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リックの境遇

俺の母親は、エイベル家のメイドをやっていた。幼いときの記憶しかないが、母親はそこそこ美人だった。だからか、エイベル子爵に気に入られていたそうだ。

女好きのエイベル子爵が、俺の母親に無理矢理迫り、できた子供が俺だった。

俺は、異母兄に何かあったときのスペアとして、少しの間エイベル子爵邸で育てられた。

もちろん、母親には沢山の愛情を注いでもらったが、俺はジェイクや貴族の出の使用人達には、下賤な血と罵られ、母さんは誘惑したんじゃないかと、使用人達にいじめられていた。

悪いのはエイベル子爵なのに、何故、俺と母さんが虐げられなきゃいけないんだ。

何故、俺と母さんが肩身の狭い思いをしなきゃいけないんだ。

でも結局、平民の言葉なんかは、貴族の前では何の意味も持たない。

エイベル子爵は、心労でやつれてしまった母さんを身一つで追い出した。そして、俺は地下室に閉じ込められていた。

十歳になった頃、叔父を名乗る男が俺を地下室から助け出してくれた。俺は、叔父と共に母さんの故郷で暮らすことになった。

でも、すでに母さんは他界していた。

何もできなかった、俺が頑張っていれば母さんは死なずに済んだはず、俺が母さんをしっかり守ってあげられていたら…こんなことにはならなかった。


俺は貴族が大嫌いだ。平民を人とも思わないあいつらが……

だから最初は、パトリシアが村を救ってくれたのも、貴族のお嬢様が自己満足のためにやった偽善行為だと思った。

沢山の医者達が来たのに、全て無償だった。聞いた話によると、薬の特許を譲る代わりに無償で診察してほしいと、パトリシアが頼んでいたようだ。でも、あいつは見返りなんて求めなかった。

何を考えているのか分からなかった。貴族が見返りなしで善行を働くなんてあり得ない、そう思っていたからだ。


俺は間違っていた、パトリシアのおかげでそういう貴族もいることに気づくことができた。


ダリルがパトリシアの護衛になってからは、パトリシアとダリルは一緒に村に遊びに来るようになった。パトリシアはその度、子供達に菓子を配ったり、読み聞かせをしたり、大人達に薬や薬草を渡していた。

一度だけ、何故そんな事をするのか聞いたことがある。

「私の護衛騎士の故郷だから、大切にしないと、それにもしかしたら、お世話になるかもしれないからね」

と言ってパトリシアは笑った。

パトリシアは前に婚約を破棄されたときに、住まわせてほしいと言っていた。

こんなイイ女でも、婚約破棄されるなんてことがあるんだから、やっぱり貴族にろくな奴はいない。


侍女の格好で助けに来てくれたパトリシアを見たとき、本当に婚約を破棄されてしまったのだと思って少し焦ったが、俺達を助けるための変装だったと知って安心した。

自分の怪我の手当てもせず、俺達の手当てにあったっている様子はダリルの言葉を借りるなら、天使のようだった。

まさか、そんな天使が回し蹴りをしたり、剣を振るうとは思わなかった。

俺は、見ているだけで何もできなかった。パトリシアが刺されそうになったのに、声を上げることしかできなかった。パトリシアは貴族の男に助けられた。

俺はパトリシアを助けた貴族の男に言われて、男達を縛るとちょうど騎士達が来た。子供達は村へ帰されたが、俺は王宮に連れて行かれ事の顛末を説明することになった。ジェイクが自白してくれたおかげで、あっさり片が付いた。


今回の件で、俺はフローレス家の従者として雇ってもらった。と言っても、パトリシアの弟セシル坊っちゃん付きだけど

こき使ってやるって言ったのに、まさかこき使われる立場になるとは

まあ、俺はもう村には戻れないから金を貯めて、どこか遠い地で家を借りて養うぐらいはできるだろう。

「婚約解消されたときはちゃんと面倒見てやるから安心しな」

俺がそう言うと

「ふふっ、ありがとう。体力はあるから、沢山こき使ってくれて構わないわ」

パトリシアはあどけない顔で笑った。

本当にそうなったら、こき使ったりなんてするつもりはないけどな


その前に、俺はパトリシアより強くならないとな、ダリルに協力してもらうとするか



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