125 悪役令嬢は義妹と踊る。
アリシアの社交界デビューに向けて、準備が始まった。
「アリシアは、誰にエスコートしてもらうの?」
私はお父様にエスコートしてもらったし、アリシアもお父様かな?
「お父様はお母様のエスコートをされるでしょうし、お兄様にお願いするつもりです」
そっか、アリシアも成人したわけだし、母上も参加するのか、皆で参加できるのは嬉しいな。
「仕立て屋さんがお見えになられましたよ」
デイジーが呼びに来てくれて、私達は部屋を移動した。
「ご希望の形やお色はございますか?」
「私は、お姉様とおそろいのドレスが着たいです」
アリシアは用意されたカタログに目もくれずに言った。
「まあ、良いわね」
「そうだね、二人で並んだらとても可愛いだろうね」
お父様と母上は乗り気みたいだけど、主役のアリシアとおそろいにするわけには、それに着られるドレスは沢山あるのに新調するなんて…
「駄目ですか?」
うるうるとした瞳で見つめられている。
駄目よ、主役はアリシアなんだから、アリシアにはとびっきり輝けるドレスを着てもらわないなんだから、可哀想だけどここは我慢してもらわないと……
「そうね、おそろいにしましょうか」
…無理だった。あんなに可愛らしい顔で見つめられて、断れる人間がいるだろうか、いや、いない。
「私は、青と黄色を基調としたドレスが良いです」
アリシアに青色はミスマッチな気が…いや、本人の希望だし。
「そして、お姉様は黄色とピンクで」
ピンク…ピンクか、私には可愛すぎるのでは?
でも、アリシアはお互いの色を取り入れたドレスを着たがっているみたいだし…
「アリシアは黄色の生地をメインにして、装飾品を青色にした方が似合いそうね」
あまり口出しをするべきではないけど、アリシアの幼さの残る可愛い顔立ちにはやっぱり、暖色系が合っている。
「お姉様…私のために…そのイメージでお願いします」
アリシアは社交界デビューで着るドレスの他に数着仕立てて貰うことになった。
「ドレスが決まったら、ダンスの練習を頑張らないとね」
母上がそう言うと、アリシアの表情が曇り始めた。
「うぅ…お兄様、厳しいんです。少し足を踏んでしまっただけで、怒るんです」
アリシアとセシルのダンスか、楽しみだな。
私も練習をしておかないとだけど、セシルも大変だよね。
良いこと思いついた。
翌日、私は昨日思いついたことを、行うために着替えを済ませた。
そして、アリシアがダンスの練習をしている部屋へ向かった。
扉を開けると、ムッとした顔のアリシアがこちらを向いた。
「お兄様、遅いです…お、お姉様!?」
アリシアは不機嫌そうな顔から、困惑したような表情に変わった。
「可愛い姫君。よろしければ、私と踊ってくれませんか?」
私はアリシアの前に跪いて、手を取った。
そう、私は男装をしてアリシアのダンスの練習を手伝うことにしたのだ。
セシルには前もって話をしておいたが、アリシアには伝えていなかったため、驚かせてしまうことになった。
「え?これは白昼夢ですか?…どうしましょう、私…」
ちょっとセリフが痛々しかったかな?アリシアが喜ぶと思ったんだけど。引かれちゃったかな?
「私、とても嬉しいです。よろしくお願いします」
「お姉様と踊れるなんて、夢みたいです」
アリシアは聞いていたほど、踊れないわけではないようで、軽やかにステップを踏んでいる。足も今のところ踏まれていない。
「アリシア、上手ね」
「お姉様のリードがお上手なんです」
男性パートなんて初めてなのに、上手いはずないと思うけど、アリシアをリードできているなら良かった。
「セシルが忙しいときは、私と一緒に練習しましょう」
「本当ですか?お兄様、ずっとお忙しいままでいてくれると良いんですけど」
それはセシルが可哀想だな。
まあ、セシルを少しでも休ませるためにやっているんだけど。
「お姉様と一緒に練習をして、当日はおそろいのドレスまで着られるなんて、幸せ過ぎて…どうにかなってしまいそうです」
アリシアは少し疲れてきたのか、顔が徐々に赤くなってきた。
頑張り屋さんだな。
「ふふっ、可愛い……ちょっ、大丈夫?」
アリシアが突然、ふらついて私にもたれかかってきた。
「もう…駄目です」
「気づかなくてごめんなさい。少し休憩しましょうか」
「いえ、お姉様の眩しさで、ふらついてしまっただけですので大丈夫です」
「そう…でも休憩にしましょう」
今日は日が差しているから、私の髪色に反射して眩しかったのかな?
私はアリシアをソファに座らせて、カーテンを閉めた。
数日前
「痛っ…アリシア!!お前わざとだろ」
「わざとじゃないです。足が滑ってしまっただけです!!そもそもお兄様のリードが下手なんじゃないですか?」
僕はアリシアにヒールで思いっきり、足を踏まれ痛みに苦しんでいる。
苦しんでいる僕を見て、笑いを噛み殺すように唇を震わせているアリシアが心底憎らしい。
「姉さんと踊ったときは、一度も踏まれたことはなかった」
「それは、お姉様がお上手なだけでお兄様が上手いわけではないと思います」
本当にこいつは…生意気というか、憎たらしいというか…
「はぁ、もう一回最初からだ」
「だから、右足じゃなくて左足を…っ痛…今のは確実にわざとだろ」
「…エリーゼが口うるさい人にはこうするのが一番だって」
エリーゼが…エリオット様はもっと酷い目に遭われているんだろうな。
「お前のために言っているのに、口うるさいとはなんだ」
流石に頭にきた。
こういうときに、一番効く言葉がある。
「姉さんの前で恥をかいてもいいのか?」
アリシアがピクリと反応した。
「それに、ダンスも所作も綺麗な姉さんと並んで、姉さんに恥をかかせることにもなるな」
「それは絶対駄目です!!お兄様、真面目にやりましょう」
僕は最初から真面目にやっているんだけど…
「お姉様に褒めていただくために、頑張らないと…」
アリシアはようやく真面目に取り組む気になったようだ。
アリシアの練習から解放されたら、姉さんにはアリシアよりも僕を褒めてもらいたい。




