108 悪役令嬢と人助け
アリシアをベンチに座らせて、休ませている。
荷馬車に目をやると、荷台の荷物は崩れていないようだ。良かった…あれ、女性がへたり込んでいる。周りの人は見て見ぬふりをしている。
「アリシア、そこで少しだけ待っていて」
「え?はい、分かりました」
私は走って女性に駆け寄る。
「大丈夫ですか?…足、怪我してますよ」
少し擦りむいてはいるけど、馬車に引かれたわけではなさそうだ。
「大丈夫です」
「いえ、すぐに手当てをしましょ…」
あれ?この顔どこかで見たことが…いや、とりあえず早く手当てをしないと
「少し失礼しますね」
私は女性の膝裏に手を入れて、もう片方の手を背中に回した。
お姫様抱っこをして、アリシアの座っていたベンチへ向かう。鍛えておいて良かった。
「パトリック様…そちらの女性は」
「怪我をされているみたいだから、手当てをしようと思って」
「わぁ、痛そうですね」
アリシアは擦り傷をチラッと見て、すぐに目をキュと瞑った。
「靴を脱がせても大丈夫ですか?」
女性は俯きつつも、こくこくと頷いた。
私は片膝をついて、女性の怪我をしている方の足から靴を脱がせて、自分の足に乗せた。
「腫れてはないようですね」
擦りむいてはいるけど、血は出ていないみたいだし良かった。
「手当ては終わりましたが、護衛や迎えは来てますか?」
「護衛はつけていませんが、迎えはもうじき来ます」
それにしても、見覚えがある顔なんだけど、誰だっけな。
「では、もう少しここで休んでいてください。私は騎士達に話しておきますので」
私が手当てをしている間に、騎士達が御者に事の経緯を説明していたようだから、私も一応報告をしておこう。告げ口みたいになってしまうけど、貴族の令嬢が怪我をしてしまった以上致し方ない。
「アリシア、彼女をお願い」
「はい、お任せください」
無事に報告も終わり、ベンチへ戻ると丁度女性の迎えが来たようだった。
「迎えが来たようですね。足元にお気をつけて」
「あ、あの…私、エイミー=ナイセルと申します。今度、何かお礼をさせてください」
女性は深々と頭を下げた。
エイミー=ナイセルか…ナイセル?ナイセルってあの…ナイセル伯爵令嬢!?
帽子をかぶっていたのと、俯いていたのもあってあまり顔を見ることはできなかったけど、本人に違いない。
「…パトリック様?」
アリシアが不安そうな顔で私を見上げている。
「アリシア、ごめんなさい。せっかくの二人でのお出かけだったのに、ベンチで待たせてしまって」
「いいえ、私は困っている人に手を差し伸べられる。そんな素敵な人とデートができるだけで嬉しいです」
デートだなんて…でも、まだ時間もあるし今からアリシアとの時間を楽しもう。
「ありがとう。次はどこに行こうか」
私がアリシアの頭を撫でると、アリシアはパァッと可愛らしい笑顔を向けてくれた。
「あちらの宝飾店に行ってみたいです」
と言われ、お店に入るとやはり男性やカップルが多かった。
アリシアとは、お酒を飲めないし、何かアリシアの欲しいものをプレゼントしよう。
「欲しいものはある?」
「あの、おそろいでブローチが欲しいです」
今年はおそろいでと言われなかったから少し寂しかったけど、アリシアは相変わらず、私とおそろいにすることのが好きなようで良かった。
「こちらとこちらの色が良いです」
アリシアが選んだのは、青色の石と黄色の石のブローチだった。この色は…
「青色が私で、黄色はアリシアかな?」
「はい、お互いの瞳の色でおそろいにしたいです。駄目ですか?」
こんなに可愛らしい、うるうるとした瞳で見つめられて、断れる人間はいるのだろうか…そもそも断るなんて考えは一切ないけど
私はお会計を済ませて、ブローチを受け取りお店を出ると、アリシアは鼻歌を歌いながら、スキップをしている。
「アリシア、私から離れないで」
可愛いけど、今は腕も組んでいないし危ない。
「きゃっ…ごめんなさい」
早速誰かにぶつかっている。
「あれ、アリシア?」
「ミシェル様」
アリシアがぶつかったのはミシェルだったようだ。
「そちらの方は…」
もしかして、気づかれていない?
「もしかして、トリひゃふぁん」
私は慌てて、ミシェルの口を手で塞いだ。普通に気づかれていた。
「ごめんね、でも何でそんな格好を?」
「アリシアが、男の人に声をかけられないようにするために」
「そっか、可愛さが隠しきれてないからすぐに気づいちゃった」
私はミシェルに頭を撫でている。
「僕は、姉さんの買い物の付き添いで…そろそろ戻るね」
ミシェルは手を振って、走っていった。
やっぱり、知り合いには簡単にバレるのか…短髪のウィッグも用意しようかな。
帰りの馬車では、ずっとアリシアは私の手を握っていた。
「お姉様、今日は本当にありがとうございました。でも、今度は私が男性の格好をしますね」
「ふふっ、楽しみにしているわ」
アリシアは可愛いから、男装をしても男の人には見えなさそうだな。




