96 悪役令嬢は便宜を図る。
私達と別の場所を、捜索していたダリルを見つけて駆け寄る。
「その格好どうされたんですが!?」
そういえば、私は服の胸元を破かれたままだった。結局、ジェイクのジャケットも羽織らなかったし
「それより、これ鍵を見つけたの」
「私が探した部屋は鍵のかかっている部屋はなかったわ」
私がそう言うと、レーネも頷く。
「俺が探した部屋で一部屋だけ、鍵がかかっている所がありました」
絶対そこだ!!
「急ぎましょう」
「ここです」
そこは玄関から突き当たりの部屋だ。
私が鍵穴に鍵を刺すとすんなりと入り、回すとカチャッと音がなった。
「開いた」
「俺が先に入ります」
ダリルが扉を開けると、そこには地下へ続く階段があった。
私とレーネはダリルに続いて、ゆっくり階段を降りる。
ひんやりと冷たい風が頬をかすめる。下へ進むと徐々に子供の泣き声のようなものが聞こえてきた。
「リック!!」
先に階段を降り終えたダリルの声が響く。
「…ダリル、何でお前が」
私も階段を降り終えると、そこには手足を拘束された子供達とリックがいた。
ダリルが縄を解いている、子供達は泣きながらダリルにすがりついている。
私はウィッグを外して、子供達に近づく
「お嬢様、何故…」
レーネの言いたいことは分かる。せっかく変装したのにって事だろう。
「良いのよ、顔見知りだからむしろこっちの方が安心するでしょ」
「あ、お姉ちゃんだ」
捕まっていた子供達の中で一番幼い、五歳の女の子サナが抱きついてきた。
「怖かったよね、もう大丈夫だよ」
こんなに小さい子供にも縄で縛るとは、私がサナを撫でていると、リックが目を見開いた。
「あんたまで、何でこんな所に」
「話はあと、手当てするからジッとしていて」
私はエプロンの下に隠していたポーチから、薬や包帯を取り出す。
「あんた貴族のお嬢様だったろ、何だってそんな格好…ってか、手当てよりもその服どうにかしろ」
捕まっていた割に元気そうだな。
「見苦しいのは承知の上だから、気になるなら目を瞑ってて」
元々顔を背けているから大丈夫だろうけど、やっぱりジェイクのジャケット、着ておくべきだったかな?でもあの香りだけで身の毛がよだつぐらい気持ちが悪い。
「まさか、本当に婚約破棄されたのか?」
前に話していたことを覚えていてくれたのか、リックが小声で言ってきた。でも、婚約破棄されて侍女になったわけではない。
「違うわ、今日はたまたまこの格好をしているだけ」
「ふーん、たまたまね」
リック以外は縄で縛られたとこが擦れて赤くなっていたが、大きな怪我はないようだ。リックは顔を殴られたのか、口の端が切れて頬が少し腫れていた。
「とりあえず、外に出ましょう」
セシルの作戦だと、私達がエイベル子爵邸に向かった後、騎士団が出動すると言っていた。外にさえ出れば子供達は保護されるだろう。
「でも、この人数で逃げるのは難しいのでは?」
確かに、大人が四人いても五歳から十二歳の子供達八人を連れて逃げるのは厳しい。それに、玄関の扉は部屋の扉よりも重たい作りだから、気づかれてしまうかもしれない。そうしたら、セシルの身も危ない。
「それなら、ここ」
リックが指差した方向は、一箇所だけ色の違う天井だ。
「こっからなら屋敷の外に出れる」
「でもが…」
「あれは簡単に外れる」
天井は低いため、ダリルが少し背伸びをして届く高さにあるそれは、リックが言っていたとおり、簡単に外れた。日の光が入ってきて、暗かった地下室は少し明るくなった。
「ダリルが先に出ろ。それでチビ達を引き上げてくれ」
「ああ、分かった」
ダリルがに手をかけて、腕の力だけで登る。
無事に外に出られたようで、上から手が伸びてきた。
私達で子供達を抱き上げて、ダリルに受け渡し、子供達は全員脱出できた。
「次はお嬢様が出てください」
レーネに抱き上げられ、ダリルが引っ張り上げてくれた。
「怪我はありませんか?」
「ええ、ありがとう」
「嬢ちゃんは俺が抱っこしてやろうか?」
「結構です。ダリル殿、早く手をお貸しください」
下でリックとレーネが話している。レーネは私より背は高いけど、天井に届くか届かないぐらいの背丈だ。リックに抱き上げてもらった方が楽な気がするけど、本人が嫌がっているなら仕方ない。
レーネとリックも無事に引き上げられ、みんなで屋敷の外へ出ることができた。
「騎士団がそろそろ到着するはずなんで、見てきます」
ダリルが立ち上がり、騎士団を探しに行った。
ダリルが行ってから少しすると、足音が近づいてきた。私達はダリルや騎士団でない可能性も考え、子供達を守る姿勢になる。
「おい、こいつらが商品か?」
ダリルでも騎士団でもない。無精髭に小太りの男達がやって来た。
「何で外に出てきてんだ」
「聞いてた話じゃガキだけじゃなかったか?」
この男達が人身売買の…でも、騎士団が到着しているなら大丈夫なはず
「ガキよりも高く売れそうなのがいるじゃねぇか」
私とレーネを見て気持ちの悪い笑みを浮かべる。
「レーネ、この子達をお願い。騎士団が来るまで時間を稼ぐわ」
レーネは驚いたように目を見開いたが、私は立ち上がる。
「私がこの子達の代わりになるわ、だからこの子達は見逃して」
どうせすぐに捕まるだろうけど、近くに男達がいるだけで、子供達も怖がってしまう。
「お嬢ちゃんがそこまで言うなら仕方ないな。その前にあっちの木陰で身体検査だ」
ニチャニチャとした気持ちの悪い笑みを浮かべた。
「おい、お前は縄を持ってこい」
一人は行ってしまったが、一対一なら何とかなりそうだ。私は男の後ろを歩いている。
相手は見た感じ腰に付けた短剣しか持っていないようだ。
…私も短剣なら持っている。
さっき、袖に移動させたからすぐに取り出せる。
みんなからもう少し距離を置いたタイミングで…今だ!!
「グワッ」
無精髭の男は気に頭をぶつけた。私は回し蹴りをした。ジェイクはこれで気絶したし…
「っ…ふざけた真似しやがって。このっ、クソ女」
しまった、気絶していない。無精髭の男は短剣を抜いて斬りかかってきた。
私も素早く袖から短剣を取り出して、男の剣先をかわす。男は剣を脅しの為に持っているだけで、ろくに扱えない様子。
私は男の短剣に向けて、斬りかかると短剣を手から離した。
「ひっ…」
私が短剣を向けながら近づくと、男は情けない声をあげながらへっぴり腰になっている。その隙に、男が落とした短剣を蹴り飛ばす。
後はもう一人が来る前に騎士団が来てくれれば…
「危ない!!」
リックの声が聞こえ、振り返るともう一人の男が短剣を持って迫ってきた。
まずい、この勢いだと避けられない…
「ぐはっ」
あれ?痛くない
「パトリシア、怪我はない?」
「カイル様!!」
何故カイルがここに!?いや、カイルのおかげで助かったのだけど、カイルは鞘に入ったままの剣で男の頭を殴ったようだ。
「私の婚約者に手を出して、生きて帰られると思うな」
カイルが鞘から剣を抜いて、無精髭の男に剣向けた。
これは色々とまずい気がする。




