124 悪役令嬢は退散する。
セシルとエレノアがデートではなかったことが分かり、尾行する必要はなくなった。
「そろそろ出ようか」
ケーキを食べ終えて、少しするとカイルが口を開いた。
「それじゃあ、カイル様ごちそうさまでした」
「カイルの奢りだったんだ。ごちそうさまでした」
「パトリシアの分は払うけど、何故、私が君達の分も払わなきゃいけないのかな?」
私が付き合わせてしまったわけだし、ここは皆の分も私が払うべきだよね。
「私が皆の分も払うわ」
「え!?トリシャちゃんは払わなくていいんだよ」
ミシェルが慌てたように言った。
「私が、付き合わせてしまったのだし…」
「俺は好きでついてきただけだから、パトリシアは気にする必要ないよ。自分のとパトリシアの分は俺が払うよ」
…すごい、大人だ。
でも、セシルに聞けば済むことだったのに、聞かずにデートだと勘違いして尾行したわけだから、やっぱりここは私が払わないと。
「そういうわけには、私が皆の分も―」
「ここの会計は全て、私が持つよ」
私の言葉に被せて、カイルはそう言った。
「まったく、最初からそう言ってよ」
「君達がそれ相応の態度を取っていたら、最初からそのつもりだったよ」
「そういうことみたいだから、パトリシアも払わなくていいよ」
…本当に良いのかな?
「カイル様、ごちそうさまでした」
「良いことも聞けたから、気にしなくて良いよ」
カイルは、嬉しそうに微笑むと私の頬を撫でた。
…良いことってなんだろう。
私達は、カフェを出るために立ち上がろうとすると
「お待たせしてすみません」
聞き馴染みのある、可愛らしい声が聞こえてきた。
アリシアとエリーゼは、エレノア達の座る席にやって来た。
待ち合わせをしていたのかな?
「アリシアが変な人に声をかけられてしまって」
アリシアが!?…よくも私の可愛いアリシアに…
「パトリシア、落ち着いて」
これが、落ち着いてられるわけ―
「変な人ではありませんよ。お姉様が前に手当てをして差し上げた女性です」
私が手当てをした?……なんだ、ナイセル伯爵令嬢のことか。いや、エリーゼが変な人と言うぐらいだから、エレノアのときみたいに何か酷い目に!?
「でも、突然婚約者がいるかを尋ねるなんて、十分変な気がするけど」
エリーゼの言う通り、何でわざわざそんな事を?
「そんな事より、お姉様の気配がするのですが」
アリシアが辺りを見渡している。
まずい、ここでバレるわけには…
「早く店を出よう」
カイルの言葉に、皆が頷いた。
私達はカフェを出て、少し歩いている。
「アリシアは流石だね。というより、少し恐怖を覚えたよ」
気配に気づくなんて、アリシアは天才なのでは?騎士達は、殺気に気づく事ができるみたいだけど、特定の人間の気配に気づけるなんて…
私がそんな事を考えていると、一人の女性が近づいてきた。
「あの、すみません。そこの方」
間違いなく、私達に近づいているがそこの方って、誰のことだろう。
「そこの金髪の方」
カイルの事か、待ってこの女性…
「私はナイセル伯爵家の、エイミーと申します」
やっぱり、ナイセル伯爵令嬢。
まさか、カイルの正体に気づいたとか?
「あの…ご親戚にパトリック様という方はいらっしゃいますか?」
パトリック…まずい、私の事を探しているのか。
ミシェルは察してくれたのか、私の手を引いてエリオットの後ろに隠れられるようにしてくれた。
「…いや、いないよ」
「そう…ですか、引き止めてしまい申し訳ありませんでした」
ナイセル伯爵令嬢は悲しげな顔をして、頭を下げると何処かへ行ってしまった。
「パトリシア、何か知っていそうだけど、聞かせてもらえないかな?」
…まあ、そうなるよね。
「前に、アリシアとここに来たときに、怪我をされている所を手当てして差し上げたんです」
「ナイセル伯爵令嬢は、パトリックという男性を探しているようだけど、パトリシアは関係ないんじゃないの?」
エリオットは怪訝な顔をして言った。
「えっと、それは…その、アリシアに変な男性が寄ってこないようにするために、男装をしていて…そのときに、パトリックという名前を使いました」
私は少し、しどろもどろになりながら答えた。
「はぁ…パトリシアは男装をしても魅力的なんだね」
「アリシアは別にしても、元々女性のファンは多かったけど…」
カイルとエリオットは何故か、少し疲れたような声色で話している。
「でも、可愛かったから、僕はすぐにトリシャちゃんだと分かったけどね」
「は!?ミシェルはパトリシアの男装姿を見たの?」
カイルがミシェルの肩を掴んで揺さぶっている。
「パトリシア、何故、私よりも先にミシェルが君の男装姿を見ているのかな?」
え、何?何で怒っているの?
カイルが、今度は私の肩を掴んできた。
「ミシェルとは偶然会っただけで…」
「本当に偶然?」
私はこくこくと頷いた。
何でそんなに疑り深いんだろう。そもそも、カイルは何で、男装姿を見たがっているんのか。
「カイル、そろそろ馬車が来るんじゃない?」
エリオットのおかげで、カイルの手が肩から離れた。
それにしても、ナイセル伯爵令嬢は、どうしてパトリックを探しているんだろう。
「カイルがパトリシアの隣を譲るなんて、珍しいこともあるもんだね」
私の隣に座るエリオットが、訝しげに言った。
「パトリシアから良いことを聞いたからね」
「良いことって?」
今まで、パトリシアと馬車に乗るときは、必ず隣に座っていた。隣なら、香りも体温も感じることができるし、触れることも…
でも…
正面に座るパトリシアと目が合った。
パトリシアは私の顔を見てると、不思議そうに小首を傾げた。
「ふふ…秘密」




