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129 悪役令嬢と執務室

あんな事があった二日後、私はカイルに王宮へ招待された。

正直気まずいが、断れる立場でもない。


「パトリシア、来てくれて嬉しいよ」

あの日の帰りの馬車での態度とは違い、にこやかに出迎えられた。

「お招きいただきありがとうございます」

「では、行こうか」


「ここは…」

いつも通される部屋とは違う部屋へ案内された。

「ここは私の執務室だよ」

「執務室!?」

忙しいのに私を招待したの?

「忙しいなら、日を改めて…」

「ん?仕事は方がついているから、心配いらないよ」

なら、良いんだけど…

「さあ、パトリシア。おいで」

先にソファに座ったカイルは、満面の笑みで膝をポンポンっと叩いている。

これは、膝に乗れってこと?王子の膝の上に!?

「ほら、早く」

カイルに腕を引かれて、無理矢理膝に乗せられた。

「カイル、この体制は流石に」

「ん?鈍感なパトリシアも照れているのかな?」

横抱きにされているから、顔も近い。分かっているなら、やめてほしい。


「パトリシア、このクッキー美味しいよ。はい、あーん」

「自分で食べられ…むぐっ」

何故、毎度話している途中に、無理矢理…

「パトリシア、私にも食べさせて」

カイルは自分の口に指を指している。

私にもって、カイルが勝手にやった事なのに…

そうだ…

「あーん…」

私はクッキーを一枚取り、カイルの口元へ持って……

行くふりをして、自分の口に持っていった。

「へぇ~パトリシアはそんな意地悪をするんだ…」

顔は笑っているけど、絶対に怒っている。

私のちょっとした悪戯でこんなに怒るんだから、やっぱり私の事が好きかもと思ったけど、気のせいかも…

「うむっ」

いつの間にか、口にクッキーを突っ込まれていた。

「まだ食べちゃ駄目だよ」

カイルはそう言うと、私の頬に手を添えてクッキーに口をつけた。

こういうのって、普通もっと長いものでやらない?

って、そうじゃなくて!!

私は思わず目を瞑ると、パキッと音を立てて、クッキーが割れた。

「ふふ、仕返し」

悪戯っぽく笑って、私の口元を指でなぞった。

顔が熱い、絶対に変な顔をしている。

「膝から降りても良い?」

「駄目」

さっきよりも、しっかりと腰を抱かれている。


「先日、聞きそびれたのだけど、ピアス開けたんだね」

話題を変えられても、膝から降りたいという気持ちは変わらない。

「これ…見覚えが」

「ああ、セシルとおそろいなの」

セシルは左耳に、私は右耳に開けてもらった。

思っていたほど痛くなかったけど、たまに髪が引っかかると痛いんだよね。

「へぇ…妬けちゃうな。私とおそろいのネックレスはつけてくれないのに」

口元は笑っているのに、目が淀んでいる。

「…なんてね。そんな事はもう気にしていないよ。私はパトリシアが初めて作ったぬいぐるみを貰っているからね」

カイルが指を差した先には、私の作ったぬいぐるみが置いてあった。

「君に会えない間、ずっと側に置いているんだよ」

机に置かれているぬいぐるみは、私が作ったドレスとは違うドレスが着せられていた。

「大丈夫、着替えは侍女にさせているから」

侍女にそんな事を…くだらない仕事を増やさないであげて欲しい。

「カイルが着せ替えたら良いのに」

「ぬいぐるみとはいえ、婚前にパトリシアの服を脱がせるなんてできないよ」

ぬいぐるみの着せ替えだから、変な言い方をしないで欲しい。


「君は何故、ぬいぐるみをくれたの?」

「え?だって、カイルが…」

あれ?あみぐるみを欲しがっていて…いや、確かあのとき…

「私がどうしたの?」

カイルが、パトリシアが欲しいって…それで、編み物は難しかったから、ぬいぐるみに……

カイルは一言も、あみぐるみもぬいぐるみも欲しいとは言ってない!?

じゃあ、自分の姿をしたぬいぐるみをプレゼントした私って…

待って、そうなるとカイルの言葉の意味って…

「私…勘違いして」

恥ずかしい、何でぬいぐるみだと思ったんだろう。

顔に熱が集まってくる。私は顔を両手で隠した。

「うん」

カイルは穏やかな声色をしている。

「カイルがあのとき、私の事を欲しいって言ったのって…」

「ルミネージュ王国でオーロラを観た日のことかな?あれは、パトリシアを早く私の者にしたくて言ったのだけど」

「そういう意味だと思わなくて…」

「うん、今思うと噛み合っていなかったなと思うよ」

あのときは思わなかったんだ。

「自分の姿のぬいぐるみを渡したなんて、恥ずかしい…」


何でもっと早く気づかなかったんだろう。

カイルは侍女に着替えをさせているから、私がぬいぐるみをプレゼントしたことを知っているってことだろうし、恥ずかしすぎる。


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