100 悪役令嬢の五日間
外出禁止を言い渡されてから、みんなが友人達が遊びに来てくれるようになった。二日目はエリーゼ、三日目はエレノアが遊びに来てくれた。
二人共、今回の件については触れず、お茶を飲みながら他愛のない話をして終わった。
二人の耳に入っていても、おかしくないから気を使ってくれたのかもしれない。
四日目は、庭園で散歩をしていると、訓練終わりのダリルが来てくれた。
「パトリシア様、あの日以降バタバタしてお礼を言いに行くのが遅くなり、すみませんでした」
ダリルが深々と頭を下げる。
「顔を上げて、私が勝手にやったことだから気にしないで」
それに、感謝の言葉はすでに何度も聞いている。
「パトリシア様は本当に優しいですね」
顔を上げたダリルは、申し訳なさそうな顔をしている。
「俺は…パトリシア様の護衛騎士を辞めたほうがいいですよね」
「何で…」
もしかして、私の勝手な行動について行けなくなったとか?
「俺は護衛騎士なのに、パトリシア様を危険な目に遭わせてしまいました。だから…」
「私が勝手に取った行動の責任まで感じないで、私はダリルに側にいてほしいの、だから辞めるなんて言わないで」
私はダリルに逃げられないように両手を握る。
今のダリルには、帰る場所がある。でも、あんな夢を見たんだもの、せめて最終章を迎えるまでは私の目の届くところにいてほしい。
「……本当に俺で良いんですか?パトリシア様をお護りできなかった、俺で」
「ええ、ダリルでないと駄目なの。それに、何かあったら私がダリルを護るわ」
私のせいで、ダリルを死なせるわけにはいかない、死ぬなら私一人で十分。もちろん、タダで死ぬ気はないけど
「パトリシア様が俺を……って、俺が護られるわけには行きません!!」
私に護ると言われたのが、騎士としてのプライドに傷をつけてしまったのか、顔を赤くしてムキになったように言った。
「じゃあ、引き続き私の護衛騎士として側にいてね」
「…もちろんです」
五日目は温室にいるところに、ミシェルが来てくれた。
「トリシャちゃん、お土産に薬草持ってきたよ」
ミシェルがよもぎを沢山持ってきてくれた。よもぎは切り傷や擦り傷の止血に使えるから、ありがたい。
「ありがとう、ミシェル」
私はミシェルからよもぎを受け取って、作業台に置く。お茶を淹れようと準備をしていると、ミシェルが顔にかかってきた髪を耳にかけてくれた。
「ねぇトリシャちゃん、首怪我したの?」
カイルにつけられた跡のことだろう。見えないように、詰襟のブラウスを着ていたのだけど、ガーゼをあてていたのが見えたようだ。
「え、ええ…少しね」
「いつ?エイベル子爵の件があったとき?」
「そうだけど…」
「カイル様もいたんでしょ?怪我は見せなかったの?」
見せるも何も、つけた張本人なんだけど…どうせならこれも治してほしかった。
「まあ…大したことないから大丈夫かなって」
「僕に見せて」
ただの内出血だと思ってくれれば良いけど…やっぱり化粧で隠すべきだったかな、でも服が汚れちゃうし…
「大丈夫だから気にしないで」
「五日経ってもガーゼが取れないなら、ちゃんと診たほうが良いと思うよ」
流石、医者の息子、ミシェルは純粋に心配してくれているんだろう。しかし、見られるわけにはいかない。
ミシェルの手がブラウスのボタンを外そうとしている。
「ミシェル、その恥ずかしいから…やめて」
私はミシェルを押し退ける。医療行為だとしても、これは恥ずかしい。
「何で?……ご、ごめんね」
ミシェルが顔を赤くして、両手を上げて後ろに下がる。
「ううん、心配してくれたのよね。ありがとう」
「心配するのは当たり前だよ。トリシャちゃんは僕の大切な女の子だから」
ミシェルはニコッと笑った。
「トリシャちゃん、もし怪我が治らないようなら、ちゃんと言ってね」
そう言うと、ミシェルは私の首をそっと撫でた。
六日目は、ガーデンベンチに座っていると、エリオットが来てくれた。
「外出禁止なんだってね」
エリオットが私の隣に座った。
「明日までだけどね」
「隈ができてる。あまり眠れてない?」
エリオットは私の顔を覗き込み、下まぶたに指をあててきた。
「少し考えることが多くて」
結局、あの夢を見たのは一度だけだったけど、本来なら起こり得ることだからこそ、残りの時間をどうしようか悩んでいるところだ。それに、お父様に言われたことの答えも出ていない。
「私のやってることって、間違っていたのかな?」
「…何でそう思うの?」
「私ね、子供達を守るために、騎士達が来るまでの時間稼ぎで、賊の男達について行ったの」
「…パトリシアらしいね」
一瞬驚きの表情を見せたが、エリオットは穏やかな笑みを浮かべる。
「それで、一人が縄を取りに行っている間に、もう一人に蹴りを入れて、持っていた短剣で戦ったんだ。でも、戻ってきた賊に刺されそうになっちゃって、カイル様に助けてもらったの」
「そっか、本当に無事で良かったよ」
「でもその事で、お父様に自分の取った行動を見直すように言われたの」
間違った行動をしていないとは言い切れない、けどあのときはアレが得策だと思ったんだ。
「俺は、間違ってないと思うよ。子供達にこれ以上怖い思いをさせたくないから、賊から距離を置くために取った行動でしょ」
そこまで話していないのに、エリオットはすごい。何で分かったんだろう。
私がこくこくと頷くと、エリオットはフッと笑って、私の頭を撫でた。
「でも、危ない事をしたことには違いないから、そこは反省しなよ」
「フローレス公爵は、パトリシアが自己犠牲的な行動を取った事を言っているんだと思うよ」
「自己犠牲的?」
そんなつもりはないんだけど、今回は賊が二人だったから良かったけど、もしもの事を考えずに行動をしてしまったのに
「厳しい言い方をするなら、自分の身を守れないのに、人を助けようとするなってこと」
自分の身を守れない……確かに、私は自分一人でどうにかなると思っていたけど、カイルに助けてもらった。だから、お父様は……エリオットは間違ってないと言ってくれたけど、やっぱり私は愚かだったな
「…このまま、家に引きこもってようかな」
最初から、そうするべきだったんだ。村やダリルを救えたから、物語を変えられた喜んでいたけど、今回の行動で自ら死中に片足を突っ込んでいたとは…本当に馬鹿だ。
「パトリシア、俺はパトリシアが傷つく所は見たくないけど、誰かの為に行動できるパトリシアの事を、俺は、す……好ましく思うよ」
最後の方で何故か俯いてしまったが、エリオットは私のことを理解してくれてるんだな。
「ありがとう、エリオット」
これで悩みは一つ消えた。
まあ、まだ悩みの種をあるんだけど




