119 悪役令嬢とフローラ王女
ルミネージュの王城にいるのも今日が最後だ。
「お姉様、きつくはないですか?」
「ええ、ありがとう。アリシア」
私はアリシアに手伝ってもらい、着替えを終わらせた。
これからフローラ王女とお話をして、両陛下に挨拶をしたら王城を出る予定だ。
「パトリシア様、昨夜はお楽しみでしたね」
私を迎えに来たグレンダがニヨニヨと含み笑いを浮かべていた。
「昨夜?お姉様、何かあったのですか?」
「パトリシア様は昨夜、カイル殿下と…」
「お、おお…お姉様、かっかかカイル様と一体何を…」
グレンダが言い終える前に、アリシアが口を開いた。
アリシアは顔色を赤くしたり、青くしたりと忙しそうだ。
着替えるときに寒いから、部屋を暖めていたからか、アリシアはのぼせて鼻血を出してしまったから貧血を起こさないといいけど…
オーロラのことは隠していたほうが良いのか分からないけど、アリシアがひどく動揺しているようだし…
「カイル様とは、オーロラを見ただけよ」
「もう、隠さなくても良いんですよ。あんなに密着して、イチャついていた所を自分はバッチリこの目で見たんですから」
この目でって…え?見られていたの?
「密着?イチャ…ついて、お姉様…私のお姉様が…」
アリシアの顔色が悪くなっている。
「アリシア、落ち着いて。寒かったから、暖をとっていただけでイチャついてなんていないわ」
私はアリシアを抱きしめて、背中をさする。
「…本当ですか?」
「ええ、カイルに聞いてもらってもいいわよ」
「そうですか…でも、お姉様。夜に男性と二人きりになるのは危険ですので、いけませんよ。特にカイル様とは日中でも駄目です」
これではどちらが姉か分からないぐらい、アリシアはしっかりしてきた。
グレンダも空気を読んだようで、余計なことは言わなかった。
グレンダの案内でカイルと一緒に応接室に入ると、フローラ王女はすでにソファに座っていた。そして、扉の近くにウォルトがいた。
私達は挨拶をして、向かい側に座る。
フローラ王女はこちらをチラチラと見ながら、気まずそうにしている。
「…お二人が仲睦まじいことはよく分かりましたわ。ですが、その…バルコニーで抱き合うのは…」
…グレンダだけでなくフローラ王女にも見られていたのか。
フローラ王女が思っているような雰囲気ではなかったんだけどな。
暖を取るためにくっついてはいたけど、オーロラを見ていただけで、後は拗ねたカイルを宥めたりはしたけど、間違っても抱き合ってはいない。
そこだけは訂正させてほしい。
「見られていたんですね。オーロラが見られると聞いて、バルコニーに出たのですが、思いのほか寒かったので、カイル様が暖めてくれていたんです」
「隠さなくていいんですよ。私はカイル様のことは本当に諦めましたので」
フローラ王女は晴れやかな笑顔でそう言った。
「その…本日で最後ですのに、兄が謝罪もせずに申し訳ありません。私が代わりに報復を致しましたので、ご安心ください」
そういえば、フローラ王女がクラーク王子をボコボコにしたと言っていたな。
「そうでしたか、それを聞いて安心しました。私が手を下すことなく済んでよかったです」
カイルは顔をこそ笑っているが、拳を強く握りしめていた。
やっぱり、クラーク王子に言われたこと気にしてるんだな。
まあ、私はクラーク王子よりカイルの顔の方が好みだけど
「兄様は、昔はあんなふうではなかったのですわ。ですが、今は取り柄は顔だけで身長は低いのに、自尊心の高い人間に…」
ルミネージュの人達は、一言余計というか、言葉にトゲがあるというか…まあ兄妹感だから普通なのか?
まあ、それは置いといて
「昔はどんなだったのですか?」
「昔の兄様は剣術に長けていて、頭も良くて。私よりも王太子に向いていましたわ」
クラーク王子が?あの言動が幼稚な、女好きが?
「それがどうしてああなったのですか?」
カイルも興味を持ったようで、口を開いた。
「…兄様は騎士団の兄様よりも五つ年上の女性に恋をしたのです。兄様は想いを伝えたのですが、女性は「私よりも強い人でないと、想いを受け取れません」と返しました」
相手は年下で、ましてや王子だから大人な返しをしたのかな?
「兄様はその日から、休む日もなく鍛錬に励みました。そして、ついにその女性…ではなく騎士団長を倒したのです」
へぇ〜想い人に剣を向けたくなかったのかな?その頃は本当にまともだったんだな。
「でも、その女性は裏で「いくら強くなったとしても、自分よりも背の低い男なんて無理なんだけど」と言っていたのです。兄様が騎士団長に勝った翌日、兄様と私は聞いてしまったのですわ」
クラーク王子が何歳のときの話かは分からないが、幼少期に筋トレをし過ぎると身長が伸びにくくなるみたいなことを聞いた事がある。もしかしたら、そのせいで身長が低いのかな?
「兄様は深く傷つき、王位継承権もどうでもいいと言い。剣を握るのもやめました。そして、事の発端である女性だけでなく、騎士の女性を目の敵にするようになったのです」
「そんな事が…」
少し同情する。その騎士の女性も最初から期待させるようなことを言わなければ良かったのに
「でも、それとこれとは別ですわ。関係のない女性に八つ当たりをしていい理由にはなりませんわ」
「そうですね。私の可愛いパトリシアに暴言を吐いたことは許せそうにはありません。それに、パトリシアはこんなにも抱き心地が良いのに」
カイルは私の腰に手を回し、抱き寄せてきた。
私は昨夜のことを思い出して、顔が熱くなってきた。
「そ、そういうのは人前ではお控えください」
フローラ王女は真っ赤な顔を手で隠している。
…十二歳のフローラ王女に諌められるとは




