リックの暇つぶし
「お兄様、犯人はまだ見つかってないんですか?」
「ああ、カイル様は何をしているんだか」
「やはり、あの作戦を試すしかないのではありませんか?」
セシル坊っちゃんの部屋にお茶を運びに行くと、何やら不穏な会話が聞こえてきた。
「お二人さん、一体何の話をしてるんだ」
「リックか、まあお前なら良いか。姉さんを狙った犯人を探しているんだ」
「で、目星はついたのかい?」
お嬢は公爵家のお嬢様で、王太子の婚約者。
いつ命を狙われてもおかしくはない。だが、それにしては不審な点が多かった。
「見つかったら苦労していない」
「やはり、お姉様とカイル様の婚約を解消するべきです。そもそも、カイル様に招待されなければお姉様はあのような目に遭われなかったのですから」
アリシアお嬢ちゃんの意見も理解できる。
王宮の人間に間者がいるらしいし、婚約を解消しちまえば狙われることもなくなるだろう。
まあ、婚約を解消できたとしても、すぐに新しい婚約話が出るんだろうけど……
「それは?」
セシル坊っちゃんが、何かが書かれた紙をテーブルに置いた。
「これは、姉さんと関わりのある人間のリストだ」
置かれた紙を見ると、名前らしきものが書かれていた。
「でも、悪漢や殺し屋を雇えるようには思えない。家名を汚すような事をするほど愚かではないと思う」
「殺し屋かは置いておいて、悪漢は簡単に雇えるだろ」
「そうなんですか?」
「あいつらは、金と酒と女が大好きなクズ共だ。殺し屋よりも安い金で雇えるし、治安の悪い酒場に行けばゴロゴロいるぜ」
腕の立つものもいるだろうし、普通に傭兵をやってりゃ真っ当な生活をできるだろうに……
「詳しいな、お前もやっていたのか?」
「俺がそんなことするように思えるか?」
「……」
二人して黙るとは、否定をしてくれよ。
「俺が村にいたとき、別の村から逃げてきた奴から聞いたんだよ。面白半分で酒屋に行ったこともあったけど、店の雰囲気に合わない小綺麗な格好した奴等が小汚い男と取引のようなことをしているのを見たことがある」
恐らく、小綺麗な格好をしていた奴はお貴族様だったのだろう。
「貴族社会は綺麗なだけの世界ではないからな。足の引っ張り合いや、腹の探り合いばかり。アリシアも気をつけろよ」
お嬢の事しか考えていないと思ったが、なんだかんだアリシアお嬢ちゃんの事も大切にしているんだな。
「お前は姉さんと違って、ガサツだからすぐに足をすくわれるはずだ」
「失礼な!!お姉様にそんな事を言われたことありません」
「それは、お前が姉さんの前で猫をかぶっているからだろ」
……人のこと言えないだろ。
「セシル坊っちゃんも、お嬢の前では猫かぶってるだろ」
「そうですよ。リック、もっと言ってください」
鼻息を荒くして、アリシアお嬢ちゃんはそう言った。
「……うるさい。関係ないだろ」
セシル坊っちゃんは不機嫌そうに顔を逸らした。
好きな子には格好良い所だけを見せたいってか?生意気な坊っちゃんにも、案外可愛い所もあるとはな。
「はぁ……それにしても、屋敷内が安全なのは分かっていますが、お姉様とお出かけできないのはさみしいです」
つい最近まで怪我をしていたのもあるが、お嬢は一日の半分以上を自室で過ごしている。
「温室にも行きたがっていたし、早いとこ犯人が捕まれば良いんだがな」
「一度失敗したんだ、当分はおとなしくしているんじゃないか?」
今は警備も厳重だ、そんな中で事を起こすほど犯人も馬鹿ではないだろう。
「そうかもしれないが、何かあってからじゃ遅いだろ」
「そりゃそうだ」
王太子が味方についているんだ、早いとこ見つかるだろう。
「リックがつまみ食いをしないなんて珍しいな」
「ここへ来る前に、お嬢の所で食ってきたからな」
「は?」
「リック、今なんて言いました?」
しまった、セシル坊っちゃんは適当にあしらえるけど、アリシアお嬢ちゃんは面倒だ。
「俺一人じゃないぞ、ダリルもレーネもいた。なんなら、レーネに追い出されたからすぐに出てきた」
これは事実だ。マリーのときは何も言われないが、レーネとアンナのときは必ず追い出される。
「そもそも、お前が姉さんの部屋に入る事がおかしい。あまり勝手が過ぎるとどうなるか分かっているな?」
お嬢とセシル坊っちゃんのおかげで帰る場所はあるが、従者として働くのも中々悪くない。
だから、この生活を失うわけには行かない。
「へいへい、失礼致しました」




