107 悪役令嬢は義妹と出かける。
あと一週間で、アリシアは十五歳の誕生日を迎える。
今年は、一緒にお出かけしたいという可愛らしいお願いをされたので、貴族街に出かけることにした。
警備もしっかりしているはずだから、安全だろうとお父様からの提案だ。
でも、正直心配だ。アリシアは可愛いから、沢山の男性に声をかけられてしまうんじゃないかと…
そこで私は考えた…
「はわわ、お姉様美しいです。男性の格好もとてもお似合いです」
私が男装をして、アリシアのエスコートをすればいいのでは…と
「髪は低い位置で結びましたし、ローブを羽織れば大丈夫そうですね」
マリーは何故か張り切って、協力してくれた。
軽い気持ちで言ったのに、サラシを巻いてくれたり、ウエストを細く見せるためのコルセットで、内側にタオルを入れてくびれを隠してくれた。
短い髪のウィッグは持っていなかったし、ウィッグの髪を切るのももったいないため今回は地毛のままにした。
「あとは歩き方をもう少し意識したら…見えないことも……」
レーネは何とも言い難いといった顔をしている。
まあ、身長はアリシアより十センチぐらいは高いし、アリシアの隣を歩いていれば男性に見えそうな気がするんだけど…
やっぱり、無理があるのかな?
「少なくとも、男性はそのような顔しないでしょうね」
そのような顔って?
「もう少し、表情に気をつけてください」
私はレーネに、ローブのフードをかぶせられた。
そうか、もう少しキリっとした顔を意識したほうがいいのか
アリシアと一緒に、エントランスへ向かうとセシルが見送りに来てくれた。
「へぇ…何か、若い頃の父上に雰囲気が似ているね」
「本当?男の人に見えるってこと?」
親子だから当たり前だけど、私はお父様似なんだな。
「今ので、男の人に見えなくなったよ」
「え?」
「良いんです。男の人に見えなくても、私と一緒にお出かけしてくれるだけで、私は幸せですから」
アリシアが私の腕にギュッと抱きついてきた。
「ふーん、まあ、気をつけて楽しんできてね」
セシルが軽く手を振った。
「ええ…じゃなくて……ああ、行ってくるよ」
私も手を振り返すと
「…大丈夫かな?」
と言うセシルの声が聞こえた。
馬車に乗ってからは
「お姉様と二人でお出かけなんて嬉しいです」
アリシアは足をバタバタさせながら、私の腕に掴まって肩に頭を乗せている。
可愛い、街に行くのが余程楽しみだったんだろうな。
「そうです、街に着いたらお姉様ではいけませんよね。お兄様?もおかしいですし…」
そういえば、セシルと二人で出かけたときも呼び方の話をしたな。別にお兄様でも私は構わないけど
確かパトリシアの男性名は…
「…パトリック?」
「パトリック様…いいですね。えへへ、早く街に着いてほしいです」
アリシアは気に入ってくれたようだ。
「わぁ~賑わっていますね」
貴族街というだけあって、カフェではご令嬢達がお茶をしていたり、宝飾店には悩ましげな顔で女性用のアクセサリーを吟味している男性が見えた。
「そうだね、アリシアの見たいものから見ていこうか」
腕を組んでいるし、このまま離れなければアリシアが男性に声をかけられることはないだろう。
「パトリック様、あちらのお菓子を食べてみたいです」
アリシアが指差す先にあったのはクレープ屋さんだった。
「いいよ、行こうか」
アリシアはスキップ交じりの足取りで、私の腕を掴んだままお店の前に向かう。
「わぁ、いちごのクレープ美味しそう。あっ、おね…パトリック様チョコレートのクレープもありますよ。チョコレートも美味しそうですね」
クレープだけでこの喜びよう。アリシアは本当に可愛いな。
「アリシア、私はチョコレートのクレープを頼むから、後で一口交換しようか」
私がそう言うと、アリシアはヘッドバンギングのように勢い良く頭を縦に振った。
「美味しいですね」
クレープを受け取り、ベンチに座って食べている。
アリシアは満面の笑みを浮かべ、クレープを頬張っている。リスみたいで可愛いらしい。
「アリシア、こっちも食べて良いよ」
「…美味しいです。私、幸せ過ぎてもう死んじゃいそうです」
大げさに思えるけど、アリシアが幸せそうで良かった。
「次は…」
「危ない!!避けてくれ!!」
声に驚いて、振り返ると荷馬車がこちらに向かって突っ込んできていた。
私はアリシアの腕を引いて、アリシアを庇うかたちで壁に寄った。
荷馬車は無事に停まったようだ。輓馬が興奮して突っ込んでいったところを何とか御者が止めたようだ。
「アリシア、大丈夫?」
「ひゃい…大丈夫でしゅ」
私が離れると、アリシアは顔を真っ赤にしていた。
「少し休憩しましょ…しようか」
うっかり、普段の口調に戻りかけてしまった。
私はアリシアを連れて、再度ベンチへ向かった。




