123 悪役令嬢は偵察する。
「カフェに入って行ったね。私達も行こうか」
私達は引き続き、セシルとエレノアを尾行している。
カイルによって、ミシェルの手は離されて、代わりに何故か、カイルに手を握られている。
カイルに手を引かれて、二人が入ったカフェに着いた。
カフェの前には、看板が置かれていて、そこには本日のオススメメニューと『カップル席…有り』と書かれていた。
もしかして、二人もカップル席に座ったのかな?
「いらっしゃいませ。本日はどちらの席をご利用になられますか?」
席を選べる余裕があるのか…まあ、混み合いそうな時間でもないか。
セシル達がどこに座ったのか、遠目で見たがよく分からなかった。
とりあえず、四人で座れる席に…
「カップル席で、後ろの二人とは別々で」
私よりも先に、カイルが口を開いた。
「いえ、普通に四人でテーブル席で、お願いします」
「まったく、油断も隙もないね」
結局、店員さんの謎の計らいで、カップル席だけど、ソファを向かい側にも置いてくれて、四人席にしてくれた。
多分、ダブルデートだと思われたようだ。
でも、丁度斜め後ろの席にセシルとエレノアが座っているのが見える。
二人はカップル席ではなく、普通のテーブル席だけど。
カップル席は二人用のソファにしては少し小さい、座ると自然と密着してしまうサイズだ。
現に、隣に座るカイルとの距離が近い。
「トリシャちゃん、何頼む?」
ミシェルがメニュー表を、私が見えるようにこちらに向けて開いてくれた。
一応、近くにセシル達がいるからか、声は小さめだ。
オペラケーキに、チョコレートタルト…テリーヌショコラ、ガトーショコラも美味しそう。
うーん…実に悩ましい。
「俺はテリーヌショコラで」
「じゃあ、僕はガトーショコラにしようかな」
エリオットとミシェルもチョコレート系か、後で感想を聞いて次に来ることがあったときの楽しみにしようかな。
問題は、オペラケーキかチョコレートタルトどちらを選ぶかだ。
「パトリシアは、オペラケーキを選ぶと良いよ。私がタルトにするから、一緒に食べよう」
一緒にということは、分けてくれるのかな?
少しして、注文したケーキとお茶が届いた。
ツヤツヤのグラッサージュが美しい、近づくと鏡のように姿が映りそうだ。
甘いけどほろ苦い…濃厚で、美味しい。
皆はまだ食べていないようだ。それにしても、皆の選んだケーキも美味しそう。
私は自分のケーキをゆっくりと味わっていると、エリオットとミシェルが、ナイフで一口サイズに切ったケーキを私のお皿に乗せてくれた。
「食べたかったんでしょ?」
「メニューを見て唸ってたからね」
二人はそう言って、私のことを見て優しく笑った。
何だろう、幼い子供を見る親のような目は…
私が迷っていたから、二人もチョコレート系のケーキを選んでくれたのかな?
「二人共、ありがとう」
テリーヌショコラもガトーショコラも美味しい。
私は目的を忘れ、ケーキを堪能してしまった。
ハッとして、セシル達のテーブルに視線を向けた。
二人に変わった様子はなく、普通にお茶をしている。せっかくのデートなんだから、食べさせ合いとかしてイチャイチャすればいいのに…いや、それをするならカップル席に座るか。
「パトリシア、二人が気になるのも分かるけどそんなに見ていると、怪しまれるよ」
エリオットの声を聞いて、視線をテーブルに戻した。
「一応言っておくけど、エレノアに想い人がいるのは間違いないけど、相手はセシルではないからね」
エレノアに想い人?ということは、セシルの片思いってこと?
カイルは何でそれを…
「エレノアが想い人へのプレゼントに悩んでたみたいだから、セシルを頼ってみたらってアドバイスしたんだ」
カイルが…ってか、知っていたなら尾行する前に言ってほしかった。
「そんな事より、はい、あーん」
顔に手を添えられ、口元にケーキが運ばれてきた。
ケーキは食べたいけど、これは流石に恥ずかしい。
「自分で食べら…んむっ」
口を開いた瞬間に、ケーキを突っ込まれた。
タルトは美味しいけど、食べさせるにしても雑すぎる。
「トリシャちゃん、大丈夫?エリオットと席代わる?」
「その流れで何で俺?ミシェルが代わってあげなよ」
「カイル様の隣とか絶対やだ。僕もトリシャちゃんの隣に座りたい」
「俺もカイルの隣は…ちょっと」
二人がカイルの隣を嫌がって、揉めている。
「私に失礼だとは思わないのかな?」
カイルがため息交じりに言った。
それにしても…
「カップル席って、何で隣同士に座るんだろう」
私のふとした疑問は、どうやら声に出ていたようで、カイルが私の肩を抱き寄せてきた。
「好きな人とは、触れ合える距離にいたいからじゃない?こんなふうに」
「そうですか?食事やお茶のときは、隣ではなくて、向かい合って座りたいですけどね」
いくら好きな人でも、食事中にベタベタくっつかれても鬱陶しい。
それに…
「向かい側なら好きな人の顔がよく見れますし、それに視線を独り占めできますから」
…何か私、今恥ずかしいことを言ってしまったような。




