128 悪役令嬢と赤ん坊
村の案内が終わったようなので、私とカイルは、ダリル達の元へ戻る。
すると、パタパタという足元が聞こえてきた。
「パトリシアおねーちゃん」
サナが手を振りながら、駆け寄ってきた。
「わたしね、おねえちゃんになったの」
お姉ちゃん?思わず聞き返すと、サナの後ろをゆっくりと歩いてサナのお母さんがやって来た。腕には赤ちゃんを抱いて。
「息子のトムです」
私が最後に村に来たのは半年前、そのとき、サナのお母さんに会えなかったのは妊娠していたからだったのか。
トムは先程から、あ~とかう〜と声をあげながら、短い手をぐーっと伸ばしている。
「可愛い」
むちむちぷくぷくで、食べちゃいたいぐらい可愛い。
「パトリシア様、良かったら抱いてあげてください」
「良いの?」
「是非、この子もきっと、美人さんに抱っこしてもらえたら喜びますから」
腕を受け取る姿勢にして、トムを腕に乗せてもらった。
ふにゃふにゃで、あったかい。
「ふぇっ」
トムは私の顔を見るなり、今にも泣きそうな顔をしてぐずりだした。私の顔、怖かったのかな?
「へったくそだな。もう少し胸に近づけて、ゆっくり揺れながら、軽く尻を叩く」
私がオロオロしていると、リックがアドバイスをしてくれた。
私はリックに言われた通りに、お尻を軽くポンポンと叩きながら、ゆっくりと揺れてみた。
「笑った」
キャッキャと楽しげな声をあげて、トムはニコニコと笑っている。
「すごいわね、リック。赤ちゃんのあやし方知っていたなんて」
リックがいなければ、確実に泣かれていた。
「ここのチビ達の面倒は俺とダリルで見てたからな」
「俺はよく泣かれてたんですけどね」
ダリルが悲しげに笑った。
「赤ん坊のときは俺が散々面倒見てやったのに、成長するとダリルに懐いて、俺に生意気な口を聞いてくるんだよな」
今度はリックが悲しげな表情をしている。
そうは言っているけど、生意気な事を言われても、可愛がっているし子供達もリックの事を慕っているのがよく分かる。
「腕疲れただろ、俺が代わる」
それほど疲れてはいないけど、リックも抱っこしたいだろうし、トムを受け渡した。
さっきまで、手足をバタバタと元気に動かしていたトムは、リックに抱かれてから、ものの数分で眠りについた。
「サナのときも思ったけど、本当にあやすのが上手ね」
サナのお母さんがしみじみと言った。
「リックは良い旦那さんになりそうね」
「そりゃどうも。お嬢は…もう少し頑張らないとな」
「パトリシアおねえちゃん、わたしは?わたし、おかあさんのおてつだいしているんだよ」
「良いお姉さんね」
「サナは偉いな」
私とダリルでサナの頭を撫でると、サナは「えへへ」と喜んだ。
赤ちゃん返りもしないで、一生懸命お手伝いしてお姉さんをできるのは、こうやって褒めてくれる人が沢山いるからだろうな。
「パトリシア、私もシャルルがいたから、赤ちゃんをあやすのは得意だったよ」
ずっと静かだった、カイルが突然張り合ってきた。
そういえば、あやすのが上手かは分からないけど、あしらい方が上手だったな。
褒められ待ちなのか、期待に満ちた瞳で見つめられいる。
「良いお兄様ですね」
「……」
…あれ、違った?リックは吹き出しているし、ヘクターも肩を震わせている。
でも、褒められ待ちだったわけだし…もっと褒めろってこと?
「…偉いですね」
カイルの頭を撫でると、ヘクターが声を上げて笑った。
「パトリシア様は、面白い女性ですね。今のはー」
「ヘクター。君、後で覚えておいてね。行くよ、パトリシア」
「え?あ、はい」
少しムッとした顔のカイルに手を引かれて、木陰に入った。
「まったく、エレノアの想い人でなかったら、許してなかったよ」
カイルが一息ついた。
結局、何が正解だったんだろう。ヘクターが何か言い掛けてたけど、カイルに遮られてしまったから聞けなかったし。まあ、いいけど。
それにしても…
「エレノアは何で私に相談してくれなかったんだろう」
プレゼントに関しては、男性からの意見を貰ったほうが良いのは分かるけど…
「ふふ、君はそういう方面には鈍いからね」
鈍いとは失礼な。でもまあ…
「初恋もまだだから、あながち間違っていないかも」
「そっか…初恋も…え!?」
そんなに驚かれるとは…
「はぁ…パトリシア、君は本当に稀代の悪女だね」
「え!?」
私、悪いこと何もしてないけど、もしかして原作の展開に近づいて…
「いくらでも待っているつもりだったんだけど、今までのアプローチも全く利いていなかったとは」
カイルに両頬を掴まれて、真っ直ぐと見つめられている。
目を逸らした瞬間、頬に柔らかい感触が…
「へ?」
「一応言っておくけど、今のは挨拶ではないからね」
待って、どういう事?今、カイルは私の頬に…
「鈍感なところも可愛いけど、そろそろ私の気持ちに気づいてほしい」
カイルは苦しそうな顔をしている。
「今まで私は、君の言葉に振り回されてきたんだ。ここからは、私のターンだよ。覚悟しておいてね」
またも、カイルの唇が頬に触れた。
「ふふ、真っ赤になって可愛い。次はここにするから」
カイルの指が、私の唇をなぞる。
待って…え?嘘
「カイルって、もしかしてー」
「今はまだ聞きたくない」
カイルの手で、口を塞がれてしまった。
「戻ろうか」
私はカイルの手を借りて立ち上がった。
帰りの馬車では、何度かカイルと目が合ったけど、プイッと逸らされてしまった。
私の勘違いでなければ、カイルは私の事、恋愛対象として好きだったってこと!?




