ろを向いた。
「カイル?どうしたの?」
もしかして、女性パートを踊りたかったのかな?でも、私よりも背の低いアリシアならともかく、カイルをリードするのは私には難しい。
「ううん、何でもないよ。もう大丈夫だから、踊ろうか」
カイルはそう言うと、爽やかな笑顔を浮かべた。
本当に大丈夫なのかな?
「心配していたけど、ちゃんと踊れているよ」
「良かった」
まあ、カイルのリードが上手いからだろうけど……
「そろそろ休憩しようか」
今更だけど、ダンスの練習をしていても、犯人が捕まるまでは夜会に参加しない方が良いよね。
でも、せっかくおそろいで仕立てたドレスを着られないのは悲しいな。
「少し疲れた?」
「え?どうして?」
別に疲れてはいないけど、疲れたように見えたのかな。
「浮かない顔をしているから」
カイルの手が私の頬に触れた。
疲れではなく、不安が顔に出てたのか……
「……アリシアの社交界デビューの日、私は参加できるのか不安で…」
「そっか…でも、先日の件はもう少しで片がつきそうだよ」
「犯人が分かったの?」
片がつきそうってことはそうだよね。
良かった……これで温室も自分で様子を見に行けるし、街にも行けるのか。
「……まあね。ただ、目星がついただけだから、捕らえられてはいないんだ」
それは仕方ないか、犯人が王宮で働いてる人間なら……
王宮で働く人間は、家柄は当然のこと。王家に対する忠誠心が重視しされている。
そして、前国王やその前の世代から代々仕えている人間がほとんどだと聞いた事がある。
だから、犯人の家族も王宮関係者の可能性もある。
私は生きているし、悪漢達は一応捕らえられたわけだし。
それに、カイルが狙われたわけでもないし。
殺害未遂を犯したとしても、王家からの信頼が厚ければ厚いほど、刑は軽くなるだろう。
決定的な何かがなければ……
「それなら、私も協力するわ」
「駄目だよ。何をするつもりかは知らないけど、もうパトリシアには危険な目に遭ってほしくないから」
そうだよね……そう簡単には許しは出ないよね。
「どうしても駄目?」
「私はランドルフ殿と違って、その手には乗らないよ」
その手って何の事だろう。
「そっか、協力させてもらえたら、一つだけカイルのお願い何でも聞いてあげようと思ったんだけど」
まあ、断られるだろうけど。
「……分かった。でも、ちゃんと作戦を立ててからだよ」
……良いんだ。
そうなると、カイルのお願いを聞かなきゃになるのか。
カイルの事だから、男装姿を見たいとかだろうし大丈夫だろ。
「ありがとう、カイル。早速、剣の稽古に――」
「今日は私とダンスの練習だよ」
私が立ち上がろうとした瞬間、腕を引かれてソファに座らされた。
「ねぇ、ダンスの練習をするんじゃないの?」
カイルは私の腰に手を回して、離れない。
「ん?そのつもりだけど、もう少し休憩」
カイルの頭が肩に乗った。
今回の事件で、カイルは忙しいはずなのに、こうして屋敷に来てくれている。
ダンスの練習も付き合ってくれて、疲れているだろうし、もう少しこのままでも良いか。




