131 悪役令嬢は立ち向かう。
私は今後ろ手に縛られた状態で、椅子に座らせられている。
薄目を開けて見えた景色から察するに、古い物置小屋のような所だ。
私は壁側にいて、私の前に三人、扉の辺りに三人。
それにしても、私が犯行に及ぶなら、馬車の車輪に攻撃して横転させて、事故に見せかけるみたいなことを考えるけど、馬車をそのまま放置するなんて、殺しが目的にしてはお粗末だな。
「脱がせるなら、一発ぐらいヤッても良いよな?」
なるほど、そういう目的か…
「男を知る前に死ぬなんて可哀想だろ。俺が相手してやるんだよ」
私はダリルから借りた、ダガーで縄を切っている。
そろそろ、起きていると気づかれるだろうし。
「その後、殺して馬車に戻しゃ良いだろ」
馬車を放置したのは、そのためか。
御者のおじさんは、私のせいで殺されてしまった。
私は、関係ない人を巻き込むだけでなく…
私に恨みを持っている人間が、少なからずいるのは知っている。
公爵家に生まれて、王太子の婚約者。何も努力せずに皆が望むものを手にしているから…
でも、私が死んでもその誰かが、公爵家になれるわけでもなければ、カイルの婚約者になれるわけでもない。
最初に配られた手札の中でどう生きるかが問題なのだから。
そして、私はまさにそのカードを使うときが来たのだ。
「ねぇ、貴方達にこんな事を依頼したのは誰?」
「ようやく目が覚めたか、お嬢ちゃん」
「依頼主は教えられねぇな。まあ知られてもお前はここで死ぬんだけどな」
簡単には教えてもらえないよね。
「そう、解放してくれるなら、その依頼主の倍のお金を払うつもりだったのだけど」
二人程ピクリと反応した。
「私は公爵家よ、お金なら沢山あるわ。それに、解放してくれるなら、貴方達のことも秘密にしてあげる」
「……助けも来ない嬢ちゃんに、用意できるわけないだろ」
まあ、そこまで馬鹿ではないか。
「そう、交渉決裂ね」
「これから殺されるってのに、やけに落ち着いてるな」
私を襲おうとしていた小太りの男が、ゆっくりと私に近づいてきた。
縄は解けた、今だ!!
「うぐっ…」
私は小太りの男のお腹を蹴った。その反動で椅子ごと後ろに倒れてしまったが、反動のおかげか、上手いこと後転倒立が決まった。
小太りの男はうずくまっているが、他の男達が集まってきた。
私は座らされていた椅子を掴み、振り回した。
流石にこの狭さで、剣を振れば同士討ちになりかねない事を理解しているようで、男達は剣は構えていない。
椅子を振り回したまま、扉に近づき椅子を男達に投げた。
私が連れて行かれてから、どのくらいの時間が経ったのかは分からないが、オレンジがかった空が深い青が混ざった色に変わっているため、ダリル達が来てもおかしくない頃だろう。
小屋を出たら、とりあえず全力で走ろう。
私は扉の近くにあった剣を奪い、履いていた靴も男達に向かって投げた。
後は扉を開けて逃げるだけ…
「…痛っ」
「随分と舐めた真似してくれるじゃねえか」
しまった、うずくまっていたから無視していたが、小太りの男が復活しているとは…
扉を開けた瞬間、髪の毛を掴まれてしまった。ブチブチと嫌な音がしてきた。
仕方ない…
「なっ…」
私はダガーで髪を切った。幸い、掴まれていたのが毛先に近い部分だったため、大したことはない。
ダガーから剣に持ち替え、間合いを取る。
小太りの男は丸腰だったため、後退りしている。
「おいおい、嬢ちゃんがそんな物扱えるのか?」
もう一人の男が剣を持って出てきた。
外に出られたは良いけど、こうなっては逃げられない。
「オラッ!!」
剣を勢い良く振り下ろしてきた。
まともに受ければ力で負ける、私は剣先で受け流す。
不意を突くにはちょうど良い。袖に忍ばせておいたダガーを振りかざした。
男はそれを避けるために、剣を構えた。
もちろん、私はそれを振り下ろす……わけではなく、剣を握り直して、男の足に突き刺した。
「ぐっ…うあぁ」
剣を落とし、足を押さえてうめき声をあげている。
本物の剣を握ったのは初めてではない。けど、こうして傷を負わせたのは初めてだ。
手足が少し震えている。でも、躊躇ってはいけない。
「調子に乗るなよ。このクソ女!!」
小屋にいた男達が武装して出てきた。
なんて典型的な……でも運が悪いわね。
「残念ね、私の素敵な騎士様が来たみたい。貴方達も終わりね」
最初に配られた手札のおかげで、私は最強の切り札を手に入れたのだから。
「パトリシア様、遅くなってしまいすみません。後は俺にお任せください」




