111 悪役令嬢は出立する。
ついに出発の日がやって来た。私達は一度王宮へ集まり、そこから馬車に乗り合わせてルミネージュ王国へ向かう。
荷物を屋根の上や、御者席に乗せてもらい。私達も馬車に乗り込んだ。
「私達もご一緒させていただいてよろしかったのですか?」
エレノアは少しそわそわした様子で、そう言った。
私が乗っている馬車はアリシアとエレノア、エリーゼそして、ダリルがいる。
「ええ、カイル様も了承されているから大丈夫よ。それに、少し不安だったから皆が来てくれて嬉しい」
皆で集まるのは久しぶりだし、カイル達が余裕を持ってスケジュールを立ててくれたから、ルミネージュの王女様に会う前に、観光をする時間もあるみたいだから楽しみだ。
片道で一週間はかかるため、ルミネージュ王国に着くまでの道中で別荘に一泊してゆっくりと向かっている。
普通の宿だと、私達の他にイリース王国の騎士達もいるわけだから、部屋数が足りない。
まあそもそも、王家の紋章が入った馬車を乗っているわけだから、宿屋も気を使うどころではないだろう。
いよいよ、ルミネージュ王国へ近づいてきた。
「国境付近まで来ると、一気に気温が下がりますのでその前に防寒具を着ておきましょう」
場所が停まり、座席下の収納からコートやマフラー、ブランケットを取り出す。
ブランケットは人数に対して、一枚足りないが二、三人ぐらいで包まれるぐらいの大きさはある。
「ダリルは私と一緒に使いましょう」
「え…良いんで……お気持ちは嬉しいんですが…マントも羽織りましたし、大丈夫です」
ダリルは何故かアリシアをチラッと見て、そう言った。
「確かに、ダリルのマント暖かそうね」
首元にファーが付いていて、ふわふわで暖かそうだ。
「カイル様が手配してくれました」
へぇ、カイルがダリルのために…そんなに接点なかったのにいつの間に仲良くなったんだろう。
「お姉様、私達で一枚使ってもう一枚をダリルに使ってもらいましょう」
「そうね、ダリル使って」
「いえ、俺は本当に大丈夫ですから」
結局、私とアリシアでブランケットを使うことになった。
「アリシアの持っている、そのマフラー長すぎない?」
エリーゼは少し引いたように言った。
「お姉様のことを思って作っていたらいつの間にか、こんな長さに」
アリシアが持っていたマフラーを軽く広げると、大縄跳びができそうなぐらいの長さはあった。
こんなに長いのに、編み目は均等だし綺麗だ。
私は頑張って練習したけど、編み忘れはなかったはずなのに、何故か斜めって、弧を描いていた。
「私も作ってみたのですが、アリシアみたいに綺麗には編めませんでしたわ」
エレノアは自分の首に巻いているマフラーに触れながら言った。
それで綺麗じゃないと言われたら、私のはもはやゴミなのでは…
「お姉様受け取ってくれますか?」
アリシアはマフラーを持って、不安そうな顔をしている。
「ありがとう。着いたら二人で使いましょう」
一人で使ったら、ぐるぐる巻になりそうだ。
「はいっ」
アリシアは満面の笑みを浮かべた。
国境付近に差し掛かってきたのか、少し肌寒くなってきた。
馬車の中で肌寒いということは、御者はもっと寒いんだろうな。
行きはダリルが馬車の中にいるけど、帰りは交代することになるみたいだから心配だ…
それにしても、アリシアは子供体温なのかくっついているとあったかい……
そういえば、ダリルは元気にしているかな?私が編み物をしていると、戯れて邪魔してきてたな。遊び疲れたのか、毛糸の入っていたカゴで寝ていたのも可愛かったな。
ふわふわであったかくて……
パッと目を開くと、向かい側に座るエリーゼとエレノアは眠っていた。アリシアも私にもたれかかるように寝ていた。
そして、私はというと
「ごめんなさい。肩、疲れたでしょ?」
ダリルのマントのファーを枕にして眠っていた。
皆を起こさないように、小声で話す。
「いえ、大丈夫です。それに眠れるときに寝ておいた方が良いですから、俺の肩で良ければいくらでも使ってください」
ダリルも小声でそう言ってくれた。
「ありがとう。でもダリルも休まないと」
膝に掛けていたブランケットを、ダリルにも掛けた。
「何故、私はパトリシアと別の馬車なんだ。ダリルはパトリシアと一緒の馬車なのに」
「ダリルは姉さんの護衛騎士ですからね」
カイルが乗っている馬車は、セシルとエリオット、ミシェルの他にカイルの従者であるガイも乗っている。
「まあ、トリシャちゃんはカイル様とは乗りたくないんじゃない?トリシャちゃんのマフラーを馬鹿にしたみたいだし」
ミシェルは悪戯っぽく笑った。
「ぐっ……確かに酷いことを言ってしまったけど」
カイルは頭を抱えて、俯いた。
「そういえば、エリオットはトリシャちゃんからマフラー貰えた?」
「貰ったけど、上手くできなかったってシュンとしてたよ」
「私は婚約者なのに貰えていない…」
カイルがミシェルとエリオットを睨む。
エリオットは気まずそうにしているが、ミシェルは楽しそうに笑っている。
「…僕も貰えていないです」
「パトリシアがダリルにマフラーを渡さないように、ダリルにマントを贈ったのに…エリオットに渡していたなんて」
カイルはエリオットを睨んだまま、奥歯をギリギリと噛み締めた。
カイル達の乗っている馬車は、馬車の中なのに外気温と同じぐらい空気が冷えているようにガイは思った。




