118 悪役令嬢と天体観測
今日は騎士団の訓練を見られて良かったな。フローラ王女もカッコよかった。
そういえば、グレンダが今晩はオーロラが見れるって言ってたような。
バルコニーに出てみようかな。
私はナイトガウンを着て、その上からブランケットを羽織って、バルコニーの扉を開けた。
「うぅ…寒っ…」
当たり前だけど、昼間よりも気温が下がり寒さが増している。
星が綺麗…まだオーロラは見られていないけど、これだけでも十分なぐらい綺麗。
「あれ…?」
誰かいる……カイル?…え?バルコニー繋がってたの?でも、反対隣は繋がっていない。二部屋ごとに繋がっているようだ。
カイルはナイトガウンも羽織らずに、バルコニーの柵に手をかけて、ブツブツと何かを言っている。
見たところ、お風呂は済ませてあるようだし、その格好でいたら湯冷めして、風邪を引いてしまいそうだ。
どうせなら、少し驚かせてみようかな。
私は足音をたてないように慎重に、カイルに近づき肩を叩いた。
「パトリシア!?え?いつの間に……もしかして、聞いてた?」
カイルは肩を上げて驚いたあと、手で口元を隠した。
聞いてたも何も、声が小さかったから何を言っていたのかは分からない。
「今来たところだから、何も聞いてないけど…」
「そう…ところで、パトリシアは何故バルコニーに?」
「グレンダがもしかしたら、オーロラが見られるかもって言っていたから。せっかくだから一緒に見る?」
私はカイルの隣に行き、羽織っていたブランケットカイルの肩にもかけた。
「いいの?嬉しいよ」
カイルの顔がほころんだ。そんなにオーロラが見たかったのか。誘って良かった。
「寒くない?」
私よりもカイルの方が寒いだろうに、一度部屋へガウンを取りに戻ればいいのに。
「少し…」
私がそう言うと、カイルは私が半分だけかけてあげたブランケットを、私の肩から奪って自分の肩に羽織った。
「こっちの方が温かいよ」
バッグハグのようなかたちでカイルに包み込まれている。
確かにあったかい、というか恥ずかしくて、体温が上がってきた様な気がする。
…寒いと言った私からブランケットを奪ったから、てっきり新手の嫌がらせかと思った。
「……パトリシアはルミネージュ王国を気に入ったんだよね」
「ええ、良い国よね」
そういえば、訓練場でも同じ事を聞いてきたな。
「…パトリシアはルミネージュに住みたい?」
私が移住したいと言ったことを気にしているのかな?
まあ、冗談で言ったわけではないけど…
冷静に考えてみると、私とカイルが婚約を解消したとしても、シャルルとフローラ王女の婚約が正式に決まれば、イリース王太子の元婚約者がという立場のせいで移住したら中々面倒なことになるはずだ。
「年齢に性別関係なく、実力で評価されるところが良いわよね」
イリースは女性や子供は護られるべき存在として扱われる。
それが悪いことだとは決して思わないけど、私はルミネージュのような強いものが弱いものを護る。そういう考え方のほうが好ましく思う。
「そっか、イリースには女騎士はいないからね」
カイルの声が弱々しく聞こえる。
「カイルがこれから変えていけば良いのよ。カイルにはそれができるでしょ。イリースの王太子だから」
私が気に入ったのはルミネージュの制度や考え方だ。
その制度がイリースにもできれば、ルミネージュに負けないぐらい良い国になりそうだ。
「そうだね。君をイリースに留めておくためには、私が国を変えないとだね。でも、雪を降らせるのは難しいからルミネージュの領土を奪う必要があるね」
いや、それは流石に…戦争でも起こすつもりなのか?
「私は寒いのは苦手だから、イリース王国の気候が向いているのよね」
「……うん、一緒にイリースへ帰ろう」
カイルは私がルミネージュに興味を持ったことで、悩んでいたのかな?イリースの王族として、イリース国民が他国に移住したいだなんて言い出したら複雑だよね。
そんな事を話している間に、空には緑がかった美しいベールに包まれていた。
「うわぁ…綺麗」
「本当に綺麗だね。パトリシアと見ることができて嬉しいよ」
後ろからでは表情は分からないが、先程より声色が明るくなったのは分かった。
「…アリシア達とも見たかったな」
きっと、楽しそうに喜ぶんだろうな。
グレンダがわざわざ耳打ちしてきたから、秘密にしておいたほうが良いのかと思って言えなかったんだけど
「君は私と二人でいても、いつも他の誰かの事を考えるよね」
声色が低くなってきた。突然どうしたんだろう。
「…君の優先順位はいつもアリシアが一番で、その次がセシルだったね」
可愛い妹と弟だから、大切に思うのは当たり前だけど、私も二人で見ようと誘っておいて他の人の名前を出すのは良くなかった。
「私もマフラー欲しかった」
「え?」
「手作りのお菓子も乗馬もいつも誰かの後だ、私が一番に貰えたものなんて…」
私を包んでいた腕に力が入り、カイルの声がより近くなった。
「イリースに戻ったら何かプレゼントするわね」
帰国してからマフラーを作っても、使うタイミングなんてなくなるだろうし、毛糸で別の何かを作ってあげれば良いのかな?
コースターとか鍋敷きなら頑張れば作れそうだし
「本当?」
「ええ、何が欲しいの?」
「…パトリシア」
カイルが私の腰に手を回し、抱き寄せてきた。カイルの肩からブランケットがバサッと音を立てて落ちた。
「え?」
「パトリシアが欲しい」
私!?…つまりはあみぐるみが欲しいということかな?
作れるか分からないけど、頑張ろう。
「…少し時間はかかると思うけど、それでも良いなら」
「待てるよ。いくらでも…」
カイルは私の肩に手をおいて離れた後、私の髪にそっと口づけをした。
その後どうやって、部屋へ戻ったか分からないがいつの間にかベッドに横になっていた。




