兄妹と酒
アリシアの誕生日会も終わり、部屋で休んでいると、勢い良く扉が開いた。
「お兄様、私とお酒を飲んでください!!」
姉さんには釘を差していたから、姉さんがアリシアとお酒を飲んでいないことに安心していたが…
まさかアリシアが僕の所へ来るとは
「面倒くさいから嫌だ」
「これからお姉様とお酒を飲む機会があったときに、恥をかきたくないんです」
多分そんな機会は来ないだろう。アリシアが恥をかく前に、姉さんが恥をかくことになるだろう。前に僕が不在のときにエリオット様達の前で、酔ってエレノアに求婚していたらしいし…
でもまあ、誕生日だし今日くらいは付き合ってあげるか
「仕方ないな」
僕とアリシアは、リビングへ移動した。
途中でライラと会い、グラスとお酒を用意するように頼んでおいたおかげで、リビングに着くとすぐに、運ばれてきた。
「わくわくしてきました」
アリシアは僕がコルクを抜いている横で、そわそわし始めた。
「具合が悪くなったら飲むのやめろよ」
グラスに注ぎ、アリシアに渡すと、こくこくと頷いた。
「わぁ~甘くて美味しいです。いくらでも飲めちゃいそうです」
水でも飲むかのような勢いで飲み干した。
「おい、もう少しゆっくり飲め」
「お兄様は飲まないのですか?」
「飲んでいるだろ」
アリシアのペースが早いだけで、僕は普通に飲んでいる。
「お姉様とデートした日の事ですが…」
アリシアは三杯目に入りながら、話を始めた。
「私、お姉様と食べさせ合いっこをしたんですよ。それからおそろいのブローチを頂いたんです」
いつもの自慢話だった。アリシアは姉さんに褒められたとか、姉さんに貰ったとか、事あるごとに僕に自慢してくる。
姉さんはアリシアだけを贔屓しているわけではない、僕の誕生日のときもデートしてくれたし、食べさせ合いではないけど、食べさせてもらったし手だって繋いだ。
だから、そんな自慢話を聞いても別に何とも思わない。
「なんですか、その反応。まあ、お兄様もお二人でお出かけしたことがありましたものね」
アリシアは不貞腐れたように言った。
「…でも、カイル様はお姉様と街でデートなんてした事ないんでしゃうね」
カイル様は王族だし、無理だろう。姉さんが王宮へ行くときもお茶するだけらしいし
「ふふふ、婚約者なのに何だか可哀想ですね」
アリシアはニヤニヤと笑みを浮かべる。全然可哀想だなんて思ってなさそうだ。
弱いのでは?と心配していたが、アリシアは意外と強いようでボトルを一本空けて、二本目に入った。
一応合間で水を飲ませてはいるが、今のところ酔っている様子はない。
「お姉様は、好きな人…いるんですかね」
「さぁどうだろうな」
…姉さんは僕達の想いに気づいているのだろうか、気づいていても気づかないふりをしているのか。いや、気づいていないんだろうな。
カイル様のアプローチもサラリとかわすし、キスだって挨拶だと思っているぐらいだ。
僕が何をしても、許されるのは可愛い弟が甘えているとしか思っていないからだろう。
それでも、少しずつ意識はしてもらえているように思える。
「お兄様、頑張ってください。私はお兄様にならお姉様を任せられます」
アリシアが僕を応援するのは、姉さんをこの屋敷に留めさせておくためだろう。
ただ、姉さんがカイル様の婚約者である限りは…
「僕だって、カイル様達に負けるつもりはないよ」
できることなら姉さんと結婚したい。姉さんは僕が幸せにしたい。姉さんは僕とアリシアが幸せなら幸せだと言ってくれた。
僕の幸せは、姉さんが隣にいてくれることが前提だから
「わ、私が…お姉様と……結婚したかった」
アリシアは突然ボロボロと涙を落とした。
「何で私は…女の子なんでしょうか……何で私は、お姉様を好きになってしまったのでしょう…」
アリシアが姉さんの事を、恋愛対象として好きだということは知っていたが、こんなに思い詰めていたとは思わなかった。
「まあ、飲みなよ」
気の利いた言葉なんてかけられないから、とりあえずお酒を勧めることしかできない。
顔をぐしゃぐしゃにしたアリシアは、グラスを持つと一気に飲み干した。
「なんなんれすか、どいつもこいつも…おねえさまがおやさしいからった、かんちがいして…」
グラスを勢い良くテーブルに置くと、ボトルを掴んで注ぎ出した。
「らいたい、おねえさまもおねえさまれす。かわいらしいえがおをふりまきすぎなんれす。あのえがおはわたくしにらけむけてくれればいいんれす」
アリシアは飲んでは、注いでを繰り返している。そろそろ止めないと…
「おにいさま、ぜんれんのんれないじゃないれさすか」
アリシアは僕のグラスにもお酒を注ごうとしている。僕はグラスを除ける。
「なんれすか?わたくしのおさけがのめないんれすか?」
アリシアはお酒に強いけど、酔うと面倒くさい。
姉さんはあんなに可愛い酔い方をするのに…
『私も大好きよ』
可愛かったな。酔った姉さんを知っているのは僕だけなら良かったのに…って今はそれどころではない。
「もう終わりだ、寝ろ」
グラスを奪ってテーブルに置き、アリシアを小脇に抱えるも、アリシアは手足をジタバタとさせて暴れている。
「まだまだ、よるはこらかられすよ。もういっぱいのませてくらさい」
喧しい、女じゃなかったらその辺に放置したんだけどな。
「姉さんが今のお前を見たら驚くだろうな…」
アリシアは僕の言葉を聞いた途端、手足をバタつかせるのをピタッとやめた。
「お前とお酒を飲みたいとは思わないだろうな」
続けて言うと、アリシアは慌てだした。
「お、お兄様早くお部屋に連れてってください。お姉様に軽蔑されたら私生きていけま……でも、誰にでもお優しいお姉様から唯一人、蔑まれるのも特別感があっていいですね」
ついさっきまで、呂律が回っていなかったのに急に流暢に話始めた。
「私、お姉様になら虐められるのも悪くないです」
特殊性癖過ぎないか…
アリシアの部屋に着き、ベッドに適当に降ろして部屋を出た。
姉さんもだけど、アリシアは社交の場でお酒を飲ませるべきではないな。




