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104 悪役令嬢は嗜める。

騎士団の制服を着て、稽古をするようになって五日経った。

今までの訓練着とは違い、少し重たくて動きにくさを感じるため、体力と筋力をつける必要がある。

今日の稽古は終わり、走り込みにでも行こうと訓練場から出ると

セシル達がこちらを見ていた。いつから、いたんだろう。

セシルがエリオットとミシェルを招待するなんて、珍しいと思っていたけど、何で訓練場へ?

それにカイルも…


「トリシャちゃんお疲れ様」

ミシェルがタオルを持って、駆け寄って来た。

「ありがとう」

タオルを受け取って、汗を拭いていると

「姉さんはこのあと何かするの?」

「走り込みに行こうと思って…」

「そっか、これから一緒にお茶でもと思ったんだけど、別の機会にしよっか」

せっかく誘ってくれたのに、断るのも申し訳ないな。

「私も一緒にお茶したいから、今日は終わりにしようかな。でも、汗がすごいから着替えてから…」

今の私は絶対臭う、一刻も早くお風呂に入りたい。

「大丈夫、良い香りするよ」

ミシェルが私の首に腕を回して顔を近づけた。

「ちょっと…ミシェル」

「トリシャちゃん、首の跡は大丈夫?」

ミシェルが私の耳元で囁く。

「ええ、もう大丈…」

今ミシェル、首の跡って言った?だってあのときは怪我だと思っていたはず

「な、何で…」

「カイル様が言ってたよ」

は?何でミシェルにそんな恥ずかしいことを…信じられない。


「ミシェル、パトリシアから離れようか」

カイルがミシェルの首根っこを掴んで、私から引き剥がした。

ミシェルは大丈夫とは言っていたけど、やっぱり匂いが気になるから助かった。

でも、ミシェルに余計なことを言ったのはカイルなんだよな。



「僕達は、応接室にいるから」

「ええ、私も着替えたらすぐに行くわ。……カイル様少しだけお時間よろしいでしょうか」

「良いよ。どうしたの?」

セシル達が見えなくなったのを確認したあと、私はカイルに詰め寄る。

「何でミシェルに言っちゃうんですか」

「ミシェルが、パトリシアが首に怪我をしているって心配していたから、私がつけたものだから大丈夫だよって伝えてあげたんだ」

カイルはあっけらかんとした様子で答えた。

「誤魔化してくれてもいいじゃないですか」

本当にデリカシーがないな。ミシェルやセシルはなんとも思っていないだろうけど、見た人によっては体の関係を持ったと思われる可能性があるのに…

「ふふ、パトリシアは怒ってても可愛いね。そんなことより、今は二人きりだよ」

敬語と敬称をやめて欲しいと言いたいんだろう。

そんなことよりって…腹が立ってきた。

「そうですね、二人きりですね。王太子殿下」

「…ごめんね。私が悪かったから、名前で呼んでほしい」

ここで名前を呼んだら、反省とかしなさそうだな。

「王太子殿下は、私がエレノアやステラに「カイル様につけられたの」って言いふらしてたら嫌じゃありませんか?」

「……いや、むしろ嬉しい。もう消えちゃった?もう一度つけても良い?」

何でそうなるんだ。ようやく消えたのに、もう一度つけられてたまるか…

そういうことに興味のある年齢なんだろうな。それに、婚約者になら何しても良いとでも思っているんだろう。

「駄目に決まってます。婚前なのに、はしたないと思われるんですよ。それに反省してないですよね」

「…婚前、そうか婚前…ふふ」

カイルは口元に手を当てながら、何かブツブツと言っている。


「はぁ、もういいです。私は着替えてきますから、王太子殿下は応接室へ…」

このままじゃ埒が明かない。とりあえず着替えに行こう。私はカイルに背を向ける。

「ねぇ…本当に反省しているから、その呼び方はやめて…」

カイルが後ろから抱きしめてきた。少し声が震えている。

この前も思ったけど、カイルも意外と寂しがりだったり、甘えん坊なのかな?

「…カイル、分かったから離して」

顔は見えてないけど、声色で落ち込んでいるのは分かる。甘いかもしれないけど、許してあげるか…

それに、うっかり忘れかけていたけど、私は汗臭い。早く離れてほしい。

「パトリシア…」

カイルの声はさっきまでとは打ってかわり、明るくなった。

カイルに背を向けていた、私の体を向き直らせて抱きしめてきた。

離してって言った意味を、まるで理解してない。


「着替えに行くから、離して」

「もう少しだけ…」


人通りのない廊下とはいえ、見られたら死ねる。

私はカイルの頭を撫でて、なだめる。

もう、カイルの鼻が詰まっていることを祈るしかない。



ああ、早くお風呂に入りたい。



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