116 悪役令嬢と屈辱感
ルミネージュ王城の庭園では、憤慨しているクラーク王子とそれを宥める侍女達。
そして、その様子に慣れているのか、呆れたような面倒くさそうな表情を浮かべた騎士達。
このままだと、収拾がつかない。
「私が、カイル様の婚約者のパトリシア=フローレスです」
私はスカートをつまんで、挨拶すると私よりも低い背丈のクラーク王子は、私の顔から足の先をゆっくりと視線を向ける。
「へぇーお前が……身体はともかく、顔はフローラも負けてないな」
何故、この兄妹は人の身体について言及してくるんだ。
セシルの従姉に馬鹿にされたときよりは、成長したとはいえ、人の身体をジロジロと見るだなんて不躾にも程がある。
「そうだ、僕がお前と結婚してやる。そうしたら、フローラがイリースの王太子と結婚すれば良いだろ」
…何を言っているんだ?仮にカイルとフローラが結婚したとしても、私がクラーク王子と結婚するのはおかしいだろ。そもそも、シャルルの婚約の話なのに、クラーク王子が首を突っ込んでいい問題ではないし。
クラーク王子は自信たっぷりのしたり顔をしているが、私以外の皆はぽかんとした顔をしている。
「…兄様、発言にはお気をつけください。それに、パトリシア様と兄様が結婚をするお話に?」
「そんなの決まっているだろ、気に入ったからだ。肉付きが良いし、抱き心地も良さそうだからな。ああ、結婚といっても正妻というだけで、側室や愛人は好きに作らせてもらうがな」
あんなに人柄の良い両親を持って、ここまで歪むとは…
一発ぶん殴ってもいいかな?カイルが揉み消してくれないかな?
拳に力を入れるとカイルが私を隠すように前に出た。
「クラーク王子、少々調子に乗り過ぎのようですが、フローラ王女が王位を継ぐ前に友好関係を解消させて頂いても良いんですよ」
顔こそ見えないが、怒っているのだろう。いつもとは違う冷酷な声色だ。
「おっお脅しのつもりか?」
流石のクラーク王子も怯んだのか、声がうわずっている。
「出過ぎたことを申すようですが、クラーク殿下。パトリシア嬢は剣の心得をお持ちの方ですよ」
私達を案内してくれた騎士が、口を開いた。
女騎士のいるルミネージュで、その話を聞いても何とも思わないだろうに…
「なっ、お前、剣を……騎士の女は筋肉質で抱き心地が悪い。やはり、結婚の話はなかったことにする。王子である僕を騙そうだなんて、とんだ女狐だな。それも僕の気を引くための偽物だったんだろ!!」
クラーク王子は声を荒らげて、私の胸に指をさしてそう言った後、侍女達を連れて帰っていった。
…そんな事より、何で私が振られたみたいになっているんだろう。
「兄様!!カイル様、パトリシア様。愚兄のクラークが失礼な態度を取ってしまい、大変申し訳ございませんでした。なんとお詫びをしたら…」
フローラ王女が深々と頭を下げた。
最初こそ、あまり良い印象を持てなかったが、この子はクラーク王子に比べ、年の割にしっかりしている。
いや、単にクラーク王子が幼稚なだけなのかもしれない。
「フローラ王女、お顔を上げてください。私は気にしておりませんので」
腹が立っていないわけではないが、クラーク王子のあの発言に対してフローラ王女が謝るのはおかしな話だ。
「…ご寛大なお心遣いに感謝致します。私は、兄様によく聞かせておきますので、滞在中はどうぞごゆっくりお過ごしください」
フローラ王女は美しい礼をして、クラーク王子を追っていった。
「パトリシア嬢、クラーク殿下を止めるために発言したことで、結果的に失礼な事を…大変申し訳ございませんでした」
騎士が申し訳なさそうに、頭を下げた。
「いえ、助かりました。ありがとうございました」
実際、彼が間に入っていなければ、外交問題に発展していたかもしれない。
まあ、それはそれとして、今日初めて会った相手の気を引こうだなんて、考えもしないし、胸は偽物ではない。そこははっきり言い返したかったな。やっぱり一発お見舞いするべきだったな。
「今日はお疲れでしょうし、お部屋にご案内致します」
グレンダの気遣いで、庭園を出ることになった。
部屋に案内されるも、何故か皆、私の部屋に集まってきた。
「なんなんです!!あの王子は。私のお姉様に対してあのような態度。許せません」
アリシアは怒っていても可愛いな。
「カイル様のお力で始末できたりしないんですか?」
「そのときは僕も協力するよ」
「消してしまいたいところだけど、戦争になったら、私とパトリシアの結婚が遅れてしまうからね」
何やら、物騒な言葉が聞こえるが聞かなかったことにしよう。
エレノアやエリーゼも私のために、怒ってくれている。
エリオットとダリルの服は少し乱れ、疲れた表情をしている。
「二人ともどうしたの?」
「ミシェルを押さえつけるのが、大変で…」
「俺もミシェル様の気持ちは分かるんですけど…」
ミシェルを押さえつける?よく分からないけど、大変だったのだろう。




