パトリシアからのプレゼント
帰国してから三週間は経った。溜まっていた仕事もようやく終わり、久しぶりにパトリシアとのお茶会を楽しめる。
ルミネージュ王国へ行く前の一件で、パトリシアを怒らせてしまったから、この旅で仲直りができたらと考えていたが、馬車は別々だったし、別荘や宿に泊まった時もセシル達の妨害により、二人になることは叶わなかった。
それに、ルミネージュに着いてから寄った街でも、アリシアと仲良く一つのマフラーを使い、手まで繋いでいて二人になれなかった。相手がアリシアとはいえ、羨ましかった。
ルミネージュ王城に着いてからは、パトリシアと話すタイミングができたが、パトリシアは怒ってはいない様子で、普段と変わらない態度で私と接してくれた。
私はパトリシアの表情や仕草一つで、感情が揺さぶられてしまう。
パトリシアが喜んでくれると嬉しいし、辛そうにしてたら、その元凶が誰であっても許せはしないだろう。
あの子が望むものなら全てをあげたいと思うぐらい、大切で愛しているから。
だから、ルミネージュを気に入って移住したいと言い出したときは、本気でルミネージュの領土を奪ってしまおうと思った。
そんな事を考えていると
「カイル殿下、パトリシア嬢がいらっしゃいました」
パトリシアが到着したようだ。
「カイル様、お久しぶりですね」
扉を開けるとパトリシアは何かを隠すように持ちながらやって来た。
「パトリシア、よく来てくれたね」
私はパトリシアを連れてきた侍女に下がってもらった。
「それで、何を持っているのかな?」
「これは、カイルにプレゼントを…」
パトリシアは恥ずかしそうに、綺麗にラッピングされた何かを私にくれた。
「開けてもいい?」
私が聞くと、こくこくと頷いた。
リボンを解いて、中身を確認するとそこには金色の髪の女の子のぬいぐるみが入っていた。
「あみぐるみは難しかったから、ぬいぐるみを作ってみたのだけど…」
ぬいぐるみを持ち上げると、青い瞳に青いドレスを身にまとっている。
これは、パトリシアのぬいぐるみ?
もしかしてあのときに、パトリシアが欲しいと言ったことを勘違いして…そういう意味で言ったつもりはなかったのだけど…まあ、可愛いからいいか。
「ありがとう。大切にするよ」
思わず、ぬいぐるみの頭を撫でる。
「初めて作ったんだけど、結構楽しくて…私も自分用に作ったの」
パトリシアははにかみながら、何かを取り出した。
「…アリシアのぬいぐるみ?」
……そこは私のぬいぐるみではないのか。
「これはあげないわよ」
パトリシアはアリシアのぬいぐるみをギュッと抱きしめて隠した。
「うん、大丈夫」
パトリシアが作ったとはいえ、アリシアのぬいぐるみはいらない。
「ところでパトリシアは、そのぬいぐるみをどうするの?」
「テーブルに置いてお茶したり、一緒に寝たり…」
なるほど、お茶はともかく一緒に寝るのは……でも、このぬいぐるみはパトリシアが私のために作った、パトリシアのぬいぐるみ。いや、今後の事を考えてこのぬいぐるみで練習を…
「アリシアがね、この子を可愛がっていると拗ねるの。それが可愛くて、少し意地悪をしちゃうのよね」
パトリシアは愛おしそうに、アリシアのぬいぐるみを撫でた。
パトリシアには、私のぬいぐるみを持っていてほしいと思ったが、ぬいぐるみが可愛がられているのを見せられるのは嫌だ。
「パトリシアは、私がこの子を君の前で可愛がっていたらどう思う?」
「…嬉しい。頑張って作ったから大切にしてもらえるのは嬉しいわ」
パトリシアはそう言って、目を細めて笑った。
嫉妬して欲しいだなんて考えていたが、パトリシアの愛らしい笑顔を見たら、自分がいかに馬鹿な事を考えていたかがよく分かった。
私はこのぬいぐるみを、国宝として大切に保護していこうと誓った。
数週間前のフローレス邸にて
「パトリシア様、そこは本返し縫いです」
私はクラウド副隊長に教わりながら、ぬいぐるみを作っている。
あみぐるみは難易度が高すぎたため、ぬいぐるみで妥協することにした。
でも、そもそもぬいぐるみも作ったことはなかった私は、裁縫が得意なクラウド副団長に相談をした。
意外なことに、クラウド副団長は妹さんにぬいぐるみを作っていたことがあるようで、快く手伝ってくれた。
「ドレスも手作りされますか?」
クラウド副隊長はハギレを並べて、そわそわしている。
表情こそ分からないが、裁縫が好きなんだろうな。
「はい、作ってみたいです」
「分かりました。型紙は私がご用意致します」
私よりも張り切っている気がする。
「それにしても、ご自分のぬいぐるみをプレゼントするだなんて、可愛らしい事をなさいますね」
…私も、カイルが何故、私のぬいぐるみを欲しがっているのかは分からない。
「いえ、カイル様が欲しがっていたんです」
「カイル様ご所望だったのですか、愛されていますね」
クラウド副隊長は、ハギレを断裁しながら穏やかな笑みを浮かべた。
愛されているかは分からないけど、少なくとも嫌われてはいないだろう。
まあ、ぬいぐるみを何に使うかは分からないけど、小説通り私が死んでしまったら、ぬいぐるみを依り代にしてお経でも唱えてやろう。




