136 悪役令嬢のヘアアレンジ
「パトリシア様、今日はどのような髪型にします?婚約者様が来られるんですから、とびっきり可愛くしないとですね」
髪を切ってから、マリーはヘアアレンジに凝り始めた。
今日はカイルが来るからか、いつも以上に張り切っている。
マリーはロマンス小説好きで、私がカイルと会う日は毎度ワクワクソワソワしている。
帰ってきてからは、どんな事があったかを聞いてくるから、差し支えない程度に話をしていた。
その度に「素敵ですね」とか「愛されてますね」と言われていた。
そのときは、何の気なしに話していたしカイルの振る舞いに対しても、特に意味のないものだと思っていたけど、マリーからしてみると惚気話を聞いているようなものだったのか。
「いつも通り、マリーに任せるわ」
「えへへ、お任せください」
マリーは腕まくりをして、私の髪にそっと触れた。
「お嬢様、カイル様がお越しになられました」
髪型のセットも終わった頃、アンナが私を呼びに来てくれた。
「すぐに行くわ」
カイルのおかげで、怪我も治り歩き回れるようになった。
扉を開けると、ダリルが待っていた。
屋敷にいる分には大丈夫だと言っていたのに、こうして側にいてくれる。
少し申し訳ないけど、お父様達からの指示だから仕方ない。
「カイル様、お待たせしてすみません」
応接室に入ると、カイルがソファに座っていた。一瞬笑顔になったと思ったが、すぐにスンッとした顔に戻った。
「やあ、パトリシア。ダリルも一緒なんだね」
「はい。屋敷内ですが、念のためにと」
「そっか……」
「……へ、部屋の前でお待ちしていますので、何かありましたらお呼びください」
ダリルはそそくさと部屋を出ていった。
「ふふ、気が利くね」
どうしたんだろう。
まあ、身支度をしているとき以外で、私が部屋にいるときは部屋の中で扉の前に立っているけど、別に良いか。
カイルはダリルが出ていったのを確認した後、ソファをポンポンっと叩いて手招きをした。
また隣か、まあ膝の上じゃないだけマシかな。
「その髪型も、可愛いね」
今日の髪型は、編み込みツインテールになった。低めだけど、少し恥ずかしい。
「この間の髪型も可愛かったけど」
この間というのは、お父様達と話をした時のことだろう。
確か、そのときはハーフアップだったけど、よく覚えているな。
『髪の長さが変わったことで、私が落ち込んでいると思っているみたいで、マリーが色んなアレンジをしてくれるの』
落ち込んでいたのは、一生懸命にお手入れしてくれたマリー達の方だったのに
「この長さでも可愛い髪型は沢山できますからね」
と言ってくれた。
「髪の長さを整えてくれたのもマリーで……」
「切った髪ってどうしたの?」
私がこれから、マリーの凄さを語ろうとしていた所にカイルが口を開いた。
「切った髪は、マリーが欲しがっていたから、あげちゃった」
前世だと呪いとか怖いイメージがあったけど、この世界では、お守りとかにするらしい。
私もマリーに聞いて知ったのだけど……
『恋人や我が子の髪をペンダントに入れてお守りにするんですよ。恋愛や家族愛とは違いますが、私はパトリシア様の事を尊敬しているので敬愛の意味で持ちたいんです』
とマリーが言うと、アンナも欲しがっていた。
「流石に、もう残ってないよね」
カイルは私の髪先に触れながら、伏し目がちに言った。
「ええ、多分」
カイルも欲しかったのかな?……いや、そんなわけないか。
そういえば、王宮関係者が疑わしいのに、カイルは出歩いて大丈夫なのかな?
護衛についている人間の中に、私を狙っている人がいる可能性もなくはないだろうし。
「ところで、カイルの護衛って……」
「ん?ああ、大丈夫だよ。フローレス公爵家の頼もしい騎士達が、私の護衛をしてくれているから」
私がどう言って良いのか言い淀んでいると、今だに、私の髪先を触ってるカイルが察してくれたようだ。
フローレス家の騎士達……ダリルは私の護衛をしてくれていて、たまに交代でフィルやサイラスが来てくれている。クラウド副隊長には、近々借りた上着を返しに行く予定だった。
あれ?……ランドルフ隊長の姿を見ていないな。
あの日も、ランドルフ隊長は来ていなかったし……
「ちょっ、落ち着いてください」
「落ち着いていられるか!!」
扉の外が騒がしくなってきた。
ダリルの声と……
「あーあ。せっかく、二人きりだったのに」
カイルが立ち上がり、扉に向かった。
「何か用かな?ランドルフ殿」
「いくら婚約関係にあるとはいえ、年頃の男女が二人きりになるのは如何なものかと」
半分だけ開いた扉から声だけ聞こえてきた。
ランドルフ隊長は、私の事を我が子のように可愛がってくれている。
「パトリシアの護衛が外で待っているんだから、ランドルフ殿が来なくても大丈夫だったんだけど」
やっぱり、ランドルフ隊長がカイルの護衛をしているのか。
「心配しているのは、カイル殿下とむす…パトリシア様が二人きりになることです」
今、娘って言いかけたな。
「とにかく、私達も部屋に入らせてもらいます」
私はどちらでも良いけど、カイルがチラチラと私の顔を見ている。
うーん、どうしたものか……




