109 悪役令嬢と外交
「パトリシア、一緒に隣国ルミネージュ王国に来てもらえないかな?」
今日はカイルから招待され、王宮でお茶会をしている。
庭園に用意されているガーデンチェアに座り、お茶が用意してくれた侍女が下がると、カイルは口を開いた。
「ルミネージュ王国に?」
子供の頃にイリース王国の歴史と一緒に同盟国や友好国について学んでいるため、知らないわけではない。
ルミネージュ王国は北部に位置している国で、イリース王国とは長い間友好関係にある。
カイルは王太子だから、外交の仕事で行くことになったのだろう。
でも、そこに何故私が?
「ルミネージュの王女がシャルルの婚約者に選ばれたんだ」
王族の婚約は早いと聞いていたけど、シャルルはまだ六歳。私とカイルは九歳のときだったのに…
国のためとはいえ、六歳で婚約なんて少し可哀想にだな。
「今回は正式な顔合わせとかではないのだけど、今後のことも考えて、パトリシアも会っておく必要があると思ってね」
…いや、まだ結婚しているわけでもないのに、一緒に行って大丈夫なのか?
それに隣国の王族に謁見なんて…あぁ、何か急に胃が痛くなってきた。
「まだ少し先になるから、ゆっくり考えてほしいな。無理にとは言わないから」
カイルはそう言った後、話題を変えた。
「パトリシア、カイル様とルミネージュ王国に行くことになったんだったね」
ん?あれ?私はまだ返事をしていないのだけど…
カイルとのお茶会の翌日。お父様に呼ばれて、書斎に入ると開口一番にそう言われた。
「カイル様にはまだお返事はしてなくて、私自身もまだ迷っていて…」
迷ってはいない、行かなくてもいいなら行きたくない。
私がそう言うと、お父様はキョトンとした顔をした。
「あれ?パトリシアなら行きたいと言うと思っていたんだけど」
「え?」
「ルミネージュ王国は実力主義の国だから、性別関係なく騎士団に入団できるんだ。それにシャルル様のご婚約者様は次期女王だよ」
次期女王ということは、シャルルは王配となるのか。
実力主義か…
「女騎士…」
カッコいいんだろうな…手合わせしてみたいな。
「行っておいで、勉強になると思うよ」
お父様はそう言って笑うと、私の頭を撫でた。
そうと決まれば、カイルに手紙を出さないと…
「お姉様、カイル様と隣国へ行くんですよね?」
「ええ、勉強のために」
お父様から聞いたのかな?一カ月程会えなくなるわけだから、聞いていてもおかしくないか。
「あの…お姉様の侍女として、私もお供させてください」
アリシアは、真剣な顔で私の手をギュッと握ってそう言った。
私の判断で連れて行っても良いのかな?それに侍女としてって大丈夫かな?
「えーっと」
「姉さん、僕も一緒に連れて行って欲しいんだけど、駄目かな?」
いつの間にかセシルまで…
「駄目ですか?」
アリシアのキラキラとした上目遣い、セシルの困ったような不安そうな顔。
くっ…私には断るなんてできない。
「…カイル様に聞いてみるわね」
後日、カイルがフローレス邸にやって来た。
「まあ、なんとなく分かってはいたけど」
「駄目ですか?私は二人が来てくれると心強いのですが」
「…そんな顔をされたら断れないよ。それにどちらにしろ、侍女は連れて行くつもりだったからね」
良かった、断られても仕方ないと思っていたけど、慣れない土地でカイル以外知らない人との旅なんて、二、三日ならまだしも一カ月近くだと思うと…
「日程等が決まりましたら、僕に連絡してください」
「お姉様、私がお着替えから、ご入浴までお手伝いさせていただきますね」
セシルは私とカイルの前にわって入り、アリシアは私の手を握ってはしゃいでいる。
「言っておくけど、君達は従者として連れて行くだけだからね。私とパトリシアの邪魔だけはしないでほしいな」
邪魔って何のことだろう。
「お姉様、カイル様はお兄様とお話ししていますし、私達は行きましょう」
「そうね」
ルミネージュ王国同時刻
「この方が私の婚約者…」
イリース王家の肖像画の写しをうっとりと眺める少女。
齢十二の少女の名はフローラ=ルネ=フリージア。
ルミネージュ王国第二王女にして、次期女王。
「いえ、フローラ様そちらの方はカイル王太子殿下です。その隣の方がシャルル殿下、フローラ様のご婚約者様です」
「カイル様…素敵。決めましたわ。私、彼と結婚します」
「カイル王太子殿下にはすでに、ご婚約者様が…今回もその方とご一緒に…」
「まだ結婚していないなら、私でも問題ないでしょ。うふふ、お会いするのが楽しみだわ」




