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132 悪役令嬢とフローレス騎士団

ダリルは私を下がらせて、攻撃を仕掛けた。

「何故、この場所が…」

と騒然としていた男達も、我に返り迫って来た。

「騎士が一人来たところで」

あれ?応援を呼ぶようにお願いしたのに、何故ダリルだけ?いや、来てくれたのは嬉しいけど。


「嬢ちゃん、さっきはよくも!!」

私が負傷させた男が近くまで来ていた。

片足を引きずるようにして歩きながら、剣を振り下ろしてきた。

私は斜め前に踏み出し、攻撃を躱した。足の傷が痛むのか、スピードも威力も弱まっているため、簡単に躱す事ができた。

私は剣を構え…ずに思いっきり、拳に力を込めて男の顔を殴った。

男は軽くだが後ろに吹っ飛び、うめき声をあげた。

「わぁー」

女の私でも、それなりに鍛えていたら男の人殴って吹っ飛ばせるぐらいできるのか。

思わず自分の拳を何度も見て、感嘆の声を漏らしてしまった。

って、そんな事をしている場合ではない。ダリルは五人を相手にしていて、この男もまだ完全に落ちてはいない。

私は剣を握り直し、剣先を男の首の辺りに当て、見下ろしていると「ひっ」という声が漏れた。殴られた事で、さっきまでの威勢の良さを失い、男は身体を強張らせた。

流石に、殺したりはしないけど…


「その瞳、まさか……戦狂と言われていた、紺碧の若獅子!?」

戦…狂い?それに、紺碧の若獅子って何?ダサっ…くわないけど、そんな通り名をつけられている人がいるのか。


「パトリシア様、後はこちらで対応いたします」

芯のある男性の声が聞こえ、肩に何かをかけられた。

これは、フローレス騎士団の制服…見上げるとクラウド副隊長がいた。

騒がしくなってきた辺りを見渡すと、フィルやサイラス達も……良かった。

クラウド副団長が男の身柄を拘束してくれた。


「ダリルー頑張れー」

「頑張れー」

「確かに、応援をお願いしましたけど…」

応援って、そういう意味では…

「喋ってないで、集中しろ」

「あーあ、今のはもうちょい上手く躱せただろ」

「そんなんで、パトリシア様の護衛騎士が務まるのか!?」

応援どころか、野次を飛ばしてるし。

あ、ダリルのスピードが上がった。なるほど、野次ではなくて、鼓舞してたのか。


「パトリシア様、拳を痛めていませんか?」

「ええ、平気」

クラウド副隊長は、男を拘束させたあと、私の手当てをしてくれている。

骨に以上はないけど、少し赤くなっている。

「パトリシア様、次からは指輪をはめて殴ると良いですよ。グローブをつけているときは、石とか硬貨を握ったまま殴るのもおすすめです。女性の拳でもそれなりの威力が出ますからね」

クラウド副団長は淡々とした口調だが、結構怖いことをしれっと言っている。

それにしても、殴ってる所見られていたのか……未熟だから、アドバイスをくれたのかな。

「足は、一度水で洗ってから手当てをした方が良さそうですね」

…足?そっか、靴を投げたから裸足だった。ストッキングは破けてボロボロ、足の裏は傷だらけになっていた。

痛い…急に痛くなってきた。緊張が解けた瞬間痛くなるなんて……

アドレナリンが出てると、痛みを感じないって本当だったんだ。

私は痛みで、涙目になっていると

「よく、頑張りましたね」

とクラウド副隊長は、優しく頭を撫でてくれた。

怖くて泣いていたわけではないんだけど、まあいっか。

「クラウド副隊長、こいつらも拘束しました」

「ご苦労、そろそろ王国騎士団も来る頃だろう」

王国騎士団が!?



「後は王国騎士団に任せて、パトリシア様は先に帰りましょうか」

フィルが抱き上げてくれた。

「雨が振りそうなんで、急ぎましょう」

ダリルが空を見上げて言った。

少し雲がかかっているが、雨が振るようには見えないけど…

「パトリシア!!」

焦ったような、心配したような声が響いた。

「お父様」

フィルがお父様の前まで近づいてくれた。

「ああ、パトリシア。本当に良かった、怖かったね」

お父様は今にも泣きそうな顔で、私の頭を撫でた。

お父様に続き、後ろからは王国騎士団もやって来た。

「私達は報告がありますので、フィルとサイラスはお二人の護衛に、他のものは残ってくれ」

私はお父様の乗っていた馬に乗せられた。

一応…被害者だし?私も同行しなくて良いのかな?

「パトリシア、お家に帰ろうか」

「はい、お父様」

お父様に手が頭に置かれた。

私も今日はもう屋敷に戻りたい。

お父様達もそう思って、気を使ってくれたのだろう。


そういえば……

「お父様…一つお聞きしたいことが…」

「何でも聞いてごらん」

「紺碧の若獅子って何ですか?」

「紺碧?……え、ん?そ、それをどこで聞いたのかな?」

お父様はあからさまに動揺している。

「私が倒した男性が、私の瞳を見てそう言ったんです」

「……そ、そっか、ごめんね。お父様も分からないな」

お父様の耳が赤くなっている。やっぱり、『紺碧の若獅子』はお父様のことだろう。

ん?待てよ、お父様が戦狂?戦場に出るようなことがあったってこと?

「お父様って、騎士だったんですか?」

「言ってなかったかな?僕は一応フローレス騎士団の団長だよ。今は名ばかりのだけどね」

「えー!?」

宰相に騎士団長、多忙過ぎるのでは?

私が剣を習いたいと言ったときに、教えてくれてもよかったのに。




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