忌々しい存在
珍しく、セシルから手紙が届いて、僕はフローレス邸に招待された。と言っても招待されたのは、僕だけではなかったけど
「あれ?ミシェルもセシルに呼ばれたんだ」
「うん、ってことはカイル様も来るのかな?」
正直来なくていいけど…
先日、トリシャちゃんに会いに行ったとき、トリシャちゃんは首の怪我を隠していた。僕は心配で、トリシャちゃんの服を脱がせようとしてしまい。恥ずかしい思いをさせてしまった。結局、怪我の具合を知ることはできなかった。
僕は、カイル様へ手紙を送り、会う約束をした。
「君から手紙が来るなんて、一体何の用かな?」
僕は、カイル様に怪我を治す力があることを知っている。
それを知ったのは、僕達が社交界デビューをした年のこと。
トリシャちゃんが、ポリーとかいう女に馬鹿にされたとき、怒りのあまり拳を握りしめたせいで、血が出てしまった。痛みとかは感じなかったから、放置していた。
すると、カイル様が突然僕の手に触れてきた。気持ち悪いから、手を振り払おうとしたら柔らかな光と共にじんわりと掌が温かくなった。カイル様が手を離すと傷が消えていた。
「君のためじゃない。パトリシアに余計な心配をかけさせないためだ」
カイル様はそう言って、怪我を治す力について教えてもらった。他言無用にと言われ、知っているのは僕だけだとも言われた。
だからこそ、トリシャちゃんが怪我をしているのが不思議だった。もしかしたら、カイル様が気づいていないだけかもしれないけど…
「先日、トリシャちゃんに会いに行ってきたんだ」
「そう、元気そうだった?」
応接室に通された僕は、カイル様の向かい側に座っている。
カイル様は足を組みながら、お茶を飲んでいる。
「…カイル様は気づかなかったの?」
「何の事?」
「トリシャちゃん、首に怪我をしていたんだよ。カイル様なら治してあげれたでしょ!!」
思わず、声を荒らげてしまった。
カイル様の顔を見ると、唖然としたあとにフッと笑った。
「あれは、怪我じゃないから大丈夫だよ」
怪我じゃない?トリシャはガーゼを当てていたのに?
口元に手を当てながら、嬉しそうな顔をしているカイル様に腹を立てていると
「じゃあ、何でトリシャちゃんは、首にガーゼを当てて隠していたの?」
「パトリシアは隠していたんだ…」
カイル様の、ニヤニヤが隠しきれていない表情にさらに腹が立つ。
「危ない事をしたパトリシアに、私がお仕置きでつけた跡だから」
カイル様がつけた?トリシャちゃんを傷つけたってこと?
「ああ、君にはまだ早かったかな?先程も言ったけど、怪我ではなくて口づけをしたときにできた跡だよ」
……口づけ?そのときにできた跡?ということはつまり
「は?トリシャちゃんになんてことを」
「私はパトリシアの婚約者だからね。それにしても、セシルよりも先にミシェルに気づかれるとは…」
なんてことがあったから、カイル様を見たら手が出るかもしれない。
「エリオット様、ミシェル様。お待たせしました」
エリオットと話していると、セシルがやって来た。
「セシルが俺達に手紙を送ってくるってことは、パトリシアに何かあったの?」
「はい、深刻な問題でもないのですが…とりあえず見てもらうほうが早いでしょう」
相変わらず、エリオットは察しが良い。
セシルに続いて、歩いていると訓練場へ着いた。
「あれは…トリシャちゃん!?」
トリシャちゃんは、フローレス騎士団の格好をして剣を奮っている。
自分よりも、体格の良い男が相手なのにも関わらず、軽い身のこなしで剣を捌いている。
カッコいい…トリシャちゃんは凛していて綺麗で可愛い子だと思っていたけど、剣を扱えるなんて、トリシャちゃんは本当に素敵な女の子だ。
「何で、そういう発想になっちゃうんだろう」
エリオットがつぶやくと、セシルがエリオットを睨んだ。
「エリオット様が、姉さんに何か言ったんですか?」
「いや、俺は相談を受けて…」
エリオットは困ったように言葉を続けようとしたが、聞き覚えのある声によって遮られた。
「そう簡単に護らせてくれないのがパトリシアらしいね…」
「カイル様!?何故ここに?招待した覚えはありませんけど」
「知っているよ。私はパトリシアに会いに来たんだ。まさか、私だけ招待しないなんて水臭いな、義弟君は」
呼んでもないのに来るなんて信じられない。トリシャちゃんが招待したわけでもなさそうだし、僕がカイル様から、トリシャちゃんを守らないと…




