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110 悪役令嬢と旅行支度

ルミネージュ王国は北部に位置する国。気候が低く一年通して雪の降る国だ。

そんな国へ行くにあたって、用意するものは沢山ある。コートや手袋、マフラーにブーツ…

イリース王国には四季がない。雪が降ることもなければ、半袖になるほどの高い気温になることもないし、雨が降ることはあれど梅雨はない。春と秋の二季だけのような気候だ。

つまり、コート等を使う必要のない国だから、用意するには日数がかかるのだ。


「パトリシア、編み物をしてみない?」

少しずつ荷造りを進めていると、母上が毛糸が沢山乗ったカゴを持ってやって来た。

そうか、マフラーは作ればいいのか

「やりたいです」

「良かった、アリシアも待っているから行きましょう」

私は母上に続き、アリシアの待っている部屋に向かった。


「お母様、何を作るんですか?」

「マフラーよ」

イリース王国の気候は牧羊に向いているようだ。と言っても、羊毛は輸出することの方が多いらしい。

だから、編み物ができる人もそう多くない。

「母上は編み物もできるのですね」

「コーデリア夫人から教えていただいたのよ」

母上は慣れた手つきで棒針を動かしている。いつの間に、エレノアのお母さんと交流を持っていたんだろう。

アリシアが成人を迎えてからは、母上もサロンやお茶会に出かけることも増えたから、そのときかな?

今回の旅行…外交?にはアリシア達の他に、エレノアとブライス兄妹、ミシェルとダリルも来ることになった。

ルミネージュの王宮へ行くのは私とカイルだけだけど、謁見さえ終われば楽しい旅行になりそうだ。


私とアリシアは母上に教わりながら、棒針をゆっくりと動かした。

「あら、もうこんな時間。少し出かけてくるわね」

お母様は、これからお茶会へ行くようだ。

「毛糸はまだあるから、自由に使ってね」

お母様はそう言って、短時間で編み終えたマフラーを見本として置いていってくれた。

すごい、売り物みたいに綺麗。

私も頑張らないと…


「ふぅ、お姉様少し休憩にしましょう」

「そうね。ってすごいわアリシア、上手ね」

アリシアのマフラーも母上に負けないぐらい、綺麗に編まれている。

それに引き換え、私は…所々編めていないし、段数がおかしなことになっている。虫食いのように穴が空いている。集中していたからか、失敗しているのに気づかなかった。

「…作り直そうかな」

私がそう呟くと、扉を叩かれた。

「姉さん、いる?」

セシルと分かり、返事をするとセシルとカイルが入って来た。

今日はセシル達で日程の調整や、準備のために打ち合わせをするようだ。

「編み物をしていたんだね?」

「姉さんが持っているのは、アリシアが作ったもの?下手だな。刺繍の才能だけでなく、編み物の才能もなかったんだな」

「いや…これは」

「パトリシアは手先が器用だね。すごく綺麗に編まれているね。アリシアのは…個性的だね」

「あの…これは」

セシルもカイルも酷い。私にも、アリシアにも失礼だと思わないの?アリシアはオロオロとして、二人の顔と私の顔を交互に見ている。

「このマフラーは私が編んだものです…私には編み物の才能がないみたいですね」

「え!?あ、そのごめん姉さん。姉さんは刺繍が上手だったからってきり」

セシルが申し訳なさそうに、頭を下げた。

「いいのよ。下手なのは事実だから」

「パトリシア、ごめんね。でも、そのマフラー通気性が良さそうでいいね」

これは皮肉なのかな?もしかして、私は喧嘩を売られている?

私はカイルを睨もうと、顔を上げようとしたら、扉を叩かれた。

「セシル、カイル様いる?」

ミシェルの声だ。

セシルが「どうぞ」と返事をすると、ミシェルとエリオットが入って来た。

「トリシャちゃんとアリシアもいたんだね」

「へぇ、それマフラー?」

ミシェルとエリオットは私のマフラーと、アリシアのマフラーを見た。

二人にも何か言われるのかな…

「すご…よくその長さ編めるね」

「トリシャちゃんの作ったマフラー貰っても良い?」

ミシェルは私の作った虫食いマフラーを持ち上げた。

「え?でも、それ失敗作だから」

貰ってどうするんだろう、ほどいて毛糸に戻すのかな?

「これがいい。だって、トリシャちゃんが初めて作ったマフラーでしょ?」

「そんなもので良ければ」

ミシェルぅ…優しい良い子だ。こんな失敗作を貰ってくれるなんて

「大切にするね」

ミシェルがマフラーをギュッと抱きしめた。

「ミシェル、マフラーなら私が用意するから、それは私に譲ってくれないかな?」

「個性的で通気性が良いマフラーなので、カイル様には相応しくないですよ」

さっきまで馬鹿にしてたのに、何故欲しがっているんだろう。

「……」

カイルは頭を抱えて黙ってしまった。

「俺も欲しいな」

「上達したらプレゼントするわね」

エリオットにもだけど、綺麗にできたものを改めてミシェルに渡そう。

「私も、お姉様の手作りマフラー欲しいです」

「私はむしろ、アリシアの作ったマフラーが欲しいわ」

「はわぁ…腕によりをかけて作りますね」

そう言って、アリシアは真剣な顔で毛糸を厳選し始めた。


私も綺麗に編めるようにならないと


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