セシルとリック
エイベル子爵の一件のあと、僕に従者が付いた。
エイベル子爵の実子で、今回の被害者のリックだ。
それに関しては同情するし、僕の従者になった事に対しても文句はない。ただ、自由過ぎるのが問題だ。
僕の従者なのに、姉さんに会いに行ったり、姉さんのお世話を買って出たりと自由にしている。でも、仕事はそつなくこなすからか、誰も咎めない。
「セシル坊っちゃん、茶が入ったぜ」
「坊っちゃんはやめろって言っただろ」
リックは、僕のことを坊っちゃんと呼び、姉さんのことはお嬢と呼ぶ。
「何だよ、坊やの方が良かったか?」
この態度と言葉遣い。完全に僕のことを舐め腐っている。
「お前は、姉さんの前でもそんな態度なのか?」
「当たり前だろ。お嬢とは付き合いが長いからな」
ダリルの友人と聞いていたから、真面目な奴だと思っていたが…仕事ぶりは置いておいて、こんな軽薄そうな男だとは思わなかった。
今日はただでさえ、疲れているのにリックの相手をしている元気はない。
今日は父上の付き添いで王宮に行った。そして、運悪くカイル様に出会してしまった。
「可愛い義弟君のために、義兄さんは協力してあげたんだ。もちろん、それ相応の対価を頂かないとね」
本当はこの人には頼みたくなかったけど、姉さんを助けてもらったため文句は言えない。
「はぁ、僕にできることであれば…」
「では、パトリシアの外出禁止が解けたらデートに誘うけど良いよね?」
「それは、姉さんが良いと言ったら、良いんじゃないですか?」
僕が勝手に許可を出すものでもない。
「そう、なら手紙を出すけど、邪魔をするような真似はしないでね」
カイル様は、僕とアリシアが邪魔をしているのを知っている。僕達からしてみると、カイル様に邪魔をされているようなものだけど
「それにしても、セシルが私を頼ってくれる日が来るとは」
カイル様は感慨深そうに笑った。
好きで頼ったわけではない、それしか選択肢がなかったから仕方なくだ。
「まさか、今回の件にベイリー伯爵家も絡んでいたとはね」
僕が応接室で話していたとき、エイベル子爵の息子だと思っていた相手こそが、ベイリー伯爵だった。僕がもう少し調べていたら、姉さんがジェイク=エイベルに絡まれることはなかったのに
「ベイリー伯爵が捕まったのは、パトリシアがジェイクに自白剤を飲ませたおかげだからね」
「姉さんが!?」
姉さんが薬を作っていたことは知っていたが、自白剤も作っていたとは…
考えてみると、ベイリー伯爵は幾らでも言い逃れできたはずだ。だから、ジェイク=エイベルが自白したのは大きかった。
「ベイリー伯爵はエイベル子爵に協力するふりをして、切り捨てるつもりだったみたいだね」
ベイリー伯爵は元々、エイベル子爵家を潰すつもりだったようだ。お金を貸したり、人身売買を勧めたのも全てベイリー伯爵だった。
本来は取り引き場所へ子供達を連れて行くはずのところを、ベイリー伯爵の指示でエイベル子爵邸に賊が来たようだ。
僕達が早朝に向かっていなかったら、子供達はすでに売られていた可能性が高い。
僕がエイベル子爵の不正や借金の話で、時間稼ぎをしている間に、姉さんを危険に晒してしまった。僕は自分を許せない、僕の作戦のせいで…
「そういや、アンタら兄妹ってやけにお嬢にご執心だよな。気持ちは分からなくはないが、姉を見るような目じゃないというか…」
リックはしれっと、ソファに座りお茶を飲んで寛いでいる。
「まあ、僕もアリシアも姉さんと血の繋がりはないから」
アリシアと姉さんは一応再従姉妹だが、母上と姉さんの実母は従姉妹ではあるが、正確に言うと血の繋がりはない。母上は養子だったから
この話は、僕がフローレス家の一員になったときに、母上から教えてもらった。
「血の繋がりがないのに、仲が良いんだな…」
リックの表情が少し曇った。リックは実父と異母兄に酷い目に遭わされたのか
「まあ、父親の不貞の末にできた弟なんざ、嫌われても仕方ないが」
「……僕も、実の両親が亡くなった後、一時期叔父家族と生活していたが虐げられてきた」
リックとは少し違うが、気持ちは分かる。
「アンタも苦労してきたんだね。そんで、お嬢にはいつ惚れたんだ?」
先程まで、暗い表情をしていたくせに、急にニヤニヤした顔して聞いてきた。
「お前には関係ない」
「ふーん、それはどうだろうな。いやぁそれにしても、お嬢も隅に置けないな」
「それはどうだろうなとは、どういう意味だ」
まさか、リックも姉さんの事を?
「関係ないんだろ?俺はそろそろお暇するわ、じゃあな」
「おい、リック待て」
僕の制止も聞かず、リックは部屋を出ていった。
カイル様と姉さんのデートの件もあるのに、別の問題が発生してしまった。
あぁ、胃が痛くなってきた。




