103 悪役令嬢と制服
私は、お父様達に言われたことを、自分なりに考えた。
身支度を済ませ、訓練場へ向かう。
セシルから貰ったおさがりの訓練着は、首の跡を完全に隠してくれた。
自分の訓練着だと、少し動いただけで見えてしまうため、セシルのを着て正解だ。
訓練着を借りようと、セシルの部屋へ行ったときになんて説明しようかと考えていたが、バレてしまったため、言い訳を考える必要はなくなった。
あのときには、話せなかったため翌日の昼間に話をした。
本当は数日だけ、借りるつもりだったが、もう着れないからと譲ってくれた。
キスマークについては、マリーが薄くなってきているから、もう少しで消えそうだと言っていたから、それまでの辛抱だ。
「パトリシア様、その訓練着少し大きくないですか?」
フィルは準備運動をしながらそう言った。
セシルが三年前に着ていたものだが、確かに肩の位置や袖は少しダボッとしている。
「セシルのおさがりを貰ったの」
「通りで、見たことがあると思ったら」
サイラスが木剣を持ってやって来た。私とフィル、ダリルはサイラスから木剣を受け取ると、各々素振りを始めた。
「そういえば、クラウド副隊長とランドルフ隊長は?」
休憩に入り、二人の姿がないことに今更ながらに気づいた。
「お二人は団長に呼ばれて……噂をすれば」
騎士団の制服を着た二人がやって来た。クラウド副隊長は服装が変わっても変わらず、凛々しい佇まいだが、普段のランドルフ隊長とは違い制服を着ているとカッコよく見える。
「……カッコいい」
思わず声に出してしまった。まじまじと見ていたせいか、ランドルフ隊長と目が合ってしまった。
「パトリシア様、今私を見てカッコいいとおっしゃいましたか?」
ズンズンとこちらへ向かってきたランドルフ隊長は私の肩を掴み、そう言った。
「はい、騎士団の制服ってカッコいいですね。私も着てみたいな…なんて」
訓練着は軽くて動きやすいけど、騎士団の制服って重さとかどうなんだろう。
私の言葉に、ランドルフ隊長とクラウド副隊長は顔を見合わせた。
「団長に頼んで、ご用意いたしましょうか?」
「いえ、流石にそれは…」
制服だってタダではない。私の我儘で用意させるわけにはいかない。
「それなら、俺が入団したときに着ていたやつをお譲りしますよ。入団した頃は今のパトリシア様より背が低かったので、着られるはずですよ」
フィルが、今から持ってきますねと言って、走って行ってしまった。
「どうぞ、五回ぐらいしか着てないけど洗ってあるので綺麗なはずです」
ずいっと渡された制服は、汚れ一つない新品同然の綺麗なものだった。
「良いの?」
入団したときのものなら思い入れとかありそうだけど…
「着られないものを取っておいても仕方ないので、パトリシア様が着てください」
「ありがとう。早速、着てみるわ」
私はフィルから制服を受け取り、訓練場を後にした。
私は制服に袖を通す。ズボンのウエストは少し緩いが、ベルトをつければ問題はない。ただ、上着は少しでかい。まあ、着られないわけではない。
私は制服を着たまま訓練場へ戻る。
「やっぱり、少し大きかったですかね」
フィルが苦笑している横で、ランドルフ隊長は何故か目頭を押さえている。
「着替えてきますね」
私が踵を返そうとすると
「パトリシア様、少し失礼します」
クラウド副隊長が、私の足を持ち上げて、ズボンの裾を折った、それから上着の袖や、丈をサッと確認した。
「パトリシア様、着替えが済みましたら一度、制服をお貸しください」
私は着替えを済ませた後、フィルから貰った制服をクラウド副隊長へ預けた。
それから三日経った日。私は訓練着を着て訓練場へ足を運ぶ。マリーが言っていた通り、跡はもう分からないぐらいには薄くなったが、念のためセシルから貰った訓練着を着た。
「パトリシア様、お待ちしておりました」
訓練場へ入ると、クラウド副隊長が先日預けた制服を持って、私の元へ来た。
「着丈を確かめるために、一度着てみてください」
クラウド副隊長に促されるまま、私は着替えに戻る。
「おお…ぴったりだ」
この間着たときとは違い、着丈はぴったりになっている。クラウド副隊長が仕立て屋さんに手直しをお願いしてくれたのかな?
私は訓練場へ戻る。嬉しくて、足取りが軽くなる。
「良かった。着丈は問題なさそうですね」
「クラウド副隊長、ありがとうございます」
「いえ、夜なべした甲斐がありました。」
夜なべ?
「これ、クラウド副隊長が直してくれたんですか!?」
「クラウドは手先が器用だからな」
「俺もよく、取れたボタンを縫ってもらうんですよ」
へぇ、クラウド副隊長は手先が器用なのか、ボタンを付けるだけでなく、丈を詰めることもできるなんてすごい。
「すごい…お母さんみたい」
「……お母さん!?」
クラウド副隊長は、目を見開いて唖然としている。もしかして、声に出てた?
「ハハ、クラウドがお母さんで、そして、私がおとうしゃまか」
ランドルフ隊長が大笑いをしている。この人は、いまだに幼いときに言ったことをネタにしてくる。
「それなら、俺は年齢的にパトリシア様の兄ですかね?」
珍しく、サイラスも話に混ざってきた。
「それなら、俺もパトリシア様のお兄ちゃんですね」
言われてみると、サイラスとフィルは少し年の離れたお兄ちゃんって感じがする。
「ダリル、お前は付き合いが短いからパトリシア様の兄は語れないぞ」
「え?あ、はい」
ランドルフ隊長の発言に、ダリルはキョトンとしている。
「そんなことより、訓練…訓練を始めましょう」
このままだと、訓練どころではなさそうだ。
私は早く強くならないと…




