121 悪役令嬢は尾行する。
私は今、ある人達を尾行をしている。
「パトリシア、もう少し帽子を深くかぶりなよ」
「トリシャちゃん、移動するみたいだよ。行こっ」
「ミシェル、パトリシアは私の婚約者だから、手を握るのはやめてもらおうか」
何故か、カイル達もついてきているが…
それは数日前に遡る。
セシルが仕事が落ち着いたら、二人で出かけたいと言っていたから、予定を聞いていたときだった。
「あーその日は、エレノアと二人で貴族街に行く予定だから…この日なら――」
何か、しれっと言ったけど…えっと…エレノアと出かける?…二人で?……つまりはデート!?
へぇ〜セシルも隅に置けないな。
デートか、二人には悪いけど…見てみたいな。
やっぱり二人は小説通り、結ばれるのかな?
「ということがあってね。ねぇ、エリオット。一緒についてきてくれない?」
私は、一緒に温室で薬草のお世話をしてくれている、エリオットに話をした。
「二人には悪い気もするけど、パトリシアを一人で行かせるのは心配だからね。いいよ、俺もついて行く」
「ありがとう。ふふっ、楽しみね」
遠目から二人の様子が見るだけでも、ワクワクするな。
思わず顔を綻ばせていると、エリオットは眉を下げて笑っていた。
「面白そうな話をしてるね」
「それは勿論、私も一緒に行ってもいいんだよね?」
ミシェルとカイルが会話に加わってきた。聞かれていたということは、少し前に到着していたのかな?入ってくればよかったのに。
「というより、エリオットではなく私と二人で行くべきではないかな?」
「カイル様が街に行ったら、お店の人達が気を使うから駄目じゃない?」
確かに、王族が来たら視察か何かだと思われてもおかしくないな。
「変装するに決まっているでしょ」
変装か…尾行するなら私もするべきだよね。
皆も行くつもりみたいだし。
このメンバーで行くとしたら、完全に若い男を侍らせている悪役令嬢にしか見えない。
それなら男装をして…いや、男四人でカップルの尾行って怪しすぎるよね。
そうだ…
「ミシェル、お願いがあるの」
そして、冒頭に戻る。
私達は、変装をして街に来た。コソコソしていると、逆に目立ってしまいそうだから、普通に買い物に来た貴族に見える格好にした。
私は茶髪のウィッグ、エリオットは黒髪のウィッグをかぶっている。
カイルは髪と瞳の色で、一目で王族だとバレてもおかしくないため、ウィッグの他に眼鏡をかけている。
「カイルは何で、その髪色にしたの?」
エリオットが尋ねる。
カイルは金髪のウィッグをかぶっている。
「パトリシアとおそろいにしたかったからね」
おそろい?私は茶髪のウィッグをかぶっているから、おそろいではないと思うんだけど。
「そんな事より、トリシャちゃん。僕、変じゃない?」
ミシェルは私の腕にしがみついて、不安そうな顔をしている。
…私がミシェルにしたお願いは――
「ええ、とても可愛いわ。どこからどう見ても女の子にしか見えない」
女装だ。
ミシェルには申し訳ないけど、男女比が同じなら仲の良い友人同士か、ダブルデートとかに見えるだろう。
私は五センチぐらいの高さのパンプスを履いているが、ぺったんこの靴を履いているミシェルと並ぶと、身長差は三センチ差ぐらいだ。
足元さえ見なければ、ヒールを履いている私と同じぐらいの背丈だから、女装だとは思われないはず。
まあ、こんなに可愛いんだから、疑いようがないのだけど。
「ねぇ、あれセシルじゃない?」
エリオットに肩を叩かれ、視線の先を見ると、見覚えのある格好をした青年がいた。間違いない、セシルだ。
そして、隣に歩くのは…エレノア。
二人は一定の距離を置きながら歩いている。手を繋げない感じが初々しくて可愛いな。
「宝飾店に入ったね」
プレゼントでもあげるのかな?見たいけど、流石に店内にこの人数で入ったらバレる。
「外から様子を見ましょうか」
それにしても、ウィッグに帽子をかぶると頭が蒸れる。少しだけ帽子を取ろう。
「わっ…あ、帽子が」
風で帽子が飛ばされてしまった。
「俺が取ってくるよ」
エリオットが飛ばされた帽子を追っていった。と思ったら物凄い速さで戻ってきた。
「あ、あ…アリシアがいた」
エリオットは息が上がっているが、帽子はちゃんと取ってきてくれたようだ。
いや、そんなことは置いといて
「アリシアは今日、エリーゼ所へ遊びに行くって…」
「俺もそう聞いていた」
まずい…私達はともかく、ミシェルは女装をしているわけだし
「まあ、とにかく帽子はちゃんとかぶっておきなよ」
「ええ、ありがとう」
私は、エリオットに帽子をかぶせてもらった。
「トリシャちゃん、セシル達がお店を出たよ。行こっ」
ミシェルに手を握られた。女の子に見えるから忘れていたけど、少し硬くて骨張った男の人の手だ。
「ミシェル、パトリシアは私の婚約者だから、手を離そうか」
「女の子同士なら普通だよね。ね、トリシャちゃん」
首をこてんとして同意を求める姿は、本当に女の子にしか見えない。
あざとい…可愛すぎる。
案外バレないかも?




