127 悪役令嬢とヘクター
ダリルとリック宛に、村長さんから手紙が届いたため、二人は休暇の日に村へ戻ることになった。
私も二人に誘ってもらいついて行くことにした。
屋敷を出ると、見覚えのある馬車が停まっていた。フローレス家の馬車ではない。
あれは、街へ出かけたときに乗せてもらった、王家の紋章が入っていない馬車だ。
ということは…
「やあ、パトリシア。これから、ダリル達と村へ出かけるのかな?」
カイルが馬車から降りて、こちらにやって来た。
「何で分かったんですか?」
お父様から聞いたのかな?
「君達、村長から手紙が来たんじゃないかな?内容は新しい領主が挨拶に来るから…というもので」
「何故、カイル様がそれを」
領主を決めるのは王族だから、知っていても当然だけど、何で今日挨拶に来るって知っているんだろう。
「私は、その新しい領主と一緒に来ているからね」
「ヘクター=ウィリスと申します」
カイルの後ろに控えていた男性がお辞儀をした。
帯剣をしているから、カイルの護衛かと思ったが、彼が新しい領主なのか。
「パトリシア=フローレスです。それから…」
「パトリシア様の護衛騎士をしています。ダリル=ヨルクです」
「フローレス家の従者のリックっす」
私に続き、二人も挨拶を済ませた。
「行き先は同じなのだから、乗っていくといいよ」
お言葉に甘えても良いのだろうか、村の人達が驚いてしまいそうだけど。
「パトリシア、行こうか」
カイルに手を掴まれてしまった。
ダリルもリックも、気にせずに馬車に向かって歩いている。
二人とも物怖じしないな。
「まだ伝えていなかったけど、ヘクターは王国騎士団の次期副団長だよ」
馬車が動き始めると、カイルが口を開いた。
やっぱり、騎士だったんだ。
それにしても、私達より少し年上に見えるけど、その若さで副団長だなんて、余程の実力を持っているんだろうな。
「お若いのに、すごいですね」
「僕は今年で二十三になるので、パトリシア様の方がお若いですよ」
嘘、二十三歳!?もう少し若いと思っていた。いや、二十三も十分若いんだけど。
村に到着すると、村長さんが出迎えてくれた。
ダリルとリック、ヘクターは村長さんの所へ向かい挨拶をしている。
王子であるカイルはローブを羽織り、フードをかぶって髪色を隠しているが、一応離れた所にいる。
私は村長さんに軽く挨拶をした後、カイルの元へ行った。
「パトリシアはヘクターの事、どう思った?」
どうって…
「穏やかで、優しそうな方だなと」
おまけに強いなら、ここの領地は安心だろう。
「パトリシアがそう思うなら大丈夫だね。一応聞くけど、好きにはなっていないよね?」
「人として好感は持てるけど、それがどうしたの?」
何故、そんな事を聞くんだろう。
「彼は、エレノアの想い人だよ」
へぇ〜エレノアの想い人は、ヘクターか。そういえば、前に好きなタイプは騎士様だって言っていたな。
その頃から好きだったのかな?
私が好きになっていたら、エレノアの恋敵になってしまっていたから聞いてきたのか。
ってそんな事より、勝手に人の好きな人を暴露するのはいかがなものか…
「それと、今ヘクターがつけているブローチはね。エレノアがプレゼントしたものだよ。プレゼントを貰った日のヘクターは、心底幸せそうだったな。彼も、そろそろ勇気を出して欲しいところだけど、私が口出しをするべきではないからね」
…つまり、二人は両思いってこと?
「ヘクターはデイン侯爵家の次男だから、爵位を与えたんだ。騎士として功績を挙げた褒美にね」
そっか、後継者ではないヘクターと、エレノアでは結婚できても、爵位はないも同然になるのか。
カイルは二人のために…
「カイルはカッコいいわね。私は、カイルのそういう所好きよ」
エレノアが王宮に呼ばれていたのも、きっとカイルがヘクターと会うきっかけを与えていたんだろうな。
そういう所に気が回るなんて、本当にカッコいいな。
「パトリシア、今のもう一回」
カイルは褒められて、照れているのか顔が赤い。
言われ慣れているだろうに、こんなことで照れるんだな。
「カイルはカッコいいわね」
「その後の言葉も」
その後?何か言ったっけ?ついさっきのことなのに思い出せない。
「えっと、ほぼ無意識で言っていたから、何を言ったか覚えてなくて」
「そっか、無意識ね…良いよ、また自然と口にしてもらえるように頑張るから」
私が何を言ったか覚えていないのに、カイルは嬉しそうに笑った。




