婚約者との甘いひととき
少しずつではあるが、着実にパトリシアとの距離が縮まっているそう思っていた。
でも、それは勘違いだった。
パトリシアは私へ恋愛感情を持っていないどころか、初恋もまだだった。
つまり、今までのアプローチは全くと言っていいほど、効果がなかったということだ。
いや、照れたり恥ずかしがったりはしていた。
その後必ず、アリシアやセシルによる妨害が入り、うやむやになって忘れられていることが多かった。
先日、私に好きだと言ってくれたのも、人間としてという意味だったのだろう。
…どんな意味であっても、好意を持ってくれているのは嬉しかった。
子供の時は、少し嫌われていたような気がしていたから…
来年には婚礼の儀を行うつもりでいたから、今のままではパトリシアの気持ちを無視してしまうことになる。
そんな事はしたくない。それはパトリシアに対しても、パトリシアへ想いを寄せているセシル達にも申し訳ない。
王太子である立場を利用しただなんて、思われたくない。
と言いつつ、二人きりになるために王宮へ招待しているのだけど。
今パトリシアは、私の腕の中にいる。
耳まで真っ赤にして、両手で顔を隠している。
ルミネージュの王城で、オーロラを観た日。
パトリシアが言った「少し時間はかかると思うけど」はぬいぐるみを製作するには、時間がかかるという意味だったのだ。
何故プレゼントしてくれたのか、ようやく理解できた。
「パトリシア、顔を見せて」
「やっ、今は駄目…」
パトリシアの手を掴んで、顔から離す。
紅潮した頬に潤んだ瞳、唇は震えている。初めて見る表情に心臓が跳ねる。
「パトリシア…」
できることなら、震えている唇に口づけをしてしまいたい。
「あーお兄様見つけた」
扉が開き、シャルルが入ってきた
シャルルに邪魔をされないために、わざわざ執務室を選んだ上に、人払いもしていたのに…
「シャルル、母上とお茶会の予定では?」
「うん。でも、お母様がパトリシアが来てるって言ってたから」
……母上、知っていて何故、シャルルを引き止めてくれなかったのだろうか。
「シャルル様もこちらでお話しましょうか」
パトリシアは素早く私の膝から降りて、シャルルの元へ行ってしまった。
そして、何故か私の膝の上に、シャルルが乗っている。
まあ、向かい側に座り直そうとしたパトリシアを、隣に座らさてくれたのはシャルルだけど。
「お兄様のお膝、座り心地悪い」
「なら降りてくれないかな」
二人きりの時間を邪魔された挙句、文句を言われるとは…
「私のお膝に乗りますか?」
やはりそうなるのか…
「ううん、僕にも婚約者がいるから、もうパトリシアのお膝には乗らないよ」
それは良かったけど、膝に乗ること自体はやめないのか…
「僕も、お兄様みたいに格好良くなって、ルミネージュのお姫様に好きなってもらうんだ」
顔だけなら、フローラ王女のお眼鏡にかなっているだろう。
「ねぇねぇ、パトリシアはお兄様のこと格好良いって思ってる?」
「格好良いと思っていますよ。優しくて、周りのことをよく見ていて…」
「パトリシア…」
パトリシアは私の事をそんなふうに思ってくれて…
「シャルル!!二人の邪魔をしては駄目でしょ」
再び扉が開くと、母上が入ってきた。
「ごめんなさいね。二人とも、シャルル行くわよ」
「え〜」
母上に抱き上げられて、シャルルは連れて行かれた。
少しの沈黙の後、パトリシアが口を開いた。
「さっきのは、無意識で言ったわけではなくて、本当に思っていることで…」
「うん、パトリシアが私の事を、どう思っているか知れて嬉しいよ」
邪魔はされてしまったけど、シャルルのおかげだ。
カイルがぬいぐるみをプレゼントされた日
「見た?カイル殿下、すごく機嫌が良かったの」
「パトリシア嬢からプレゼントを貰ったんですって」
「へぇ、どんなプレゼントだったのかしら」
「それがね、手作りのぬいぐるみですって、ご自分のお姿の」
「可愛らしいですね。ご自分のぬいぐるみをプレゼントするだなんて」
「ね、カイル殿下も嬉しそうに、ぬいぐるみを眺めていらっしゃったわ」
こうして、あっという間にパトリシアがぬいぐるみをプレゼントしたことは、王宮へ知られていった。




