99 悪役令嬢とリック
「あの子の心に負った傷を、その身を持って味わえ」
あれはカイル……何故私に剣を向けて…早く逃げないと
身体が動かない…声が出ない……苦しい
「……い…おい」
誰かの声が聞こえる、私の身体を揺すっている。助けて……誰か
「助けて!!」
声が出たのと同時に、バッと身体を起こすことができた。
「うわっ、びっくりした。随分とうなされていたけど、大丈夫か?」
「ええ、夢見が悪かったみたい……リック!?」
聞き覚えのある声だったから、思わず流してしまったが、リックは従者の格好をして、私のベッドに腰を掛けている。
「俺はここで働くことになったからな」
なにそれ、全く聞いてないんだけど、昨日の今日でいきなり?
「子供達と村に戻ったんじゃ」
「いや、俺はもう村には戻れないからな」
リックは悲しげに笑った。
「……そっか」
リックがやった事ではなくても、リックの父親と異母兄がやった事だ。村の人達も分かっているはずだ、それでもリックは責任を感じているんだろう。
「あいつらは、全ての罪を俺に被せようとしてたんだ」
「どういう事?」
「人身売買ったら、女、子供を狙うだろ。そんな中俺も連れてきたのは、俺に子供達を売らせようとしたんだ」
そんな…おかしいとは思っていたけど、そういう理由だったなんて
「俺は運が良かった。本当は日没に取り引き場所へ連れて行かれる予定だったんだ。アンタらが来てくれたおかげで助かった、ありがとな」
リックはさっきとは違い、屈託のない笑顔を見せてくれた。
「リックも子供達も無事で良かった」
怪我をしていたから、無事ではないか
「傷は平気?もう痛くない?」
頬の腫れは引いたように見えるけど、まだ少し赤い気が…
「だ、大丈夫だ。俺の心配はいい、アンタは大丈夫なのか?」
リックが片手で私の顔を抑えている。これが、心配している相手にする行動なのか?
「少し悪い夢を見てしまっただけだから、本当に大丈夫よ」
それにしても、嫌な夢を見てしまった。……ただの夢だったのかな?それとも、予知夢?
「夢の話もだけど、昨日ジェイクに襲われそうになったろ?」
「何で知ってるの?」
カイルには話したけど、レーネには話していなかったから、誰から聞いたんだろう。
「あいつは侍女やメイドに手を出していたから……あのときの服も、ジェイクにやられたんだろ。俺のせいで怖い思いをさせてごめんな」
リックはいつもの軽薄さを感じさせない、真剣な表情をしている。
「全然平気、私のあしらいかたが悪かったのもあるから気にしていないわ。それに、私はジェイクを倒したのよ」
多分あしらいかたなんて、関係なかった。体術を習っていなかったら、どうなっていたんだろう。そう思うと、今更ながら身体が震える。
「ハハ、アンタは強いな。でも、無理して笑わなくていい」
リックが私の頭に、ポンと手を置いたあと、両手を広げた。
「リック様が特別に胸を貸してやるよ」
気持ちは嬉しいけど、打ち身とか酷かったはずだから
「ありがとう、気持ちだけ受け取っておくわ」
「こういうときは素直に甘えな」
「うわっ」
リックに腕を引かれて、抱きしめられた。
その勢いで、近くに置いていたベルが落ちてしまった。拾おうとしたが、がっしりホールドされていて動けない。
なんだろう、どこか懐かしいような。
「何か…お兄ちゃんみたい」
「はぁ?こんな色男に抱きしめられて、お兄ちゃんってアンタ…」
リックはブツブツと文句を言いつつも、私の頭を撫でながら、背中をさすってくれている。
お兄ちゃんなんていたことはないけど、お父様に抱きしめられたときと同じ、安心するというか、落ち着く感じ。
「お嬢様、お目覚めですか?……お嬢様から離れろ」
さっき、ベルを落としてしまったせいか、レーネがやって来た。
「お、嬢ちゃんも混ざるか?」
リックがニヤニヤしながらそう言うと、レーネの目が据わってきた。
「レーネ、違うの。リックは私がうなされていたのを起こしてくれたの」
私はリックを押し退けて、弁明する。
「起こしに来た人間が、何故お嬢様を抱きしめているのですか?」
「お嬢が怖い夢を見たって、抱きついてきたんだ」
しれっと、嘘をつきやがった。でも、ここで否定してお父様の耳に入ったら、リックは職を失って路頭に迷うかもしれない。
「…そうなの」
「そうだったのですね。でも、男性に抱きつくのはおやめください」
私が抱きついたわけではないけど、仕方ない。
「ならお嬢ちゃんが、抱きしめてやりゃあ良いだろ」
確かに、それなら問題ない。まあ、レーネがそんなことするわけないけど
「いや、私は……少しだけですよ」
レーネは少し目を逸らしながら、私のことを軽く抱きしめてくれた。
こんなに華奢なのに、私を持ち上げられる程の力がどこにあるんだろう。
「レーネ、心配かけてごめんなさい」
「…二度とあんな無茶なことはしないでください」
「肝に銘じます。それと、ついてきてくれてありがとう」
「いえ、次も何かあったら私もついて行きますから、必ず私にお教えください」
レーネは優しいな。でも、それは約束できないかもしれない。私が怪我をするのは自己責任だけど、巻き込んでレーネに怪我をさせるわけにはいかないから
「ありがとうレーネ。大好きよ」
「そういや、お嬢。頬の擦り傷みたいなの、どうした?」
頬の擦り傷?そんなの…ジェイクにキスされたときに強く拭い過ぎたときにできたのかな?
「傷が消えてますね。薬を塗ったのですか?」
傷が消えてる?……もしかして、あのときカイルが治してくれたのかな?だから、目を瞑れって言ったのか
「…ええ、すぐに塗ったから早く治ったみたい」
とりあえず、誤魔化したけど
あの拷問狂のカイルが…違う、今のカイルはまだ私のことを嫌っていない。だから、傷を治してくれたんだ。それなのに、何であんな夢を見てしまったんだろう。
昨日、お父様に言われたこともそうだけど、夢のことも考えないと




