115 悪役令嬢とルミネージュの王子
応接室から出ると、謁見の間に案内をしてくれた壮年の騎士が立っていた。
「皆さんは、庭園におられますので、ご案内させていただきます」
私とカイルは騎士に続いて歩いていく。
この豪雪地帯で、花なんて咲くのかな?まあ、庭園といっても必ずしも花が咲いているわけでもないか…
そんな事を考えていると、あっという間に庭園に着いた。
「こちらです」
「綺麗…」
ビオラにスノードロップ…ここに咲いている花は寒さに強いものだ。
色とりどりでも、大輪の花でもないけどしっかりと手入れをされて大切に育てられたのが分かる。
イリース王宮の庭園と比べても見劣りしないぐらい綺麗だ。
雪がかかっても、力強く咲いている花々に見入っていると少し離れたところから、声が聞こえてきた。
「お姉様ー」
「随分と遅かったけど、何かあったの?」
アリシアとセシルに続いて、エレノア達もこちらへやって来た。
「ええ、第二王女殿下とお会いして、少しお話をしていたの」
「シャルル様のご婚約者様ですか?」
「そうだよ。私とパトリシアの義妹になられる方だよ」
アリシアの問いかけに、私より先にカイルが答えた。
「それはあくまで、カイル様が姉さんと結婚できたらの話ですよね?」
「ああ、フローラ王女に義兄を取られると思って嫉妬しているのかな?心配しなくても大丈夫だよ。義弟君」
「その義弟君と呼ぶのやめてもらえませんか?」
「気に入らない?でも、私のことは義兄さん呼んでいいんだよ」
セシルとカイルは本当に仲がいいな。
「パトリシア様、少しよろしいでしょうか」
二人の言い争い?を横目に見ていると、グレンダに話しかけられた。
「お時間があるようでしたら、これから騎士達の訓練を見学されますか?」
騎士達の訓練……見たい…すごく見たい。男性だけでなく、女性もいるはずだよね。どんな訓練をしているのか気になる。
「是非!!」
私は思わず、グレンダの手を握る。すると、グレンダは私の手から手袋を外して、手をにぎにぎと触ってきた。
「本当に剣を握られる方の手をしていますね」
ん?…あれ?私、そんな話したっけ?
「…あの、私が剣の稽古をしていることをどこで知って…」
「アリシア様達からお伺い致しました」
アリシア達から…いや、まあ口止めしていたわけでもないし、別にいいんだけど。そもそも、どういう経緯でそんな話になったんだろう。
「フローラ様からご許可を頂けたら、明日にでもご案内致しますね」
何故、フローラ王女に?次期女王とはいえ、許可を取るなら国王陛下か、騎士団長とかではないのかな?
少し、不思議に思っていると後ろから数人の足音が聞こえてきた。
「おい、お前達。誰の許可でここにいる」
振り返ると、そこにはフローラ王女に似た顔立ちの少年が、数人の侍女たちと共に立っていた。
「クラーク殿下、こちらの方々はイリース王国よりお越しになられた。カイル王太子殿下とご婚約者様と臣下の方々です」
グレンダは瞬時に頭を下げて、そう言った。
私達も一応挨拶をすると
「ふーん、父上から聞いていたが……へぇ、イリース王国の女も中々良いのがいるんだな」
私達を舐めるような目で見ている。
王太子ではないとはいえ、王族らしからぬ発言。これを、王太子にしなかったのは賢明な判断だと思う。
「クラーク第一王子殿下、お初にお目にかかります。私はイリース王国第一王子のカイルと申します」
カイルが私達の前に立って、自己紹介をした。
「僕には負けるけど、そこそこ美丈夫だな。で、どれが婚約者何だ?」
何だこの生意気な子供は、誰も注意してこなかったのか?
カイルは顔は笑ってはいるものの、禍々しいオーラを漂わせている。カイルは自分のことをカッコいいと自覚しているから、そうとう腹が立っているのでは?
とりあえず、私も挨拶をしておくべき?
一歩前に出ようとしたそのとき…
「兄様、いい加減してください!!」
フローラ王女が声を荒らげながら、やって来た。
「フローラ!?何故ここに」
「何故はこちらのセリフですわ。何故、兄様がこちらに…それに、カイル様に対して失礼な態度を取られたのです」
「僕には兄として、フローラが好いた男の顔を見ておく必要があるだろ。まあ大したことなかったがな」
「私はもう諦めましたので、余計なことをしないでください」
フローラ王女とクラーク王子は揉め始めた。それにしても、クラーク王子に比べたらフローラ王女の方が大人に思えるな。やっぱりその辺も踏まえて、王太子を選んだのかな?
「何っ!?何故諦めたんだ、お前は僕に似てそれなりに美しいから諦める必要ないだろ」
「カイル様は…婚約者様を溺愛されているのです。それに婚約者様もカイル様にベタ惚れのようなので、私は最初から勝ち目などなかったのですわ」
…待って、とんでもない誤解だ。
確かに、カイルの事を可愛いと言ってしまったけど、それはあくまで弟みたいでというだけで、惚気ていたわけではない。
「ふふ、パトリシアは私にベタ惚れなんだね。嬉しいよ」
いや、この面倒くさい状況で何を言っているんだ。
「お姉様、嘘ですよね?」
アリシアは不安そうな顔で腕にしがみついている。
幸いなことに、セシル達はベタ惚れ発言を信じていないようだ。
「おい、僕の次ぐらいに美しい妹をこんな顔にさせた、イリース王国王太子の婚約者ってのは誰だ」
フローラ王女の瞳に光の粒が見えた。まさか、泣いて…
気持ちは分からなくはないけど、この状況で名乗り出て私は無事にイリースに帰れるのだろうか…
それにしても、ルミネージュには、暑苦しい人しかいないのかな?




