133 悪役令嬢と筆頭侍女
屋敷に着いて少しすると、ダリルの言っていた通り、大粒の雨がポツポツと振り出した。
私達は雨に濡れずに済んだけど、残っていたダリルやクラウド副隊長達、それに王国騎士団達は大丈夫だろうか。
「アンナ達を呼んでくるから、少し待っていてね」
私はお父様に部屋まで運んでもらい、椅子に座らせてもらった。
アリシア達が驚くだろうからと、正面玄関からではなく、裏口から入ってきた。
今は八時過ぎぐらいで、アリシア達もまだ起きているだろうし、私がこんな姿で現れたら、優しいあの子達はとても心配するだろう。
「お嬢様、失礼します」
アンナ達が来てくれたようだ。
私が「どうぞ」と返事をすると、扉が開いた。
「なっなな、なんてこと!?パトリシア様の美しい御髪が…御髪がぁ」
マリーが膝から崩れ落ちて、泣き出した。
「ああ、私の可愛いお嬢様に…許せない」
アンナはマリーの背中を擦っている。
「髪もですが、足の怪我も…一体何があったんですか?」
「とにかく、御髪を整えて入浴の準備、それから手当てをしましょう」
「犯人は捕まったんですよね」
「ええ、王国騎士団に身柄は引き渡されたから、大丈夫よ」
レーネに手当てをしてもらいながら、アンナとマリーに髪の手入れをしてもらっている。
ザンバラになってしまった腰まであった髪は、胸ぐらいの長さに揃えられた。
「ダリル殿がついていらしたのに、何故お嬢様がこんな目に」
手当てを終わらせたレーネが、私の足を撫でて不思議そうに言った。
「この怪我は、逃げるために私が靴を投げたからできたもので、ダリルは関係ないの」
攻撃するためでもあるけど、ヒールだったから、履いていても走れなかったし。
「髪はどうされたんですか?」
「髪は…掴まれて、それで……」
正直に言ったら、頑張って手入れをしてくれたマリー達を傷つけてしまう。
私が言い淀んでいると
「許せません!!乙女の髪を掴んで、無理矢理切るなんて!!」
マリーは切られたのだと勘違いしたようで、激昂している。まあ、捕まれなかったら切る必要もなかったわけだし。
「二人共、お嬢様はお疲れなの。それに、お夕食をまだ取られていないのだから、落ち着いた時にしましょう」
アンナがそう言うと、二人は申し訳なさそうに頭を下げた。
「配慮が足りず、申し訳ありませんでした」
「パトリシア様は怖い目に遭われたばかりなのに…すみませんでした」
「気にしないで。怒ってくれたり、心配してくれて嬉しかったわ。ありがとう」
私のことを、殺したいと思うぐらいに憎んでいる人がいても、私の周りにはこんなにも、私のことを思ってくれている人が沢山いる。
だから、心配をかけてしまってむしろ私の方が、申し訳ない。
「私、一生パトリシア様にお仕え致します〜」
涙目のマリーが、座っている私に抱きついてきた。
「マリー!!お嬢様は怪我をされているんだから、やめなさい」
アンナに剥がされたマリーは、レーネと夕食を用意してもらいに行った。
「……った…す」
「どうしたの?」
アンナが何か呟いた。
「本当に…良かったです」
ポロポロと涙を落としたアンナが、唇を震わせてそう言った。
「お嬢様が…攫われたと聞いたときは、心臓が止まるかと思いました」
アンナ…二人の前では毅然としていたけど、ずっと堪えていたんだ。
「ねぇ、アンナ。抱きしめて」
私は両手を広げる。
マリーを剥がした手前、自分からは抱きついてこないだろうし。
「アンナにこうして抱きしめてもらうのは、久しぶりね」
アンナは私の隣に座り、抱きしめてくれた。
最後に抱きしめてもらったのはいつだっただろう。
温かくて、優しくて落ち着く香り。
「私はお嬢様…パトリシア様の事が大切で大好きなんです。だから、私も迎えの場所に同乗していたら…私が代わりに捕まっていたらどんなに良かったか…そんな事ばかり考えていました」
子供の時からずっと側にいてくれて、こんなにも愛してくれて…原作でも最期までパトリシアの側にいてくれたんだよね。
「私もアンナの事が大好きよ。だから、代わりに…とかそんなこと言わないで。それに、アンナが捕まってしまったら、私は攫った人間に何をするか分からないわよ」
「ふふ…お嬢様には敵いませんね」
アンナが穏やかな笑みを浮かべた。




