137 悪役令嬢と全てを癒す力
ランドルフ隊長が心配してくれているのは分かるけど、カイルには怪我を治してもらった恩もある。
「ランドルフ隊長、カイル様ともう少しお話したいことがあるので……」
立ち上がり、扉の近くでランドルフ隊長に声をかけた。
「ですが、パトリシア様……」
「どうしても駄目ですか?」
カイルに代わって、扉の隙間から顔を出した。
「パトリシア様がそこまでおっしゃるなら……ですが、何かありましたらすぐにお呼びください」
「では、もう良いでしょう」
カイルが私の腰に手を回し、抱き寄せた後扉を閉めた。
「パトリシアのことだから、ランドルフ殿を部屋に入れるものだと思っていたよ」
少し悩んだから、否定はしないけど……
「もう少し話したいことがあったのは本当だから」
「そっか、それで話したいことって?」
「アリシアの社交界デビューの日についてなのだけど、ドレスはアリシアとおそろいにしたの」
婚約者がいる場合は、色やデザインを合わせたり、お互いの瞳の色や髪色の物を身につける。
婚約者だと皆に知られてからは、毎回ではないが合わせるようにしていた。
「へぇ、アリシアと…何色のドレスにしたの?私もそれに合わせた物を用意するから」
流石に、それは……アリシアの瞳の色と髪色に合わせた格好をしていたらまずいのでは?
「それは駄目、ドレスはピンク色で黄色の装飾品をつける予定だから」
「なるほどね。パトリシアと合わせても、パトリシアの瞳や髪色に合わせても、アリシアと被ってしまうのか」
凄い、今の話でアリシアのドレスの色を分かったのか。
「まあ、今回はアリシアの社交界デビューだからね。でも、ダンスは私と一番に踊ってくれるんだよね」
「ええ」
最初は婚約者と踊るものだし……セシルのときは違ったけど。
「ダンスの練習は、次に来たときにしようか。足は平気そうだけど、一応ね」
ダンスの練習もうちでする事になるだろうし、アリシアの手本として、いつ見られても大丈夫なようにしておかないと。
私は今からでも平気だけど、カイルが気を使ってくれているのだから、お言葉に甘えよう。
そういえば、私はカイルの能力の事をちゃんとは知らないんだよね。
手で触れただけでなく、唇が触れても治ったわけだし、他にもあるのかな?
前に、毒が効かないと言っていたのと、関係あるのかな?
「……パトリシア?」
「何?」
「そんなに見つめられると、勘違いしそうだから」
カイルが口元を手で隠して俯いた。
見つめていたつもりはなかったんだけど、無意識で見てしまっていたようだ。
「ごめんなさい。少し気になって」
「もしかして、私の顔に何かついていた?」
「いえ、そうではなくて……先日、私の手の甲の怪我を治してくれたでしょ?その…キスで……」
恥ずかしくなって、声が小さくなってしまった。
「足も口づけで治したほうが良かった?」
「違っ……痛っ」
痛い、舌を噛んでしまった。
「大丈夫?」
「……平気」
勢い良く噛んだため、少し血の味がする。
「パトリシア。私の能力はね、意識を集中させたところから力が集まって治すことができるんだ」
私が痛みで少し涙目になっているのに、カイルは突然能力の解説をしてきた。
「基本的には、手のひらに集中させることが多いんだけど……舌を傷つけた場合は……ふふ、どうしよっか?」
カイルは微笑みながら、私の顎を持ち上げた。
「待って、そういうのは……」
まさか、キスで治すつもりじゃ…
「ふっ…冗談だよ。ほら、舌出して」
……冗談か、びっくりした。でも、こんなことに能力を使わせるものじゃないだろうし。
「別にこのぐらいなら、すぐに治るから平気よ」
「そう?でも、私が治したいから」
自然治癒力が低下しそうだから、治さなくてもいいのに。
「本当に大丈夫だかりゃ―」
私が言い終える前に、口の中にカイルの指が入ってきた。
舌に指が触れた瞬間、ピリッと痛みが走ったがすぐに痛みは和らいだ。
「はい、治ったよ」
カイルは満面の笑みを浮かべている。
治してくれたのはありがたいけど、強引過ぎる。カイルの指を噛んでしまった可能性もあるのに。
でもまあ、お礼は言わないとだよね。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
今後は怪我をしても、カイルの耳に入らないようにしないと。




